新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

377: ヒメ

ヒメ目ヒメ亜目ヒメ科ヒメ属
学名:Aulopus japonicus (Günther)【注】
英名:Japanese aulopus [原], Japanese thread-sail fish, Japanese threadsail

『新訂原色魚類大圖鑑』によれば、アカエソ、オキハゼ、トラギス、トラハゼなどの地方名があるとのこと(但し標準和名で言うところのアカエソやトラギスなどとは当然別種なので混同なきよう)。今回紹介するのはは愛知県蒲郡市西浦産の全長約24.5cmの雄個体から摘出した「魚のサカナ」の標本。射出骨付き。写真右は、写真左の左側の標本から射出骨を除去し、反対側から観察したもの。さて「比女/姫のヒメ」の形状だが、肩甲骨と烏口骨本体がラグビーボールのような楕円形を作るという点においては、同じヒメ目のツマグロアオメエソのものとの共通性を見いだせるものの、基本的にはこれまでに紹介してきたヒメ目の「魚のサカナ」の形状とは大きく異なっていると言える。「魚のサカナ」の『背鰭』に相当する上方突起部分は『鎌』のような形状で大きく立ち上がり、また『尾』に相当する烏口骨の『嘴』部分は比較的直線的にかなり長く伸びている。肩甲骨孔は比較的大きめ。肩甲骨の後部下方と擬鎖骨との結合がかなり強いために、擬鎖骨から標本を外す時に肩甲骨の一部が擬鎖骨側に残ってしまい、写真で見られるように下部が抉れたような形になってしまう。

こちらは全長約23.5cmの雌個体から摘出した標本。擬鎖骨の結合が強いために、剥がれて抉れたようになる肩甲骨下部も含め、「魚のサカナ」の形状に雌雄差はほとんどないと思われる。



上の写真は左側に雄個体、右側に雌個体のものを並べてある。これらの個体は『日本産魚類検索 第2版』(『第3版』でも変更なし)の検索キーを辿り、1)背鰭は16軟条(写真下段左右)、2)側線鱗数は42(雄個体)と40(雌個体)、3)吻長は眼径とほぼ等しい(写真中段左右)、4)雄の背鰭前端付近の軟条は伸長しない(写真下段左)、6)鰓端数は22(雄個体)と20(雌個体)などの形質を確認してヒメの雄雌であると判断。また「固定された雌の背鰭前端付近には数個の暗色点が見える」(検索キーの一つ)とのことが、生鮮の個体を観察したためか今回この暗色点は確認できなかった。

雄個体の臀鰭には明瞭な黄色縦帯が存在する(写真上左)が、雌個体の臀鰭は全体が白色である(写真上右)。

2012年12月に愛知県蒲郡市にある西浦鮮魚マーケット組合の○河・河井商店で購入(ほぼ同じサイズのヒメが雄雌混じりで10匹以上盛られて200円)。そもそも産地消費がせいぜいといったところで、ほとんど流通しないと思われるが、流通した場合でも普通はすり身などに加工されるとのこと。今回の魚は鮮度的には全く問題なかったので、まずは一部を刺身に。身は少々柔らかく、小骨も少なくないが、咀嚼していると甘み旨味を強く感じる。特に旨味はかなり後まで口の中に残るほど。残りはフィレにして南蛮漬けに。小骨がほとんど気にならなくなり、また食欲をそそる香りもある。生の時に感じた強い旨味はやはり熱を通しても消えない。ネット上の評判は賛否両論であるが、個人的には美味い魚であると思う。


【注】FishBaseではヒメの学名をHime japonica (Günther)と掲載し、Aulopus japonicusをシノニムとして扱っている。

376: オオメハタ

スズキ目スズキ亜目ホタルジャコ科オオメハタ属
学名:Malakichthys griseus Döderlein
英名:Silvergray seaperch [原](FishBaseに英名表記なし)

地方名しろむつ(白むつ/三河湾)、しょうわだい(昭和鯛/尾鷲地方)、でんでん(沼津・小田原)など(ただし近縁のワキヤハタやナガオオメハタとほとんど区別されていない)。愛知県蒲郡市西浦産の全長約22cmの個体(故に店頭では「白ムツ」)から摘出した左右の「魚のサカナ」の標本。エタノール浸漬の時間が長過ぎたために少々黄変してしまった。写真右は、写真左の左側の標本を反対側から観察したもの。「大目羽太のオオメハタ」は、基本的にはこれまでに紹介してきたホタルジャコ科の「魚のサカナ」と共通する特徴を有しているように思われるが、1)肩甲骨と烏口骨本体が五角形に近い形になる、2)『背鰭』(烏口骨の上方突起部)の立ち上がりはあまり高くない、3)烏口骨本体後縁は垂直に立ち上がる、4)湾入部分の形状はあまり丸くないなど独特な部分も多い。また同じオオメハタ属のワキヤハタのものと比較すると、肩甲骨孔のサイズ、『背鰭』前縁および上縁の形状、烏口骨本体と『嘴』部(『尾』に相当)をつなぐ湾入部の形状、『嘴』部の太さなど、同じ属の「魚のサカナ」にしては比較的多くの相違点が観察できる。

「大目羽太のオオメハタ」の『背鰭』部は、上方から見ると大きく湾曲している(写真左)。また『嘴・尾』部の太さは一定ではなく、所々太くなっている(写真右)。

オオメハタの耳石はかなり大きく、最長部で1.2cmほどもある。



写真撮影時には『日本産魚類検索 第2版』のホタルジャコ科の同定の鍵を辿り、1)臀鰭棘は3本(写真下左の黄緑ローマ数字)、2)腹鰭棘の前縁はなめらか(写真下段左の緑四角)、3)肛門(写真下右の赤丸)は臀鰭起部(同青線)に近い、4)下顎先端に棘がある(写真中段右の赤丸)、5)臀鰭基底長(2.3cm/写真下左の赤線)は臀鰭最長軟条長(2.4cm/同青線)とほぼ同長、6)体高(6.4cm)は体長(18cm)の1/3以上、7)側線有孔鱗数は44(41~47)などの形質を確認してオオメハタであると判断。同書『第3版』では、2001年に下記の論文で新種報告されたヒゲオオメハタが追加された関係で検索キーが少々変更されたが、5’)下顎先端の1対の棘を除いて棘はない、6’)臀鰭基底は短い、7’)体高は体長の約36%、8’)側線有孔鱗数は44(42~49)という形質から、やはりオオメハタであると判断した。標準和名に「ハタ」と付いているが、スズキ目スズキ亜目ハタ科の魚とは遠縁なので混同なきよう。

Yamanoue, Y. and K. Yoseda, 2001. A new species of the genus Malakcihthys (Perciformes: Acropomatidae) from Japan. Ichthyol. Res. 48(3):257-261. PDF(ダウンロードには要アクセス権)

2012年12月に西浦鮮魚マーケットの石川商店で購入。ワキヤハタが大小13匹盛られた木箱の中に1匹だけ混じっていたもの。写真からも分かるように最高の鮮度とは言えない状態だった(前日の水揚げ分か?)が、その分値段は安く計14匹で300円。そのため刺身で食べることは最初から諦めて塩焼きに。適度な食感があり、旨味もなかなか含まれており美味。当日はワキヤハタの塩焼きと食べ比べたが、両種の食味はほとんど変わらないような印象(ただしメモを残すのを忘れてしまったので、あくまで「記憶の上では」だが)。

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【オオメハタとワキヤハタの見分け方】

写真左は、本稿のオオメハタ(上)と、同じザルに盛られていたほぼ同サイズのワキヤハタ(下)を比較したもの。ほぼ同サイズのワキヤハタと並べた場合は、標準和名通りのオオメハタの眼の大きさが良く分かる(写真右)が、鮮魚店の店頭などで1匹だけが売られているような時にその絶対的な眼径を判断するのはなかなか難しいと思われる(写真下中段左右参照)。

そこで注目すべきは、臀鰭の基底長(写真下の下段左右の赤線)と最長軟条長(同青線)の比率。ワキヤハタでは臀鰭基底長がかなり長く、また臀鰭最長軟条長が短いために、全体的にかなり細長い印象を与えるのに対して、オオメハタでは基底長と最長軟条長がほぼ同長であることがご理解頂けるはず。また下顎棘は両種とも1対のみ(ただしこの写真のワキヤハタでは、下顎棘が折れてしまっているために短い)。

オオメハタ
ワキヤハタ
全体
頭部
下顎棘
臀鰭

日本産オオメハタ属魚種の見分け法は以下の通り。下顎先端付近に多くの棘(13対ほど)があり、主鰓蓋骨の2棘間にシミ状の暗色斑があればヒゲオオメハタ。下顎先端付近の棘が1対で、臀鰭最長軟条長が臀鰭基底長の70%未満(最長軟条長より基底長の方が明らかに長い)であればワキヤハタ。臀鰭最長軟条長が臀鰭基底長の90%より長い(最長軟条長と基底長がほぼ同じ)ようであれば、あとは体高が高く(体高は体長の36%以上)側線有孔鱗数が42~49であればオオメハタ、体高が低く(体高は体長の35%以下)側線有孔鱗数が48~51であればナガオオメハタである(ということで、有孔鱗数が48もしくは49の場合は両種とも可能性がある)。ちなみに「体長」とは、頭の先から尾鰭の_付け根_までの長さのこと。一般に釣魚などのサイズ計測に使われる、頭の先から尾鰭の先端部までの長さである「全長」とは異なる(当然「体長」の方が短い)のでご注意頂きたい。

375: アカカサゴ

【注】2013年2月に発売された『日本産魚類検索 第3版』では、以前から単系統性に大きな疑問が呈されていた『カサゴ目』がとうとう消え、それまでに認められていた亜目(カサゴ亜目、カジカ亜目、セミホウボウ亜目)は、全て『スズキ目』に組み入れられた。またカサゴ/カジカ亜目内の分類も再検討され、例えばこれまでフサカサゴ科内に『亜科』としてまとめられていたものが、メバル科、ヒレナガカサゴ科、ハチ科などの『科』に格上げされ分離された。本『図鑑』も将来的には同書の改訂点に合わせて全面的に改稿する予定だが、残念ながら近い内にこれまでに書いた全てのテキストを見直して、改稿/リンクの貼り直しを行うのは不可能というのが正直なところ。ということで、取りあえず当座は『カサゴ目』を用いていた『タグ』の部分と、各エントリーの頭の『分類』の項だけを修正し、それ以上の改稿は今後の『宿題』とさせて頂きます。

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スズキ目カサゴ亜目フサカサゴ科シロカサゴ
学名:Setarches longimanus (Alcock)
英名:Red smooth scorpionfish [原], Red deepwater scorpionfish

愛知県蒲郡市西浦漁港産の全長約20cmの雌個体(卵巣を確認)から摘出した左右の「魚のサカナ」。射出骨付き。「赤笠子のアカカサゴ」の形状は、比較的『体高』(肩甲骨と烏口骨本体の高さ)が低めで、その上に扇のように射出骨が広がるという、カサゴ亜目の「魚のサカナ」に共通する特徴を有している。ただし烏口骨の本体と『嘴』(「魚のサカナ」の『尾』に相当)部分を繋ぐ部分が大きく湾入している点でメバル科の「魚のサカナ」とは大きく異なり、これまで紹介してきたものの中では、やはり極近縁種であるシロカサゴのものに酷似する。またこの部分は以前から紹介しているシロカサゴの標本よりも今回のアカカサゴのものの方がより深く湾入しているが、本稿の最後にまとめた「両種の比較」から判断する限り、単なる個体差の可能性が高い。ただし烏口骨の『嘴』部分は、アカカサゴのものの方がスラッとより長いように思われる。



写真の個体の入手時には『日本産魚類検索 第2版』の同定の鍵を辿り、1)側線は溝状(写真下段左)で薄い円鱗に被われる、2)臀鰭は3棘5軟条(写真下段右/この写真では軟条部分が見にくいが)、3)体は赤い、4)主上顎骨中央部に隆起線がない(写真中段左)、5)体はやや側扁する、6)前鰓蓋骨第2棘は著しく小さい(写真中段右)という形質を確認してアカカサゴであると判断した。外見や体色が非常に良く似たシロカサゴとは、形質6(シロカサゴの前鰓蓋骨第2棘は良く発達する)で区別することができる。また2013年2月に発売された『日本産魚類検索 第3版』で追加された形となる「腹鰭は1棘5軟条」という検索キーも当時撮影しておいた写真から確認できた。

また背鰭棘に「刺毒」があるとしている資料やネット上の情報も多いが、実際に毒を持つかどうかはまだ良く分かっていない模様。ちなみに今回のアカカサゴ(および比較に用いたシロカサゴ)には、鱗が剥がれていたためか、以前より紹介していたシロカサゴ個体には見られた「肛門より前方の腹部正中線上にある明瞭な黒線」が認められなかった(写真下右)。また今回のアカカサゴ個体の尾鰭の先端には比較的明瞭な黒帯が認められる(写真下左)が、似たような個体の写真や図はネット上や筆者が所有する図鑑などでは見つけられなかった。単なる個体差なのだろうか?

そもそもアカカサゴ/シロカサゴとも水揚げ漁港付近で消費される程度で一般にはほとんど流通せず、仮に流通した場合でも標準和名シロカサゴが「赤カサゴ」とされていることも非常に多い(実際シロカサゴの体色の方がより赤く見えるくらいなので仕方ないとも思うが)ため、標準和名アカカサゴを狙って入手するのはそれなりに難しいはず。

今回の個体は、2012年12月に愛知県蒲郡市にある西浦鮮魚マーケット組合の○河・河井商店で見つけたもの。何気なく眼を向けたシロカサゴが10匹ほど盛られたザルに1匹だけアカカサゴが混じっていることに気付いて即購入(ちなみにお代は全部で300円)。今回入手したのは1匹だけということで、残りのシロカサゴや玉ねぎ/ジャガイモ/セロリなどと一緒に、同じ日に購入したミノエビ(店頭表示はカブトエビ)およびヒゲナガエビ(店頭表示はガスエビ)の頭(刺身にした残り)でとったスープで煮込んでブイヤベース風に。身は柔らかめだが、エビの濃厚な旨味の中にあってもアカカサゴ独特の風味は確かに感じられる。美味。ただしシロカサゴとアカカサゴの味には大きな差はなさそうというのが率直な印象。もう少し多くの個体が手に入ったら色々食べ比べしてみたい。

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【アカカサゴとシロカサゴの見分け方】

以下の表は、本稿のアカカサゴと、同じトレイの上に盛られていたシロカサゴ(底曵き漁の獲物に「典型的」な状態の悪さのもの)の内1匹の各部分を細かく比較したもの。やはり「前鰓蓋骨棘」で見分けるのが妥当であると思われるが、もしかしたら吻長や頭部の体色(アカカサゴの方が吻長が多少長い/体色はシロカサゴの方が赤い)なども、ある程度の目安にはなるかも知れない。またこの個体から調製した「白笠子のシロカサゴ」の標本では、烏口骨の本体と『嘴』を繋ぐ部分が大きく湾入しているのがお分かり頂けるはず。

アカカサゴ
シロカサゴ
全体
頭部
前鰓蓋骨棘
前鰓蓋骨棘
(標本)

尾鰭
腹部
「魚のサカナ」

374: マスノスケ

サケ目サケ科サケ亜科サケ(タイヘイヨウサケ)属
学名:Oncorhynchus tschawytscha (Walbaum)
英名:Chinook salmon [原], King salmon, Quinnat salmon, Spring salmon

通名(実際には英名の1つ)である「キングサーモン」の方がおそらく通りが良いと思われるが、標準和名は上記した通り「マスノスケ」(その他の流通名としては、スケ、オオスケ、ラシャマスなど)。今回紹介するのは、北海道根室産の体長約65cmの塩漬け天然個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。中烏骨および射出骨付き。

写真上の右側の標本から射出骨を取り除いた後に、両側から観察したもの。「鱒之介/鱒之助のマスノスケ」は、その形状から一目でサケ科の「魚のサカナ」であることが分かるもの。ただし、肩甲骨の上縁が比較的高く盛り上がるために、同科の他の「魚のサカナ」よりも烏口骨の上方突起(『背鰭』に相当)前縁の長さが比較的短いような印象を受ける。またこの前縁のラインも曲線的。烏口骨下方も膨らみ気味で、縦方向に幅広く見える。烏口骨上方突起には大小2つの孔が開いている。

中烏口骨は比較的コンパクトな印象で、その前端は肩甲骨前端を越えない。肩甲骨孔には中心に向かって小突起が存在する。

マスノスケは、サケ属中で最も大きくなる種(FishBaseによると最大記録は全長150cmとのこと)。日本に生息する他のサケ科の魚と外形を比べると、体高は高め、尾柄部は太め、吻端は丸みを帯びる(ただし産卵期の雄個体はいわゆる『鼻曲がり』になるとのこと)、眼は小さめなどの特徴が見て取れる。



『日本産魚類検索 第3版』のサケ科の同定の鍵(ちなみに『第2版』も検索キーは同じ)を辿り、1)頭部が側扁し、頭頂部が膨らむ(写真上段左)、2)鋤骨・口蓋骨の歯帯は『小』字型(写真中段左の赤線)、3)体の背面に黒点が散在(写真上段右および下段左)、4)尾鰭全面に黒点が散在する(写真下段右)、5)下顎歯基底部は黒色(写真中段右)、6)尾鰭後縁は黒く縁取られる(写真下段右)などの形質からマスノスケであると判断。また『新訂原色魚類大圖鑑』に記載されている、7)眼は小さい、8)口は大きい、9)歯は円錐形、10)体色は背面が青緑色で、腹面は銀白色、11)背面、背鰭(写真下左)、尾鰭に黒色斑が散在などの形質も確認した。今回も内臓と鰓の除去後に塩漬けされた成魚であるため、パーマークの確認や鰓耙数の計測は不可能であった。

日本国内にマスノスケが恒常的に産卵を行う河川は存在しないと考えられており、ロシアに回帰する個体の内、極少数が主に北海道(他には青森県岩手県など。後者に関しては『いわての魚類図鑑』の「マスノスケ」の項を参照)の太平洋沿岸で漁獲されるとのこと。実際国内で一般に流通している「キングサーモン」は、ほとんどがカナダ/チリ/北欧などで養殖もしくは漁獲されたものであり、国産の天然個体の希少性は非常に高い。本稿で紹介した個体は、2012年12月に角上魚類日野店の新巻・塩鮭販売用の特設テントで売られていた塩漬けされた国産の天然もの。北海道根室市カネキョウ三友冷蔵製(「本ちゃんますの助」のタグ付き/写真下)で、当日は1匹7,000円で購入(当日の価格的には他のサケ科魚種の「新巻」のおよそ2〜3倍。ちなみに2013年の同時期にはカナダ産の塩漬け天然キングサーモンが12,000円で販売されていた)。帰宅後に計量したところ、セミドレス(鰓と内臓が除かれた状態)で約3.5kgあったので、キロ単価はざっと2,000円となる。今回は定番の「焼き」で。火を通す前の身はかなり柔らかいが、焼いた後には固くなる。とはいうものの口にした時にパサつく感じは全くなく、脂の乗りが良いことも相まって、しっとりしたキメの細かさを感じさせるもの。「本ちゃん」表示イコール「山漬け」イコール「塩辛い」という訳では必ずしもないようで、実際はかなりの甘塩。身に含まれる旨味は多くかつ上品なもので、塩漬けにされたサケ科の魚で時に目立つエグ味や臭みは全くない。筆者がこれまでに口にした経験がある「塩をしたサケ科の魚」の中では、間違いなく最高の美味。筒切りにした上で一部は近所に住む親戚にお裾分けしたが、ここでも「これは抜群に美味いね」と大好評であった。


ということで、本業の方が超多忙であった関係で何と約9ヶ月振りの『図鑑』更新になってしまいました。ただしこの期間中も『下書き記事』の数だけは少しずつながら増えており、この記事の執筆時点で60種ほどの『ストック』は確保しています。これからまた少しずつ、できる範囲で『蔵出し』して行きたいと思います。

373: シマフグ

フグ目フグ亜目フグ科トラフグ属
学名:Takifugu xanthopterus (Temminck and Schlegel)
英名:Striped puffer [原], Yellowfin pufferfish, Yellowfin puffer

地方名おまん(福岡県/山口県)、さばたろう(サバ太郎/島原)、きたまくら(北枕/九州・関西各地。ただし標準和名キタマクラとは別の魚)、おやま(明石)など。長崎県産の全長40cm程の活け個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。射出骨付き。「縞河豚のシマフグ」は、肩甲骨孔(写真では一番下にある下部が閉じていない孔)と、その上にある大きな射出骨の間隙にできる3つの孔の計4つの孔が並ぶという、これまでに紹介してきた全てのフグ科の「魚のサカナ」で見られた最大の特徴をやはり共有している。またこれらの孔の径は比較的大きめで、肩甲骨孔の直上(下から2番目)にあるものには薄膜が広がっている。「魚のサカナ」全体で見ると、左右方向に短めで『体高』が高い、いわゆる『おにぎり』型。烏口骨の『嘴』部分は短い。

烏口骨上方の突起(『背鰭』に相当)は比較的がっしりとした『槍』型。第4射出骨の後縁の一部が垂直方向に立ち上がるのもフグ科の「魚のサカナ」で頻繁に見られる特徴の1つ。



特徴的な体側の模様や鮮やかな黄色の鰭からシマフグ以外には考えられない個体であったが、念のため『日本産魚類検索 第2版』を開き、1)体に通常側線がある、2)体の断面は丸い、3)体表の背面(写真中段右の緑四角)と腹面(同赤丸)に小棘の分布域があるが、両者は連続しない、4)尾鰭後縁は截形(写真下段右)、5)鼻孔は2個、6)背鰭は17軟条(写真下左)、7)臀鰭は14軟条(写真下右)、8)体背部の斑紋は斜走帯(写真下段左)、9)胸鰭後方は暗色の斜走帯(写真中段右/1暗色斑ではない)などの形質を確認してシマフグであると判断(なお検索形質は第3版でも変更なし)。写真上段の全身像は、店頭の秤の上で撮影させてもらったものを「白背景」になるように処理してある。

ちなみに黄海南シナ海にはシマフグに外見が良く似たフタツボシフグ Takifugu bimaculatus (Richardson) が生息しているが、こちらの種は身/皮膚/精巣なども『有毒』である。今のところフタツボシフグは日本沿岸には生息しないとされているが、近年の地球温暖化のせいか、本来は南方にしかいなかったはずの魚種の生息域がより北方に伸びているという報告も相次いでいるようなので、十分注意されたい(フタツボシフグの外見に関してはこちらおよびこちらを参照/『検索』的には、フタツボシフグには胸鰭後方に1暗色斑があることでシマフグと見分けられるとされている)。

冬場に博多辺りで出回るシマフグは、特にこの時期に超高級魚となるトラフグと一緒に漁獲されたものがほとんどとのことだが、そのキロ単価はトラフグのそれと比べると段違いに安いことから、現地では『庶民のフグ』の一つとして楽しまれている。さて、今回の個体は、2012年12月に福岡市の「たべごろ百旬館ふくや」の鮮魚コーナーで購入したもの(当日はキロ2,500円/0.6kg)。店頭での写真撮影も快諾して頂き、その後同店のふぐ調理師に「身欠き」にしてもらい持ち帰ったもの。まずは2枚に下ろして半身は刺身に。ネット上では水っぽいという記載を良く見かけるが、実際にはそれほどでもなく(あくまで主観的なものだが)、歯応えがあるモッチリとした身。さすがにトラフグの「魔性の味」には敵わないものの、十分満足できる旨味・甘味を感じる。骨付きのもう半身はブツ切りにし、醤油/みりん/ニンニク/ショウガで軽く下味を付けて唐揚げに。食感も良くかなりの美味。

なお、厚生省環境衛生局長通知(最終改正は平成22年9月10日)「フグの衛生確保について」では、プロのふぐ調理師が処理したシマフグの筋肉(骨を含む)・皮膚(鰭を含む)・精巣は販売可能とされている。ご参考までに。

372: クエ

スズキ目スズキ亜目ハタ科ハタ亜科ハタ族マハタ
学名:Epinephelus bruneus Bloch
英名:Kelp grouper [原], Yellow grouper, Longtooth grouper, Mud grouper

地方名/流通名あら(九州地方/マハタなどの大型ハタ類の総称としても使われる。ただし標準和名アラは同じハタ科の別の魚)、もあら(藻アラ/長崎県)、もろこ(関東地方/特に伊豆諸島の釣り人が使用)、くえます(三重県),きょうもどり(和歌山県)など。

今回紹介するのは長崎産の天然個体の「あら」から摘出した左右の「魚のサカナ」(故に正確な全長は不明だが、ざっと見積もって60~70cmといったところか?)。左側の標本は射出骨付き。写真右は、写真左の右側の標本を拡大したもの。「九絵/九繪/垢穢のクエ」は、肩甲骨前縁が垂直に近く、肩甲骨と烏口骨本体を合わせた部分が角張った形状、烏口骨上方と射出骨の上縁が作るラインが一度下方に落ち込んでから烏口骨の上方突起部(『背鰭』)が立ち上がる、烏口骨下部が大きく湾入するなど、ハタ科の「魚のサカナ」の中でも特にマハタ属のものに典型的な特徴を有している。ただし、1)全体的に横長な印象、2)肩甲骨孔は比較的小さい、3)烏口骨の『背鰭』部は立派に立ち上がるが、その前縁は曲線的、4)『背鰭』部の上縁は非常に緩やかな曲線を描く、5)烏口骨下部の湾入部は直角に近いという形質の『組み合わせ』は、今のところ「九絵のクエ」に特徴的なもの。

マハタ属の「魚のサカナ」では烏口骨の『背鰭』部分が湾曲しながら大きく立ち上がるものが多く、「九絵のクエ」ではその湾曲の度合いが比較的大きい。また烏口骨の『背鰭』部分には「成長線」と思われるものがはっきり確認できる。



今回のサンプルは、頭/胸部/中骨(尾柄部より前側)のみの入手したところから摘出したものなので、「尾鰭後縁の形状」や、このサイズのクエならば体側に存在すると考えられる「傾斜した6~7本の暗色横帯」などは残念ながら確認不可能。ただし『日本産魚類検索 第2版』の検索キーである、1)背鰭棘数は11(写真中段左)、2)臀鰭軟条数は8(写真下段右)、3)背鰭棘条数は前方で少し高くなる(写真中段左)、4)頭部から体にかけての斑紋は弧状ではない(ように見える/写真上段左右:イヤゴハタやホウキハタではない)、5)頭部・体・鰭・鱗などの色や模様が、カケハシハタ/ナミハタ/ハクテンハタ/キジハタ/アカハタ/ホホスジハタ/シモフリハタ/オオスジハタのものとは異なる、6)体に暗色斑点がない(ように見える)こと、また『新訂原色魚類大圖鑑』に記載されている、7)下顎歯は大きく、側方で2列に並ぶ(写真下右)、8)前鰓蓋骨の縁辺は丸く、後下縁の鋸歯は大きい、9)鰓蓋骨に3本の棘があり、中央の棘は下方の棘に近い(写真下左)などの形質が確認できたことなどから、やはりクエと判断して問題なかろうと考えた(もちろんこの判断が誤りである可能性もあるので、専門の方のご意見を伺いたいところ)。

ちなみに、クエとヤイトハタの交雑種の頭部(特に頬部や鰓蓋)には、クエの体色を背景にヤイトハタの特徴である多くの黒斑が現れる(『遊魚漫筆』の『九絵「孤高の怪物」その未来』を参照)とのことだが、今回のものにはそのような斑点は見られなかった。またクエは、他の多くのハタ科の魚と同様に雌性先熟の性転換を行うとのこと。つまり大型のクエ個体は雄である可能性が高いこととなる。

2012年12月に福岡天神にある「魚の北辰博多大丸店の店頭でザルの上に盛られていたもの(頭/胸部/中骨)。特に鍋のシーズンである冬場は需要と供給のバランスが大きく崩れており、キロ単価が1万円を超えることも珍しくないという超高級魚。今回値段を聞いたら「1,500円」とのことだったので即購入(ちなみに当日別の店では同じような「あら」を3,000円程度で売っていた)。実際予想以上に可食部分があり、個人的にはかなりお買い得と思った次第。頭とカマ部分は酒を少々入れた昆布出汁で炊いてポン酢で。弾力のある身には旨味がたっぷり含まれている。脂が乗った皮目のトロットした、また唇の少々コリットした食感も心地よい。全ての骨をしゃぶり尽くして大満足。中骨部は塩焼きに。弾力がありながらもしっとりした食感を併せ持つ身には脂がたっぷり乗り、旨味/甘味を非常に強く感じる。文句なしの旨さ。

将来的には丸一本購入して本稿も改稿したいところだが、、、

371: スマ

スズキ目サバ亜目サバ科マグロ族スマ属
学名:Euthynnus affinis (Cantor)
英名:Yaito tuna [原], Kawakawa, Black skipjack, Eastern little tuna, Mackerel tuna, Yaito bonito, Dwarf bonito

地方名/流通名やいと(『新訂原色魚類大圖鑑』では別名扱い)、ほしがつお、うぶすかつ、おぼそ、あせかつ、ひらがつお、わたなべ(胸鰭の下の小黒斑を、渡辺家の家紋である「三ツ星一文字・通称『渡辺星』」に準えたものなのだとか)など。韓国済州島産の全長約51cmの雌個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。写真右は、写真左の左側の標本から射出骨を外す前に、反対側から撮影しておいたもの。

「須万/須萬のスマ」は、細長い肩甲骨、立派に突き出した烏口骨上方の『背鰭』部、烏口骨本体と『嘴』部の間の湾入部などの形状的な特徴から、一見してスズキ目サバ亜目の「魚のサカナ」であることが推察できるもの。特に肩甲骨は非常に細長く、これまでに紹介したものの中では体色の良く似たソウダガツオの仲間(マルソウダヒラソウダ)のものに良く似た印象。ただし「須万のスマ」は、ソウダガツオの仲間のものと比べて 1)烏口骨本体と『嘴』部の間の湾入部がかなり深く、2)『嘴』部がより直線状である。

また「須万のスマ」の烏口骨『嘴』部の根元近くには比較的大きめの孔が開いている(写真上赤丸)。



胸鰭下に特徴的な小黒斑があることからスマであると判断できたが、一応「日本産魚類検索 第2版」のサバ科の同定の鍵を辿り、1)体は紡錘型であまり側扁しない、2)両顎歯は微小(写真中段右)、3)腹鰭の大きさは普通(写真下左)、4)第1背鰭と第2背鰭はよく接近する(写真下段左)、5)側線は1本(写真下段左)、6)体は胸甲部を除いて無鱗、7)第1背鰭は前端で高くなる(写真下段左)、8)腹鰭間突起は2尖頭、9)側線は著しく波打たない(写真下段左)、10)胸鰭体側下部に数個の小黒斑がある(写真下段右)、11)口蓋骨に歯がある(写真中段右の緑丸)などの形質を確認した。また体側上部後半には多くの暗色斜帯がある(写真下段左)。ちなみにこの個体の小離鰭数は、背側が8/腹側が7であった。

2012年12月に福岡市の渡辺通にある「たべごろ百旬館ふくや」の鮮魚コーナーで購入(当日は1本2,000円)。店頭表示は「済州島産ヤイト」。厳密には「輸入魚」ではあるものの、地理的には福岡県から至近と言える韓国済州島産であることから鮮度的には全く問題なし。まず3枚に下ろし刺身に。少々柔らかめだが、繊維はしっかり結合している(故にハガツオほど身崩れしない)ために、歯で噛み切る時にはシコッとした食感がある。身の色はハガツオ同様に薄い(写真上右)が、血合いはハガツオよりも大きめ。ただしカツオほど血の味は感じない。また酸味も余りない。脂は皮目を中心にかなり乗っているが、嫌みは全くない。身に含まれる旨味は多く、非常に美味い。次いで「あら」と身の一部を煮付けに。口の中では繊維質の身が崩れるのを感じるが、パサつく感じはない。旨味は文句なし。また皮目の脂の乗った部分がとろっとして美味い。一部は「なまり節」に。カツオの「なまり節」を更に上品にしたような印象。やはり旨味は多い。最後に冷凍しておいた「柵」をブツ切りにし、塩コショウを振った後に片栗粉をまぶして唐揚げに。しっとりとした食感で非常に美味い。