新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

247: シボリ

スズキ目スズキ亜目テンジクダイ科シボリ属
学名:Fowleria variegata (Valenciennes)
英名:Roundtail cardinalfish [原], Multi-spotted cardinal-fish, Peppered cardinalfish, Spotted cardinalfish, Variegated cardinalfish

沖縄県宜野湾での釣りもので、体長約8cmの個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。「シボリ(絞り?)のシボリ」は、これまでに摘出/紹介してきた他のテンジクダイ科の「魚のサカナ」とは形状が大きく異なる。特に烏口骨の『背鰭』部の前縁が大きく伸出しないため、この部分から『嘴』にかけての形状が「テーブルナイフ」のようにならないのは独特。また肩甲骨下部が下方へ丸みを帯びながら突出(もしくは肩甲骨と烏口骨の結合部の下側が三角に抉れていると見なすことも可能)し、肩甲骨前縁上部(『額』に相当)に三角形の突出がある。面白いことにこれらの特徴は、この直前のエントリーで紹介したメギスのものと共通しているが、「シボリのシボリ」では 1)肩甲骨孔が小さな涙型である、2)烏口骨の『背鰭』部分に小孔が存在しない、3)烏口骨が全体に横長であるなどの相違点がある。そもそもシボリとメギスの外形態は大きく異なっており、両者の直接の系統関係を示唆した文献等も見つからなかったので、両者の「魚のサカナ」の特徴の相似は単なる「偶然の一致」ということになりそう。写真右は、左側の標本の拡大図。案外普通の形の形の烏口骨に、おかしな角度で肩甲骨が結合しているようにも見えるが、この「魚のサカナ」の肩甲骨/烏口骨は標本調製中に一度も外れていないので念のため。

「○○イシモチ」などという標準和名ではないが、テンジクダイ科の魚だけあってシボリの耳石も魚体のサイズに比して大きめ。



何時もの様に「日本産魚類検索」の『同定の鍵』を辿り、1)後頭側骨に棘がない(写真下段左)、2)側線は顕著だが第2背鰭辺りで止まる(写真中段左の赤矢印)、3)両顎に犬歯状歯がない(写真中段右)、4)尾鰭は恐らく丸型でその最長軟条は分枝する、5)腹部に発光腺がない、6)主鰓蓋骨上方に黒色円斑がある(写真下段左)、7)口蓋骨に歯がない、8)体側に明瞭な暗色横帯がない、9)不明瞭な暗色小斑が体全体に不規則に並ぶ(体色や斑紋は生息域によって多少異なるようで、この個体では小斑はさほど目立たない)、10)胸鰭を除く各鰭に褐色の濃淡模様がある(写真下左は臀鰭)などの形質からシボリであると判断(ちなみに『新訂原色魚類大圖鑑』によると、近縁のナハマトイシモチは「やや稀種」、オビシボリは「稀種」となっている)。シボリは前鼻管が突出して「皮弁」のようになり(写真下段右の赤丸)、また鱗は櫛鱗(しつりん/写真下右)だが、非常に剥がれやすい。国内では奄美大島以南に分布するとのこと。

この魚も食べていないので、残念ながら食味などは不明。


さて、しばらく続いた沖縄の「魚のサカナ」シリーズ(計23種)も、このエントリーをもってとうとう打ち止め。沖縄周辺の海は、筆者が住む関東近辺とは『魚相』が大きく異なるため、この「図鑑」の目的からすれば、正に「宝の山」に入ったようなもの。ただ今回は季節的に出会えなかった、もしくは出会えたものの予算、サイズ、或いはタイミングの問題で入手できなかった魚種も多かったため、近い内に、出来れば今回とは違う季節に是非また訪れてみたいと思っている。また沖縄の魚は、刺身にすると身が柔らかいが、驚くほどの旨味成分をもったものが多かったのも印象的。締めてから時間があまり経っていないコリコリした刺身と、熟成が進みコリコリ感は薄まったがその分旨味成分が増えた刺身ではどちらが美味いのかという「論争」があるが、前者をより好む方(言うなれば「食感重視派」)には沖縄の魚の刺身は基本的にお薦めできない(もちろんゴマアイゴやホシミゾイサキなどの例外はある)。逆に筆者のように後者をより好む方(「旨味重視派」)ならば、新鮮な沖縄の魚の美味さに感動すること請け合いである。是非、まずは刺身で堪能して頂きたい(ただし「シガテラ毒」の恐れのある魚には十分注意されたし)。勿論このような旨味の多い魚は、刺身だけでなく、マース煮、塩焼き、バター焼き、味噌汁など、比較的シンプルな料理方法で食べても非常に美味かった。こちらも是非お試しあれ。