291: アカメバル
スズキ目カサゴ亜目メバル科メバル属
学名:Sebastes inermis Cuvier in Cuvier and Valenciennes
英名:Darkbanded rockfish [原] (但し「メバル」1種とされていた時期の英名), Dark-banded rockfish
伊東漁港の堤防で釣った全長約11cmの小型個体から摘出した仔魚から摘出した左右の「魚のサカナ」。射出骨付き。写真右は、写真左の右側の標本の拡大図。「赤目張のアカメバル」の形は、典型的なフサカサゴ科の「魚のサカナ」のもので、極近縁種のクロメバルのものに酷似する。この標本では第2/第3および第3/第4射出骨の接合部分下部が孔の中心に向かって棘のように垂れ下がっている。また烏口骨の『背鰭』部分(上方にある三角形の突起部)が比較的高いが、これはメバル属の魚の「魚のサカナ」に共通してみられる形質。
写真上は2010年12月に全長24cmの釣り個体から摘出した標本。こちらは第2/第3射出骨の接合部分のみが棘のように垂れ下がっている。
DNA解析(より正確にはAFLP解析)によって、それまで「メバル」(Sebastes inermis Cuvier)とされていた魚が単一種でないことが2008年に確認/報告され【参考文献】、アカメバル/クロメバル/シロメバルの3種に再分類された。そこでまずは2000年発行の「日本産魚類検索 第2版」を開き、1)側線は溝状でない、2)胸鰭に遊離軟条がない、3)胸鰭も背鰭も普通の大きさ、4)胸鰭に欠刻がない、5)背鰭は13棘14軟条、6)頬に棘がない、7)胸鰭上半部の後縁は丸い、7)眼窩下縁に棘がない、8)弱い頭頂棘がある、9)下顎は著しく前に突出せず、その先端は尖らない、10)尾鰭後縁は2叉する(少なくとも丸くない)、11)主上顎骨には鱗がある、12)涙骨に顕著な2棘がある(写真中段左)、13)胸鰭は15軟条(写真中段右)などの形質から「メバル」に辿り着くことを確認。
一般的には、ここから胸鰭軟条数で3種の「メバル」を見分けられる(アカメバル:普通は15本/クロメバル:普通は16本/シロメバル:普通は17本)とされているが、実際には個体差による数のバラツキがあり、この形質だけでは魚種を判断/確定できない。そこで、原著論文(Kai & Nakabo, 2009)に当たって観察/計測すべき形質をまとめたのが以下の表になる。なお、本「図鑑」では鮮魚から「魚のサカナ」の標本を摘出することがほとんどであるため、各形質は基本的に論文中の「Color when fresh」欄、もしくは論文の最後に記された「Morphological key」のものを参照した。
本稿の「メバル」 | アカメバル S. inermis | クロメバル S. ventricosus | シロメバル S. cheni |
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体色 | 背側は暗赤色〜淡褐色、腹側は白っぽい | ○背側は暗赤色〜淡褐色、腹側は白っぽい | ×黒銀色(背側は緑色が掛かる) | △背側は金〜淡褐色、腹側は褐色または白色 |
背鰭 | 13棘14軟条 褐色、軟条部の上半分は橙色が掛かる | ○13棘13~15軟条 ○褐色か暗褐色、軟条部の上半分は橙色が掛かる | ○13棘14~16軟条 ×全体が黒色、軟条部はわずかに薄い | ○12~13棘13~16軟条 ×暗褐色、棘条部は多少白い |
胸鰭 | 15軟条(写真中段右) 橙色 長く、肛門を越える(写真下段左) | ○14〜16軟条(普通は15) ○暗赤色か橙色 ○長く、肛門を越える | △15〜17軟条(普通は16) ×黒色 ×長さは普通で肛門を越えない | ×16〜17軟条(普通は17) △赤褐色から淡褐色 ×短く、肛門に達しない |
腹鰭 | 1棘5軟条 前部は暗赤色、後部は白い 肛門を越える(写真下段左) | ○1棘5軟条 ○前部は暗赤色、後部は白い ○比較的長めで、先端が肛門を越える | ○1棘5軟条 ×白または淡灰色、後部先端は暗い △長さは普通で先端は肛門に届かないこともある | ○1棘5軟条 ×白褐色(時に白色)、後部は黒ずむ △長く、先端は臀鰭起部を越える |
臀鰭 | 3棘7軟条(写真下段右) 橙色で先端部に赤みが掛かる | △3~4棘6~8軟条(普通は3棘7軟条) ○暗赤色か橙色で、棘条部と先端部に赤みが掛かる | ○3棘7~8軟条 ×黒色、軟条部は多少淡い | ○3棘6~9軟条(普通は8軟条) ×暗褐色で基部はより暗い、軟条部は多少淡い |
尾鰭 | 濃褐色、軟条部は橙色 | ○褐色か濃褐色、軟条部は赤や橙色が掛かる | ×黒色、周縁部は多少淡い | ×褐色、周縁部は白い |
有孔側線鱗数 | 42 | ○36~44(最頻値40) | ×43~49(普通45~46) | ○37~46(最頻値41) |
鰓耙数 | 今回は計測を失念 | 31~37(最頻値34) | 35~39(普通36~37) | 32~37(最頻値34) |
体側の横帯 | 不明瞭 | ○不明瞭 | ○不明瞭 | ×明瞭(ただし死後は淡くなる) |
その他 | 角膜の周縁が橙色 | ○角膜の周縁が赤または橙色 | ×角膜の周縁が黒色 | △角膜の周縁が茶色 |
上の表を見れば一目瞭然ではあるが、以上の形質から総合的に判断して、今回の魚はアカメバルであるとした。ちなみに同じ日に釣ったもう一匹の「メバル」も、同じような体色で、総合的にはアカメバルであると判断できるもの(写真下左右)であったが、実はこの個体の胸鰭軟条数は「16」(有孔側線鱗数は43)。確かに「胸鰭軟条数」だけではメバル3種の同定は不可能であると実感した次第。
今回はサイズが小さかったこともあって唐揚げに。熱を通すと上品な旨味も立って美味。他には定番であると思われる煮付け、刺身、塩焼き、マース煮などにしても美味い。
このエントリーからしばらくは、2011年11月に伊東漁港近辺で釣った/釣ってもらった「雑魚のザコ」を紹介します。お楽しみに。