新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

359: トゴットメバル

スズキ目カサゴ亜目メバルメバル
学名:Sebastes joyneri Günther
英名:Saddled brown rockfish [原](FishBaseに英名表記なし)

通名/地方名としては、ウスメバルと区別されずに「おきめばる(沖メバル)」「あかめばる(赤メバル/もちろん標準和名アカメバルは別種の魚)」など。

神奈川県小田原産の全長約22cmの個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。射出骨付き。写真右は、写真左の左側の標本を反対側から観察したもの。「戸毎眼張のトゴットメバル」の基本形状は、すっかりお馴染みとなったフサカサゴ科の「魚のサカナ」のもので、その中でも烏口骨の上方にある『背鰭』部の前縁と第4射出骨の後縁が作るラインが比較的深く湾入する(これにより『背鰭』部が高く見える)という、筆者が『メバル型』と呼んでいるタイプ。特にアカメバルクロメバル、そして本稿のトゴットメバルと良く似たウスメバルなどの「魚のサカナ」とは「酷似する」と言っても良いレベルで、肩甲骨孔が多少大きく見えること、烏口骨の『嘴』部が直線状で比較的長いことなど、ほんの些細な相違点を挙げることしかできない。

ちなみに写真右では、第2/第3射出骨が作る孔が比較的小さく、第1/第2射出骨が作るものとほぼ同じ大きさのように見えるが、写真左からも分かるように必ずしも事実を反映していないので念のため。



「日本産魚類検索 第2版」のフサカサゴ科の検索キーを辿り、1)側線は溝状でない、2)胸鰭に遊離軟条がない(写真下左)、3)胸鰭も背鰭も普通の大きさ、4)胸鰭に欠刻がない(写真下左)、5)背鰭は13棘14軟条、6)頬に棘がない(写真中段左)、7)胸鰭上半部の後縁は丸い、7)眼窩下縁に棘がない、8)弱い頭頂棘がある(写真下段左)、9)下顎は著しく前に突出せず、その先端は尖らない(写真中段左)、10)尾鰭後縁は2叉する、11)主上顎骨には鱗がある(写真中段右の赤四角)、12)涙骨には顕著な2棘がある(写真中段右の緑丸)、13)胸鰭は16軟条(写真下左/ただしこの写真からは計測しにくいかもしれない)、14)体側の上半分に、輪郭が丸みを帯びた5本の明瞭な黒色帯がある(写真下段右)、15)側線有孔鱗数は48(47~53)などの形質からトゴットメバルであると判断。

外見が非常に良く似たウスメバルとは、形質14および15で区別することが可能(ウスメバルの斑紋は不定形で、側線有孔鱗数は52~56とトゴットメバルより多い)だが、「ウス」メバル=斑紋が「薄い」と考えてしまう人も少なくないようで、比較的斑紋が濃く出ているウスメバルをトゴットメバルと誤同定してしまっているのをネット上でも時々見かける。もちろんトゴットメバルの斑紋にもある程度のバリエーションはあるが、1)頭に近い方から1本目は上下2つの円斑が完全に分離、2)2本目および3本目は上下の円斑が1本目より大きく、一部が重なったようになる(もしくは下の円斑に、勲章の帯のような形で上の円斑が結合している)、3)更に背鰭の軟条部下に現れる4本目および5本目は背縁に近い上側にだけ円斑があり側線には届かないというパターンはほぼ共通している模様。ご参考までに。

2012年10月に八王子総合卸売センター内、高野水産に入荷した小田原産の「入り会い」の中の1匹(当日はキロ1,000円/0.15kg)。体側の特徴的な模様から、トロ箱の中に見つけた瞬間にトゴットメバルであることを確信したが、筆者が東京多摩地区でこの魚が売られているのを見たのは(記憶にある限り)初めてのこと。他の場所の状況は分からない(少なくとも2012年末に愛知県・三河一色さかな村のトレーの上に1匹乗っているのは発見した)が、少なくとも東京多摩地区では「沖メバル」としてはウスメバルが主に流通し、トゴットメバルの流通量は圧倒的に少ないはずである。

本稿の個体は余計なことは考えずに塩焼きに。皮目から立ち上る芳香が素晴らしい。身質はかなり良く、脂も良く乗っている。溢れるほど多量ではないが、上品な旨味も含まれている。美味。