新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

177: タイリクスズキ

スズキ目スズキ亜目スズキ科スズキ属
学名:Lateolabrax sp.
英名:Spotted sea bass, Chinese sea perch

産地不明。体長約50cmの活け〆個体から摘出。予想通りスズキのものと酷似した形であるが、「大陸鱸のタイリクスズキ」では、1)肩甲骨孔が丸みを帯びた三角形、2)烏口骨の本体と『嘴』をつなぐ部分が深く切れ込む、3)烏口骨の上方突起部分の先端が鋭く尖らないことなどが、「鱸のスズキ」との相違点として挙げられる。非常にバランスの取れた美しい「魚のサカナ」。


今回の個体は、1)第2背鰭の軟条数が「13」、2)尾柄が長く細い、3)体側、特に側線よりも下の領域にも黒斑があり、黒斑の多くは鱗よりも大きい(写真下段左)、4)吻は短い(写真下段右)などの形質からタイリクスズキであると判断した。

タイリクスズキは元々は日本沿岸には生息していなかった『外来種』。以前から有明海や中国沿岸では成魚になっても背中側の黒斑が消えない「斑点付きスズキ」の存在が知られていたが、この「斑点付きスズキ」は日本産スズキの個体変異程度のものであると長い間考えられていた。近年になってこれらの個体間の形態(下記参照)と各種の遺伝マーカーが比較研究された結果(下の【文献1】参照)、日本のスズキと中国のスズキが『別種』であることが強く示唆され、1995年に「タイリクスズキ」という標準和名が提唱された。問題だったのは、日本産スズキよりも成長が早い(=養殖効率が良い)ことに目をつけられ、この時点で中国産タイリクスズキの稚魚が大量に輸入され愛媛県を中心とした各地で大規模養殖が始まっていたこと、更には台風などで養殖網が破れ、大量の養殖魚が逃亡してしまったことである。それ以降タイリクスズキは日本沿岸の様々な場所で釣れるようになった、、、即ち「種」として定着してしまった可能性が非常に高い。調べた限り、日本在来種であるスズキとの交雑は今のところ確認されていないようだが、有明海近辺に生息するスズキ群がどうやらスズキ/タイリクスズキの交雑種を祖先に持っているらしいという話もあるため要観察&要注意。また成長が早いだけに日本産スズキの生息地を乗っ取ってしまう(しまった)可能性も指摘されている。そのためタイリクスズキは、環境省「外来生物法」関連ページ内の、「要注意外来生物一覧」にもリストアップされている。この中のタイリクスズキの項を是非一度ご覧頂きたい。

店頭で確認はしなかったが、この魚の尾鰭先端部はすり減っており、腹の中には脂肪の固まりが大量に入っていたことから判断して、恐らく「養殖魚」であったと思われる。今回は刺身/潮汁/ハーブ焼きに。首を傾げながら「味は悪くないんだけど、何かちょっとイヤな感じに脂が乗り過ぎていない?」が、タイリクスズキの刺身と潮汁に関する連れ合いの意見(ちなみにこのコメント前に「養殖魚」である可能性は伝えていない)だったが、筆者もその意見には賛成。ハーブ焼きにしたものは、良い感じに脂が溶けて抜けるためか、逆になかなかの美味だった。八王子総合卸売センター内、高野水産で購入(ちなみに当日はキロ1,000円)。


注:現在ネット上のいくつかのサイト(Wikipedia「すずき(魚)」を含む)では、タイリクスズキの学名として Lateolabrax maculatus (McClelland) (もしくは (M'Clelland)) が掲載されているが、FishBaseによれば、現時点ではこの学名は日本産のスズキの学名 Lateolabrax japonicus (Cuvier) のジュニアシノニム(=タイリクスズキの学名として認められたものではない)扱い。ただし2006年に出版された【文献2】の序論には「タイリクスズキ Lateolabrax maculatus (M'Clelland) は新たに再記載された種で、最近になってスズキ L. japonicus と区別されたものである」と明記され、2001年出版の【文献3】が引用されている。残念ながら筆者は【文献3】を入手することが出来なかったので(例え入手できていたとしても韓国語で書かれた本では全く読めないのだが、、、)、本稿ではFishBaseの記載に準じ、タイリクスズキの学名を Lateolabrax sp.として掲載した、、、が、本当ならば Lateolabrax maculatus (M'Clelland) とする方が正しいと思われる。

【文献1】K. Yokogawa and S. Seki, Morphological and genetic differences between Japanese and Chinese sea bass of the genus Lateolabrax. Japan J. Ichthyol. 41(4): 437-445 (1995) (Pdfファイルのダウンロードはこちら

【文献2】Liu, J., T. Gao, K. Yokogawa and Y. Zhang, Differential population structuring and demographic history of two closely related fish species, Japanese sea bass (Lateolabrax japonicus) and spotted sea bass (Lateolabrax maculatus) in northwestern Pacific. Molecular Phylogenetics and Evolution, 39(3): 799-811 (2006). (Pdfのダウンロードは要アクセス権)
【文献3】Kim, Y., Myoung, J., Kim, Y., Han, K., Kang, C., Kim, J. The Marine Fishes of Korea. Hanguel, Pusan. pp. 222. (2001) (In Korean).