新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

230: ニセタカサゴ

スズキ目スズキ亜目タカサゴ科クマザサハナムロ属(タカサゴ属)
学名:Pterocaesio marri Schultz
英名:Marr's fusilier, Bananafish, Big-tail fusilier, Black-tipped fusilier, Twinstripe fusilier

筆者が所有する資料やネット上の情報によれば、カブクヮーグルクン、グルグンセンジュー、センスル、センヂマー等の沖縄名があるようだが、実際はタカサゴやクマササハナムロ(後ほど紹介)と区別されずに「グルクン」として売られていることがほとんどのはず(下記参照)。沖縄県産の全長27cmの雄個体(白子もち)から摘出した左右の「魚のサカナ」。右側の標本は烏口骨の『嘴』部の先端が折れている。アルコール固定中に少々黄変してしまったので、消毒用オキシドールで漂白してから撮影したもの。写真右は、写真左左側の標本を反対側から観察したところ。「偽高砂のニセタカサゴ」は、予想通り近縁のタカサゴのものに酷似するが、1)肩甲骨先端下部がより曲線的、2)烏口骨の『背鰭』に相当する部分から『嘴』部分の先端に向かうラインがタカサゴのものほどきれいな曲線にならない、3)烏口骨の『嘴』部の下側がギザギザになるなどの相違点が挙げられる。



1)前上顎骨の後方突起は2個、2)体は比較的細長い(体長は体高の3.4倍以上)、3)背鰭下部は鱗に被われる(写真中段右)、4)尾鰭両葉の後端は暗色(写真下段左)、5)背鰭は10棘15軟条、6)体側上半部に2本の黄色縦帯があり(ここまではタカサゴと同じ)、下側の黄色縦帯はほぼ側線上を走る(写真下段右/青矢印が側線)、7)胸鰭軟条数は「22」(写真中段左)であるなどの形質を確認し、ニセタカサゴであると判断。

糸満おさかなセンター内の優秀(ゆたしく)で購入。前のエントリーのタカサゴと区別されず、店頭で「グルクン」として並んで売られていたもの(ちなみに今回の沖縄滞在中に訪れた鮮魚店の中に、タカサゴ/ニセタカサゴを区別して売っている店は1軒もなかった)。こちらの魚も非常に鮮度が良かったので、2枚に下ろして半身は刺身に、また骨付きの半身は塩焼きにしてタカサゴとニセタカサゴの味比べ。ニセタカサゴの身は、タカサゴと同じくしっとりして柔らかいが、一部皮付きで下ろしてみたところ「刺身」としての食感は改善されたように思われる。特筆すべきは身に含まれる旨味成分の量で、醤油や塩を付けずにそのまま口の中に放り込んでも旨味がいつまでも口の中に残っているような状態。タカサゴの刺身も美味かったが、ニセタカサゴの刺身には全く歯が立たない(もちろん「皮なし」の刺身での味の比較)。極めて美味としか言い様がない。骨付きの半身の塩焼きも同様に旨味成分が口の中に溢れ、ただでさえ美味いタカサゴの塩焼きの数段上を行くもの。少なくとも今回の2匹に関しては、明らかにニセタカサゴの方がタカサゴより美味い【注】というのが同行した3人の共通見解。

【注】ただし今回はタカサゴ/ニセタカサゴ各1匹のみの比較であること、ニセタカサゴの方が一回りサイズが大きかったこと、またネット上の情報によれば「グルクン」類は鮮度落ちがかなり早いようなので、ちょっとした鮮度の差が味を大きく左右した可能性があることを念のため申し添えておく。本当にニセタカサゴの方がタカサゴより美味いのか、機会があったらもっと多くの個体を食べ比べて検討してみたい。