新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

268: キチヌ

スズキ目スズキ亜目タイ科ヘダイ亜目クロダイ
学名:Acanthopagrus latus (Houttuyn)
英名:Japanese silver bream [原], Yellowfin seabream, Western yellowfin bream, Yellow-finned black porgy

地方名きびれ(中部/関西地方など)、しろかいず(白海津/相模湾など)。大阪産の全長31cmの雌個体(発達中の卵巣を確認)から摘出した左右の標本。写真右は、写真左の左側の標本を反対側から拡大して観察したもの。「黄茅渟のキチヌ」は、予想通り他のタイ科の「魚のサカナ」とそっくりだが、その中でも烏口骨の長さや、その形が直線状であることなども含め、魚体の外見も良く似たクロダイの「魚のサカナ」(特に兵庫県産の雌個体のもの)に酷似している。もし机の上に両者を並べられたとしても、区別するのは恐らく不可能ではないだろうか。



「大阪産」の「クロダイに良く煮た魚(成魚)」で、「腹鰭/臀鰭、更には尾鰭の下部も黄色い」とくればキチヌでほぼ確定的なのだが、念のため 1)両顎の側部に臼歯が3列ある(写真中段左/下顎)、2)両眼域の隆起は大きくない、3)体は銀白色、4)頭の鱗域は両眼間隔域に達しない(写真中段右の緑線)、5)臀鰭軟条数は8、6)背鰭棘条部中央下の側線上横列鱗数は3.5(写真下段左/3枚+小鱗0.5)、7)腹鰭および臀鰭と、尾鰭の下部が鮮黄色(写真下段右)、8)体長は体高の約2.4倍などの形質から、「検索」的にもキチヌに到達することを確認した。ちなみに、クロダイのエントリーでも述べたように、クロダイの幼魚は各鰭が黄色いため、キチヌと間違えやすいので注意。この場合「形質6」の側線上横列鱗数(ちなみにクロダイではこれが「5.5 ~ 6.5」)を計測すれば区別できる。

魚喜日野店で購入した「刺身用」(780円/匹)。活け〆ではなく、腹を開けた時に少々の臭いを感じないでもなかったが、確かに鮮度は悪くなかったので、今回は薄く削ぎ切りにして、ポン酢とアサツキで「てっさ」風に。身は少々柔らかいが、透明感のある身と血合い部分のコントラストも美しい。口の中で咀嚼していると、身の中から旨味や甘みが溢れ出てくる。並べて食べ比べた訳ではないが、クロダイより味が濃いような印象。非常に美味い。

【注】「日本産魚類検索 第2版」P.856の下の方にある、クロダイとキチヌ/ナンヨウチヌ/ミナミクロダイ/オキナワチヌの分岐点にある「鍵」の2番目、「側線鱗数は52以上」は、恐らく「52以下」を意図したものであると思われる(後者4種の側線鱗数は、ナンヨウチヌ/ミナミクロダイの「52」が最高であるため)が、その場合はクロダイの側線鱗数「48 ~ 57」と大きく重なってしまう(=側線鱗数が「53以上」のクロダイ個体以外では決定的なものではない)ことになる。よって本稿ではこの「鍵」は無視したが、これは第2版の「正誤表」でも訂正されていないので念のため。