新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

360: クロサバフグ

フグ目フグ亜目フグ科サバフグ属
学名:Lagocephalus gloveri Abe and Tabeta
英名:Dark rough-backed puffer(『原色』に英名表記なし)

地方名/流通名は数多く、ネット上で調べが付くものだけでも:サバフグ(大阪市高知市鹿児島市枕崎市)、ギロ(下関市)、アオカナト(下関市北九州市)、アオマル(下関市)、カナト(北九州市大分市)、クロカナト(北九州市)、アオフグ(宮崎市)、チャンプク(鹿児島市枕崎市)、クロ(鹿児島市枕崎市)など。

今回紹介するのは、神奈川県小田原市産の全長約28cmの抱卵雌個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。写真右は、写真左の左側の標本を反対側から観察。「黒鯖河豚のクロサバフグ」の形状は、パッと見でもフグ科の「魚のサカナ」であることが明らかなもの。特に大きな4つの射出骨の間隙にある3つの孔と、その下にある肩甲骨孔の計4つの孔が並ぶという、これまでに紹介してきた全てのフグ科の「魚のサカナ」で見られた最大の特徴はクロサバフグのものでも共有されている。射出骨の3つの孔は比較的小さく丸い。肩甲骨孔は射出骨の孔よりも小さく『涙』型。烏口骨の上部突起(『背鰭』)部はかなり細長い『針』状で、烏口骨本体から『嘴』部に掛けての部分は太い。

「黒鯖河豚のクロサバフグ」の形状/特徴が同じサバフグ属のシロサバフグのものに良く似ていることは想定の範囲内だったが、全体的な雰囲気がトラフグ属のコモンフグのものにもかなり似ているというのは予想できなかった(もっとも系統関係を考えれば「たまたま」なのだが)。

写真上の右側の標本を斜め上方向から観察したもの。烏口骨の上部突起(『背鰭』)部は『角』のように斜め上方向に鋭く突き出している。また第1射出骨の前縁および第4射出骨の後縁には『タブ』のような構造物があることを確認できる。これはこれまでに紹介してきた幾つかのフグ科の「魚のサカナ」でも見られていたもの。



「日本産魚類検索 全種の同定 第2版」のフグ科の同定の鍵を辿り、1)体に側線がある(写真下右)、2)体の断面は丸い、3)体表の背面(写真中段右)と腹面(写真下段左)に小棘の分布域がある、4)尾鰭後縁は二重湾入型(写真下段右)、5)胸鰭は黒くない(写真中段左)、6)尾鰭下葉先端は上葉に比べて明瞭に長くない(写真下段右)、7)鰓孔は白い(写真中段左の赤丸)、8)体背面の小棘域は胸鰭先端の前方までしか達しない(=背鰭起部付近まで達しない/写真中段右の赤線が体背面小棘域の最後端)、9)尾鰭上下葉端は白い(写真下段右)などの形質からクロサバフグであると判断。

日本近海産のクロサバフグ個体は無毒と考えられており、厚生省環境衛生局長通知(最終改正は平成22年9月10日)「フグの衛生確保について」でもプロのふぐ調理師が処理したクロサバフグの筋肉・皮膚・精巣は販売可能とされている。ただし、南シナ海産の個体の筋肉(弱毒)、卵巣(猛毒)、肝臓(猛毒)には毒が含まれているとの報告があり、また体型および体色が良く似ており、筋肉・皮膚・肝臓・卵巣・腸が強毒なドクサバフグという種もいる。上の形質8)でドクサバフグは一応見分けられることになっている(ドクサバフグでは、体背面の小棘域が背鰭起部付近まで達する。こちらを参照)が、素人判断は非常に危険である。もし釣りの獲物などを個人的に食べてみようという場合は自己責任で(万が一の場合も当方は一切責任を持ちません)。

今回の個体は、前エントリーのトゴットメバルと同様、2012年10月に八王子総合卸売センター内の高野水産に入荷した小田原産の「入り会い」に入っていたもの(当日はキロ1,000円/0.58kg。ただし腹の中に水を大量に飲んだ状態だったので、実際の体重はもっと軽いはず)。写真撮影後は、同店のふぐ調理師に処理してもらい自宅に持ち帰った。今回はブツ切りにして唐揚げに。少々水っぽく感じないでもなかったが、旨味はそれなりに含まれている。トラフグの「魔味」には到底敵わないのは言うまでもないが、そういう比較を抜きにすれば、これはこれで美味い。