新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

374: マスノスケ

サケ目サケ科サケ亜科サケ(タイヘイヨウサケ)属
学名:Oncorhynchus tschawytscha (Walbaum)
英名:Chinook salmon [原], King salmon, Quinnat salmon, Spring salmon

通名(実際には英名の1つ)である「キングサーモン」の方がおそらく通りが良いと思われるが、標準和名は上記した通り「マスノスケ」(その他の流通名としては、スケ、オオスケ、ラシャマスなど)。今回紹介するのは、北海道根室産の体長約65cmの塩漬け天然個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。中烏骨および射出骨付き。

写真上の右側の標本から射出骨を取り除いた後に、両側から観察したもの。「鱒之介/鱒之助のマスノスケ」は、その形状から一目でサケ科の「魚のサカナ」であることが分かるもの。ただし、肩甲骨の上縁が比較的高く盛り上がるために、同科の他の「魚のサカナ」よりも烏口骨の上方突起(『背鰭』に相当)前縁の長さが比較的短いような印象を受ける。またこの前縁のラインも曲線的。烏口骨下方も膨らみ気味で、縦方向に幅広く見える。烏口骨上方突起には大小2つの孔が開いている。

中烏口骨は比較的コンパクトな印象で、その前端は肩甲骨前端を越えない。肩甲骨孔には中心に向かって小突起が存在する。

マスノスケは、サケ属中で最も大きくなる種(FishBaseによると最大記録は全長150cmとのこと)。日本に生息する他のサケ科の魚と外形を比べると、体高は高め、尾柄部は太め、吻端は丸みを帯びる(ただし産卵期の雄個体はいわゆる『鼻曲がり』になるとのこと)、眼は小さめなどの特徴が見て取れる。



『日本産魚類検索 第3版』のサケ科の同定の鍵(ちなみに『第2版』も検索キーは同じ)を辿り、1)頭部が側扁し、頭頂部が膨らむ(写真上段左)、2)鋤骨・口蓋骨の歯帯は『小』字型(写真中段左の赤線)、3)体の背面に黒点が散在(写真上段右および下段左)、4)尾鰭全面に黒点が散在する(写真下段右)、5)下顎歯基底部は黒色(写真中段右)、6)尾鰭後縁は黒く縁取られる(写真下段右)などの形質からマスノスケであると判断。また『新訂原色魚類大圖鑑』に記載されている、7)眼は小さい、8)口は大きい、9)歯は円錐形、10)体色は背面が青緑色で、腹面は銀白色、11)背面、背鰭(写真下左)、尾鰭に黒色斑が散在などの形質も確認した。今回も内臓と鰓の除去後に塩漬けされた成魚であるため、パーマークの確認や鰓耙数の計測は不可能であった。

日本国内にマスノスケが恒常的に産卵を行う河川は存在しないと考えられており、ロシアに回帰する個体の内、極少数が主に北海道(他には青森県岩手県など。後者に関しては『いわての魚類図鑑』の「マスノスケ」の項を参照)の太平洋沿岸で漁獲されるとのこと。実際国内で一般に流通している「キングサーモン」は、ほとんどがカナダ/チリ/北欧などで養殖もしくは漁獲されたものであり、国産の天然個体の希少性は非常に高い。本稿で紹介した個体は、2012年12月に角上魚類日野店の新巻・塩鮭販売用の特設テントで売られていた塩漬けされた国産の天然もの。北海道根室市カネキョウ三友冷蔵製(「本ちゃんますの助」のタグ付き/写真下)で、当日は1匹7,000円で購入(当日の価格的には他のサケ科魚種の「新巻」のおよそ2〜3倍。ちなみに2013年の同時期にはカナダ産の塩漬け天然キングサーモンが12,000円で販売されていた)。帰宅後に計量したところ、セミドレス(鰓と内臓が除かれた状態)で約3.5kgあったので、キロ単価はざっと2,000円となる。今回は定番の「焼き」で。火を通す前の身はかなり柔らかいが、焼いた後には固くなる。とはいうものの口にした時にパサつく感じは全くなく、脂の乗りが良いことも相まって、しっとりしたキメの細かさを感じさせるもの。「本ちゃん」表示イコール「山漬け」イコール「塩辛い」という訳では必ずしもないようで、実際はかなりの甘塩。身に含まれる旨味は多くかつ上品なもので、塩漬けにされたサケ科の魚で時に目立つエグ味や臭みは全くない。筆者がこれまでに口にした経験がある「塩をしたサケ科の魚」の中では、間違いなく最高の美味。筒切りにした上で一部は近所に住む親戚にお裾分けしたが、ここでも「これは抜群に美味いね」と大好評であった。


ということで、本業の方が超多忙であった関係で何と約9ヶ月振りの『図鑑』更新になってしまいました。ただしこの期間中も『下書き記事』の数だけは少しずつながら増えており、この記事の執筆時点で60種ほどの『ストック』は確保しています。これからまた少しずつ、できる範囲で『蔵出し』して行きたいと思います。