新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

375: アカカサゴ

【注】2013年2月に発売された『日本産魚類検索 第3版』では、以前から単系統性に大きな疑問が呈されていた『カサゴ目』がとうとう消え、それまでに認められていた亜目(カサゴ亜目、カジカ亜目、セミホウボウ亜目)は、全て『スズキ目』に組み入れられた。またカサゴ/カジカ亜目内の分類も再検討され、例えばこれまでフサカサゴ科内に『亜科』としてまとめられていたものが、メバル科、ヒレナガカサゴ科、ハチ科などの『科』に格上げされ分離された。本『図鑑』も将来的には同書の改訂点に合わせて全面的に改稿する予定だが、残念ながら近い内にこれまでに書いた全てのテキストを見直して、改稿/リンクの貼り直しを行うのは不可能というのが正直なところ。ということで、取りあえず当座は『カサゴ目』を用いていた『タグ』の部分と、各エントリーの頭の『分類』の項だけを修正し、それ以上の改稿は今後の『宿題』とさせて頂きます。

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スズキ目カサゴ亜目フサカサゴ科シロカサゴ
学名:Setarches longimanus (Alcock)
英名:Red smooth scorpionfish [原], Red deepwater scorpionfish

愛知県蒲郡市西浦漁港産の全長約20cmの雌個体(卵巣を確認)から摘出した左右の「魚のサカナ」。射出骨付き。「赤笠子のアカカサゴ」の形状は、比較的『体高』(肩甲骨と烏口骨本体の高さ)が低めで、その上に扇のように射出骨が広がるという、カサゴ亜目の「魚のサカナ」に共通する特徴を有している。ただし烏口骨の本体と『嘴』(「魚のサカナ」の『尾』に相当)部分を繋ぐ部分が大きく湾入している点でメバル科の「魚のサカナ」とは大きく異なり、これまで紹介してきたものの中では、やはり極近縁種であるシロカサゴのものに酷似する。またこの部分は以前から紹介しているシロカサゴの標本よりも今回のアカカサゴのものの方がより深く湾入しているが、本稿の最後にまとめた「両種の比較」から判断する限り、単なる個体差の可能性が高い。ただし烏口骨の『嘴』部分は、アカカサゴのものの方がスラッとより長いように思われる。



写真の個体の入手時には『日本産魚類検索 第2版』の同定の鍵を辿り、1)側線は溝状(写真下段左)で薄い円鱗に被われる、2)臀鰭は3棘5軟条(写真下段右/この写真では軟条部分が見にくいが)、3)体は赤い、4)主上顎骨中央部に隆起線がない(写真中段左)、5)体はやや側扁する、6)前鰓蓋骨第2棘は著しく小さい(写真中段右)という形質を確認してアカカサゴであると判断した。外見や体色が非常に良く似たシロカサゴとは、形質6(シロカサゴの前鰓蓋骨第2棘は良く発達する)で区別することができる。また2013年2月に発売された『日本産魚類検索 第3版』で追加された形となる「腹鰭は1棘5軟条」という検索キーも当時撮影しておいた写真から確認できた。

また背鰭棘に「刺毒」があるとしている資料やネット上の情報も多いが、実際に毒を持つかどうかはまだ良く分かっていない模様。ちなみに今回のアカカサゴ(および比較に用いたシロカサゴ)には、鱗が剥がれていたためか、以前より紹介していたシロカサゴ個体には見られた「肛門より前方の腹部正中線上にある明瞭な黒線」が認められなかった(写真下右)。また今回のアカカサゴ個体の尾鰭の先端には比較的明瞭な黒帯が認められる(写真下左)が、似たような個体の写真や図はネット上や筆者が所有する図鑑などでは見つけられなかった。単なる個体差なのだろうか?

そもそもアカカサゴ/シロカサゴとも水揚げ漁港付近で消費される程度で一般にはほとんど流通せず、仮に流通した場合でも標準和名シロカサゴが「赤カサゴ」とされていることも非常に多い(実際シロカサゴの体色の方がより赤く見えるくらいなので仕方ないとも思うが)ため、標準和名アカカサゴを狙って入手するのはそれなりに難しいはず。

今回の個体は、2012年12月に愛知県蒲郡市にある西浦鮮魚マーケット組合の○河・河井商店で見つけたもの。何気なく眼を向けたシロカサゴが10匹ほど盛られたザルに1匹だけアカカサゴが混じっていることに気付いて即購入(ちなみにお代は全部で300円)。今回入手したのは1匹だけということで、残りのシロカサゴや玉ねぎ/ジャガイモ/セロリなどと一緒に、同じ日に購入したミノエビ(店頭表示はカブトエビ)およびヒゲナガエビ(店頭表示はガスエビ)の頭(刺身にした残り)でとったスープで煮込んでブイヤベース風に。身は柔らかめだが、エビの濃厚な旨味の中にあってもアカカサゴ独特の風味は確かに感じられる。美味。ただしシロカサゴとアカカサゴの味には大きな差はなさそうというのが率直な印象。もう少し多くの個体が手に入ったら色々食べ比べしてみたい。

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【アカカサゴとシロカサゴの見分け方】

以下の表は、本稿のアカカサゴと、同じトレイの上に盛られていたシロカサゴ(底曵き漁の獲物に「典型的」な状態の悪さのもの)の内1匹の各部分を細かく比較したもの。やはり「前鰓蓋骨棘」で見分けるのが妥当であると思われるが、もしかしたら吻長や頭部の体色(アカカサゴの方が吻長が多少長い/体色はシロカサゴの方が赤い)なども、ある程度の目安にはなるかも知れない。またこの個体から調製した「白笠子のシロカサゴ」の標本では、烏口骨の本体と『嘴』を繋ぐ部分が大きく湾入しているのがお分かり頂けるはず。

アカカサゴ
シロカサゴ
全体
頭部
前鰓蓋骨棘
前鰓蓋骨棘
(標本)

尾鰭
腹部
「魚のサカナ」