新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

322: ヒレナガカサゴ

スズキ目カサゴ亜目ヒレナガカサゴヒレナガカサゴ
学名:Neosebastes entaxis Jordan and Starks
英名:Longfin rockfish [原], Oriental gurnard perch, Orange-banded scorpionfish

静岡県沼津産の全長21cmの干物から射出骨付きで摘出した左右の標本。「鰭長笠子のヒレナガカサゴ」の形状は、直感的にこれまで紹介してきた典型的なカサゴ亜目の「魚のサカナ」と「似ている」と思わせるものだが、各パーツ別に比較すると、1)射出骨の高さが低い、2)烏口骨本体下部から『嘴』部にかけて大きく湾入する、5)烏口骨の『嘴』部分が比較的長く直線的に伸びるなどの特徴がある。非常に面白いことに、これらの特徴は現在は分類される科が違うハオコゼ科のハオコゼの「魚のサカナ」でも見られていたもの。ヒレナガカサゴのものには烏口骨の『背鰭』部分に小孔が存在しないなど両者間には相違点もあるが、実際に「鰭長笠子のヒレナガカサゴ」と「葉虎魚のハオコゼ」の写真を並べて比較すると、筆者には両者の全体的な形状はかなり似ているように思われるが如何だろうか?

2006年に出版された J. S. Nelsonの "Fishes of the World 4th ed." によれば、ヒレナガカサゴ亜科(『日本産魚類検索 第3版』からは「ヒレナガカサゴ科」)の分類上の位置付けに関しては、様々な議論があり未だにはっきりしていないとのこと(同書p.322 "SUBFAMILY NEOSEBASTINAE - ヒレナガカサゴ亜科" 参照)。この「様々な議論」の一例として、文章中には「ヒレナガカサゴ亜科が、分岐分類学的にはハオコゼ亜科/オニオコゼ亜科/イボオコゼ亜科/ハチ亜科が含まれる分岐群に対して姉妹群関係にある」ことを提唱した論文が引用されている【参考文献】。今回ヒレナガカサゴとハオコゼの「魚のサカナ」間に少なからぬ相似点が見出された訳だが、これは上記の説を支持するものなのかも知れない。また論文中の「厳密合意樹(strict consensus tree/Fig.2)」では、ヒレナガカサゴ亜科とハオコゼ亜科の間にハチ亜科が入るような形になっている。その意味でハチの「魚のサカナ」は是非とも見てみたいところである。

【参考文献】IMAMURA H., Phylogeny of the family Platycephalidae and related taxa (Pisces : Scorpaeniformes) Species Diversity 1:123-233 (1996). PDFのダウンロードはこちらから。



購入時には既に鱗が除去されていたために、フサカサゴ科の「第1検索」は実施不可能であったが、「溝状の側線」を持つヤセアカカサゴ/クロカサゴ/アカカサゴ/シロカサゴとは外形が明らかに異なることから、1)「側線は側線有孔鱗で開口する」ものとして進め、2)胸鰭に遊離軟条がない(写真下段左の青四角/最下部の2軟条間にも鰓膜を確認できる)、3)胸鰭も背鰭も大きいが、胸鰭は臀鰭起部にかろうじて達する程度、4)胸鰭に欠刻がない、5)背鰭は13棘7軟条(写真中段右/この写真では分かりにくくて申し訳ない)、6)頬に強い棘と隆起線がある(写真下段右/背側から撮影)、7)背鰭棘は著しく長い(写真中段右)などの形質から確かにヒレナガカサゴに到達することを確認(以上『日本産魚類検索 第2版』によるもの)。

沼津港にある「魚健」で購入した天日干しの干物(当日は1枚180円)。店頭では開いた身を上側にして干されていたために当初は全く気づかなかったが、筆者がトウジンの干物/鮮魚のダツとあまり一般的でない魚を選んでいたのを見た店の方が「変わった魚がお好きなんですか?実はこれヒレナガカサゴっていうらしいんですが、かなり珍しいみたいですよ」と勧めてくれたもの。ヒレナガカサゴには初遭遇であったためもちろん即購入。帰宅後に調べてみると、ぼうずこんにゃく氏のサイトにも「珍魚」とはっきり書かれているので、一般に出回るのは本当に珍しい魚なのだろうと推察(ちなみに「ヒレナガカサゴ」の画像検索でヒットするのは、ダイバー達が撮影した生体写真がほとんどである)。ということでワクワクしながら焼き、できる限り客観的になるように心掛けながら味見。中まで火が通った身は、シロサバフグの一夜干しのようなブリブリの食感。骨からの身離れこそ余り良くないものの、立ち上る香りはキチジやアコウダイなどのそれを思わせるもの。脂が程よく乗っており、旨味もかなり多い。魚健さんの塩加減も自分の好みにぴったり合ったのだろうが、はっきり言って非常に美味い。ということで、骨にこびりついている身までしゃぶり尽くして大満足。