新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

321: ダツ

ダツ目ダツ亜目ダツ上科ダツ科ダツ属
学名:Strongylura anastomella (Valenciennes)
英名:Pacific needlefish [原], FishBaseに英名表記なし

静岡県沼津産の全長約66cmの個体から摘出した左右の標本。射出骨付き。写真右は、写真左の左側の標本を反対側から観察。「駄津のダツ」の形状は、これまでに紹介したダツ目の「魚のサカナ」とは大きく異なり、1)肩甲骨孔は大きく、丸みを帯びた四角形に近い、2)烏口骨本体下部は直線的で、そのラインに対しほぼ垂直方向に『嘴』部の骨梁(キール)が伸びる、3)『背鰭』の下部に小孔が存在するなどの特徴も含め、全体的にかなり個性的なもの。各パーツ毎に見てやると、肩甲骨の先端が体の外側(写真左では写真の手前側)に向かって大きく湾曲し、比較的大きめの肩甲骨孔を持つなど、肩甲骨部分はサヨリのものに比較的似ているように思われる。またアーチ状でがっしりした印象を与える烏口骨部分の形状は、どれかと言えばボラ目のボラのそれを彷彿させるもの。

今回の「駄津のダツ」は射出骨と肩甲骨上部が緑色に染まっている。同じような現象はこれまで「秋刀魚のサンマ」でも観察されていたが、胆汁色素の一種である「ビリベルジン(胆緑素)」の蓄積が原因であると考えられるもの。



「日本産魚類検索 第2版」によれば日本近海に生息するダツ科の魚は4属6種類のみなので、種の同定は比較的容易。今回の魚は、1)尾柄部側面に隆起線がない(写真下段右)、2)体側に暗色横帯がない(写真下段左)、3)側線に胸鰭分枝がある(観察可能であったが上手く撮影できなかった)、4)鰓蓋中央部に鱗がない(写真中段右の緑丸)、5)頭部の鱗は小さい(写真中段右の赤四角)などの形質から標準和名ダツであると判断。また「新訂原色魚類大圖鑑」に記載されている、6)臀鰭起部(写真下右青線)は背鰭起部(同赤線)よりやや前方、7)鼻孔は三角形、8)尾鰭はわずかにくぼむ(写真下段右)などの形質も確認。更に「検索」「原色」や「釣魚1400種図鑑」などの図表/写真を見る限り、「胸鰭の先が黒い」こともダツを見分ける良いポイントになりそうである(写真下左)。

ダツは非常に獰猛な魚で、上下の顎には鋭い骨がぎっしり並ぶ(写真中段左)。また光に向かって突き進む(小魚の群れがキラキラ光っていると勘違いするらしい)という性質があり、夜間の釣りや漁業、ダイビングの照明に向かってダツが突進し、人の体や眼にこの鋭い吻部が突き刺さって大怪我をするという事故も少なくないとのこと。要注意。

2012年3月の沼津釣行の際に立ち寄った、沼津港「ぬまづみなと商店街」にある魚健で購入(当日は380円)。銀色に輝く魚体/真っ黒の眼/鮮紅色の鰓と見るからに非常に新鮮な個体。ダツの仲間は「骨が緑色(写真下)で気味が悪い」などと言われているが、筆者は全く気にならないので早速チャレンジ。3枚に下ろすと、体全体に脂がたっぷり乗っており、特に腹腔の内側には約1~2mm厚の脂の層が貼り付いているような状態。当然皮目にも大量の脂が乗り、皮を引くと包丁にも脂がべっとりと付くほど。まず小骨がない後部3分の1を刺身で試食。血合い部分を含めた見た目はやはりサヨリなどのものに似た印象。旨味の量は少なくなく、何よりも脂からくると思われる甘味を強く感じる。ムッチリとした食感の身質も悪くない。魚体のサイズや漁獲された季節によっても異なると思われるが、少なくとも今回の個体の刺身は十分に美味いと言える。小骨の多い前部側はそのままブツ切りにし、塩こしょうで下味を付けてから小麦粉を振って唐揚げに。小骨が当たるので確かに食べにくいが、やはり身の味自体はかなり良い。これまで「ダツは味もなく、小骨が多くてどうしようもない魚」というようなイメージを勝手に抱いていたが、少なくとも「味」の部分に関しては良い方に期待を裏切られた(後ほど気付いたことだが「新訂原色魚類大圖鑑」にも『美味』との記載がある)。丁寧に小骨を抜く、もしくは骨切りをするなどの手間を掛ければもっと美味しく食べられそうであるが、実際この「手間」を掛けられるかどうかが一番難しいところかも知れない。

【注】「ダツ」をネット検索すると「寄生虫を持つので火を通した方が良い」との記述をしばしば見かけ、またダツに寄生していたという「白いミミズ」のような生物の画像も引っ掛かってくる。今回下ろした身には、少なくとも「白いミミズ」は見当たらなかったので生食にチャレンジしたが、相手は寄生虫なのでもちろん「100%安全」とは断言できない。ということで、ダツを生食する場合は自己責任で、、、とは言っても、そもそも「ダツ刺」を食べたいと思う人がそれほど多いとも思えないが。またこの『寄生虫』に関しては色々検索してみたが、結局この生物の正体は判明しなかった(サヨリヤドリムシのような、ウオノエの仲間がダツにも寄生することは確認できたが、この仲間は人間には無害のはず。ちなみに2012年4月現在「水産食品の寄生虫検索データベース」にはダツの寄生虫の記載はない)。もし何らかの情報をお持ちの方がいらっしゃったら是非ご教授頂きたい。