新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

256: ビワヒガイ(恐らく)

コイ目コイ上科コイ科カマツカ亜科注1ヒガイ属
学名:Sarcocheilichthys variegatus microoculus Mori注2
英名:FishBase、「新訂原色魚類大圖鑑」ともに英名表記なし。

琵琶湖産魚の「なれ鮨」(鮨になった状態で全長約15cmのもの)から摘出した左右の「魚のサカナ」。中烏口骨付き(左側の標本では烏口骨との接合部が外れてしまっている)。写真からも分かるように左右幅が5mm程度と元々極小の「魚のサカナ」で、かなり醗酵が進んだ「なれ鮨」から顕微鏡なしで何とか穿り出したもの(よって骨の一部が欠失している可能性は低くない)。

さて「琵琶鰉(ヒガイは魚偏に皇)のビワヒガイ」は、これまで紹介してきたものの中では、あまり特徴のない肩甲骨、帯状に伸びた烏口骨、三角形の立派な中烏口骨など、本稿の直前のエントリーであるコイのものに最も似ているが、より左右方向に伸びたような印象を受ける。写真右は写真左の右側の標本を反対側から観察したもの。肩甲骨後方の上部に突起のような構造があることが分かる。位置的に射出骨の1つである可能性もあるが、この構造と肩甲骨の結合は非常に強固で、ここを分離しようとしたら、中烏口骨はおろか肩甲骨と烏口骨の結合部が折れてしまったほど。結局分離不能だった。ということで、今のところ筆者はこの部分は肩甲骨の一部であろうと考えている(要確認)。

どちらにしても「醗酵」を経た、あまり状態の良くない標本なので、将来的に鮮魚から摘出した時点で改稿する予定。



ヒガイを「鰉」(魚偏に皇)と書くのは、明治天皇が琵琶湖辺りで食べたヒガイの美味しさを気に入り、宮内省の御用魚としたことにちなむとのこと(「広辞苑」にもこの旨の記載あり/ちなみに中国では、同じような理由で「鰉」が「チョウザメ」を表すとか)。何時もの様に「日本産魚類検索」の「同定の鍵」を辿り、1)背鰭の最長鰭条に鋸歯縁がない(写真中段左)、2)臀鰭基部は背鰭基底後縁より後にある、3)眼の上縁は吻端よりも上、という形質までは辿れたが、4)口元にひげがあるかどうかは残念ながら良く分からなかった。ただし、5)胸部腹面は有隣(写真下段左/ただしこの写真では分かりにくい)、6)背鰭前縁は軟らかい、7)胸鰭基底上方に半月形の暗色斑あり(写真中段右の赤丸)、8)背鰭に黒色縦帯がある(写真中段左)、9)尾柄部が頭長の47%程度(=顔が長い)、更には「新訂原色魚類大圖鑑」にある10)尾鰭の切れ込みが深いという特徴が確認でき、11)琵琶湖産であることから、今回はビワヒガイと判断した。ただし「新訂原色魚類大圖鑑」のイラスト(p.141~142)を見ると、背鰭の黒色縦帯がビワヒガイでは鰭縁に、またカワヒガイでは鰭の途中に描かれている。その点だけに注目すると、この個体は亜種関係注2にあるカワヒガイである可能性も?ちなみに同書によると、ビワヒガイ/カワヒガイとも、口元のヒゲがない場合もあるとのこと。

大津市長等商店街にある生鮮館げんさん大津店で購入した「鰉のなれずし」。滋賀県大津市堅田田村淡水が製造したもので、当日は1パック5匹入りで580円。「なれ鮨」ということで、本来(鮮魚)のビワヒガイの味を想像するのは難しいが、強い酸味の中にも少なからず旨味を感じる。脂の乗りも悪くない。ただし皮は少々固い。個人的にはなかなか美味いと思ったが、少なくとも「なれずし」に関しては、好き嫌いがはっきり分かれると思われる。


【注1】コイ科の分類体系は構築途上にあるため、今後の研究の進展によっては亜科名などが大幅に変更になる可能性も高いという話。

【注2】ネット検索では「ビワヒガイ(とカワヒガイ)が亜種から種に格上げされ、学名がSarcocheilichthys microoculus Mori になった」旨の記述も散見されるが、「日本産魚類検索 第2版」、「新訂原色魚類大圖鑑」、更には FishBase(2011年8月現在)においてももこの変更はされていない(=亜種小名付きの学名が "accepted name / valid")。以上のことから、本稿ではビワヒガイ/カワヒガイを「亜種」であるとした。