新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

255: コイ

コイ目コイ科コイ亜科コイ属
学名:Cyprinus carpio Linnaeus
英名:Carp [原], Common carp

琵琶湖産の個体(恐らく養殖もの)のアラから摘出した「魚のサカナ」(エタノール固定前)。中烏口骨付き。全体的に非常に複雑な形で、様々な場所に孔が開いているのが分かる。また写真右は、写真左の左側の標本の拡大図。骨の上部に「王冠」のように見えるのが射出骨の固まり。その根元左側に孔の開いた骨の様に見える部分があるが、実際は骨ではない(下記参照)。

立体的かつ複雑な形の骨ということで、上の射出骨なしの標本(エタノール固定および乾燥後)の両側から撮影したものを使って少々詳しくご説明。赤で囲った部分が肩甲骨(肩甲骨孔が確認できる)、青で囲った部分が烏口骨、緑で囲った部分が中烏口骨となる。裏側から見ると肩甲骨は比較的普通の形。一方烏口骨は、上方の『背鰭』部分が比較的緩やかに盛り上がり、『嘴』部分は太めだが、その先端がギザギザで所々に孔が開いているというかなり個性的な形状。中烏口骨は太く立派で、その最遠部あたりが突出している。

射出骨付きの標本(エタノール固定および乾燥後)を裏側から観察。上記した「射出骨の固まり根元付近にある孔の開いた部分」(写真右の緑矢印)が、実際には骨ではなく「腱」のような組織であることが分かる。第3および第4射出骨には小孔が存在。また第4射出骨の肩甲骨や烏口骨と接している部分は非常に細く、その上に大きめの本体が乗っているような状態であるため、非常に折れやすい。今回も一度折れて外れてしまったものをもう一度付着させたもの。ただし接着剤は使っておらず、面白いことに固定および乾燥の過程で第3射出骨に再結合した模様。




滋賀県近江今津にある川魚店・西友(にしとも)辻川店でサービスにもらった「アラ」(約1匹分)ということで、この個体の体長などは不明だが、素人が一目見てもコイであることが分かるもの(ただし近い将来、現在の「コイ」が2種に分けられる可能性は高そうである)。念のため「日本産魚類検索」を開き、1)背鰭の最長鰭条に鋸歯縁がある(写真中段左/標本にしたもの)、2)口に2対のひげがある(写真中段右の赤丸)という2つの形質を確認した。口に歯はなく、喉の奥に咽頭歯(いんとうし)が発達する(写真下段左の白い歯)のも大きな特徴。またコイの鱗(写真下段右)は軟骨質(?)で非常に大きく、唐揚げなどにして食べることが出来る。

当日店頭で販売されていた、同じ個体のもの思われる身を洗い/子まぶしで売っていたのでそちらも購入(それぞれ1人前200円/230円と格安)。洗い(写真下左)はコリコリとした食感とほんのりと感じる旨味が爽やかな正に夏らしい味。子まぶし(写真下右)は注文後にその場で子をまぶしてくれたものだが、洗いのさわやかさに子の旨味が加わって非常に美味い。ただしコイ(特に野生/天然の個体)は有棘顎口虫の中間宿主となることが知られているので、生食する場合は自己責任で。今回は食べていないが、鯉コクやうま煮なども美味い。


【注】東大・大気海洋研究所の西田睦教授、馬渕浩司助教らの研究によって、琵琶湖などに生息している「細身」のコイ(いわゆる「野ゴイ」)と、養殖されている普通のコイ(錦鯉を含む)の2系統のミトコンドリアDNA配列間には「亜種というよりは、別の種として考える方がふさわしいこともある」(下の新聞記事から引用)ほど大きな違い(約3%)が見出され、また系統解析の結果から「細身」のコイは日本原産の在来種である可能性が高いことが示唆されている。関連する以下の2報の原著論文の要旨は以下のリンク先を参照(ただし、全文PDFのダウンロードは、どちらも「要アクセス権」)。また西田研HP内の「琵琶湖産コイの起源についての研究成果が産經新聞で紹介されました」では、2006年当時の産經新聞の記事(こちらは日本語で良くまとめられたもの)を読むことができるのでご参考までに。

1)K. Mabuchi, H. Senou, T. Suzuki, M. Nishida. Discovery of an ancient lineage of Cyprinus carpio from Lake Biwa, central Japan, based on mtDNA sequence data, with reference to possible multiple origins of koi. Journal of Fish Biology 66:1516-1528 (2005) (要旨およびPDFのダウンロードはこちらから)。
2)K. Mabuchi, M. Miya, H. Senou, T. Suzuki, M. Nishida. Complete mitochondrial DNA sequence of the Lake Biwa wild strain of common carp (Cyprinus carpio L.): further evidence for an ancient origin. Aquaculture 257:68-77 (2006) (要旨およびPDFのダウンロードはこちらから)。

(8/29/11 一部改稿)