新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

254: ヌマチチブ

スズキ目ハゼ亜目ハゼ科ゴビオネルス亜科チチブ属
学名:Tridentiger brevispinis Katsuyama, Arai and Nakamura
英名:Threadfin goby [原/ただしヌマチチブ・チチブの区別なし], FishBaseに英名記述なし。

関東や東海地方で「ダボハゼ」(地方によっては「ゴリ」とも)と呼ばれるハゼ科の小型魚の1種。神奈川県横須賀市秋谷海岸近くを流れる太田川の河口での釣りもので、全長約8cmの個体から摘出。「沼知知武(沼知々武)のヌマチチブ」は、他のハゼ科の「魚のサカナ」と「巨大な射出骨の下に極細の肩甲骨がへばりつく」という特徴を共有しているが、既に紹介済みのマハゼキヌバリのものと比べると、射出骨の前縁と後縁が丸みを帯び「横からみた肉まん」のような形になっているのが恐らく最大の相違点。また烏口骨の形は比較的良く似ているが、その上方突起(『背鰭』)部分の先端があまり鋭角的に尖らない。射出骨の表面の「引っ掻き傷」は多めで、各射出骨間に小孔は確認できない。



キヌバリ」の項でも述べた通り、ハゼ科の魚は種の数がそもそも多い上に、サイズ的にも小型の種を多く含むため、その同定はしばしば困難を伴う。また今回入手した個体は釣られてから時間が経っていたこともあって、提供してくれた人の話でも「釣れてすぐの時と体色が全然違う。こんなに真っ黒じゃなかった。」とのこと。そこで今回も「日本産魚類検索」の『同定の鍵』を慎重に辿り、1)体側に側線がない、2)下顎先端は円錐状に突出しない、3)背鰭は2基、4)第1背鰭棘数は6(写真中段左)、5)頬に横列皮褶がない(写真下段右)、6)眼下に眼を収納するくぼみがない(写真下段右)、7)下眼瞼がない(写真下段右)、8)腹鰭は完全な吸盤である(写真中段右)、9)体形が伸長している、10)口は多少とも傾斜する(写真下段右)、11)背鰭起点から背中線上に皮質隆起がない、12)第1背鰭第1棘は軟らかくて曲げられる(写真中段左)、13)鰓蓋をあけた時、鰓孔の後縁にあたる肩帯上に指状で楕円形をした縦長の肉質突起がない、14)前鼻孔下方に膨出部がない(写真下段右)、15)舌の先端は深く凹まない、16)吻は前に突出せず、上唇前縁を被わない(写真下段右)、17)顔のどこにもひげがない(写真下段右)、18)臀鰭基底は第2背鰭基底とほぼ同長、19)体側に円形の模様がない、20)口角部に皮質突起がない(写真下段右)、21)尾鰭後縁が丸くない、22)鱗がある、23)腹鰭の棘付近は葉状に突出する(写真中段右)、24)第2背鰭は1棘11軟条、25)体の縦列鱗数は42以下、26)胸鰭最上鰭条は遊離しない(写真下段左)などの形質から、ヌマチチブ/チチブ/ナガノゴリの3種類のどれかであると判断。ここで、ナガノゴリはこれまで種子島屋久島および琉球列島などからしか報告されていないとのこと(「日本産魚類検索」と「WEB魚図鑑」参照)なので、今回の魚の産地からして可能性は低いということで除外。この魚では第1背鰭の基底から離れた上方に明瞭な暗赤色帯が確認できない(写真中段左)ものの、27)背鰭は糸状に伸びているが糸状部は短い(写真中段左)、28)頭側に青みを帯びた白点がまばらに散在(写真下段右)、29)胸鰭基部に薄茶色の横帯があり、その中に枝分かれした橙色線がある(写真下段左右)ことから、今回はヌマチチブであると判断した。とは言え、チチブ/ヌマチチブの同定は非常に難しい(交雑個体なども結構な頻度で現れるとのこと)そうなので、今回の同定が間違っている可能性も十分に考えられる。その場合は是非ご指摘頂きたい。

これも職場の関係者からの「頂き物」。今回は食していないので食味は不明。ネット上の情報によると、佃煮、唐揚げ、更には塩焼きなどでもなかなか美味であるとのこと。


【謝辞】本稿を書くにあたり、以下のサイトを参考にさせて頂きました。
日本産汽水・淡水(+海産)はぜ類図譜