新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

297: ジュズカケハゼ(広域分布種)

スズキ目ハゼ亜目ハゼ科ゴビオネルス亜科ウキゴリ属
学名:Gymnogobius castaneus (O'Shaughnessy)
(Gymnogobius sp. Widely-distributed species)
英名:Nal-mang-duk [原]

青森県産の全長約5cmの個体から、実体顕微鏡下で摘出した「魚のサカナ」。非常に小さな標本で左右長が5mm程。写真右および下は、写真左の左側の標本の拡大図。この標本では第2/第3射出骨の間隙に孔が開いているが、反対側の標本では第1/第2射出骨の間隙に孔が開いている。この部分に関してはどうやら個体差がある模様。

さて「数珠掛鯊のジュズカケハゼ」は、「巨大な射出骨の下にへばりついた極細の肩甲骨」という他のハゼ科の「魚のサカナ」との共通点を有しているが、1)第1射出骨の先端が前方に大きくかつ鋭角的に突出する(写真左/上とは反対側から観察したもの)、2)烏口骨がほぼ三角形で『背鰭』部は高いが、『嘴』部は著しく短い(写真右)などの相違点を挙げることができる。



何時もの様に「日本産魚類検索」を紐解き、1)体側に側線はない、2)下顎先端は円錐状に突出しない(写真下段左)、3)背鰭は2基、4)第1背鰭棘数は7、5)頬に横列皮褶がない、6)眼下に眼を収納するくぼみがない、7)下眼瞼がない、8)腹鰭は完全な吸盤である(写真中段左)、9)体形が伸長している、10)口は多少とも傾斜する、11)背鰭起点から背中線上に皮質隆起がない、12)第1背鰭第1棘は軟らかくて曲げられる、13)鰓蓋をあけた時、鰓孔の後縁にあたる肩帯上に指状で楕円形をした縦長の肉質突起がない、14)前鼻孔下方に膨出部がない、15)舌の先端は深く凹む(写真中段右)などの形質で、ハゼ科のアゴハゼ属/ウキゴリ属/ウロハゼ属であることがほぼ確定。更に 16)胸鰭上縁の軟条は遊離しない、17)体側鱗は小さく50以上(少なくとも30前後ではない)、18)両眼間隔は眼径よりも狭い、19)口角は眼の後縁を越えない(写真下段左)、20)感覚管がない(=感覚管開孔がない/写真下段右)などの形質を確認しジュズカケハゼであると判断。ただし、ジュズカケハゼ/ビリンゴ/シンジコハゼを見分ける際に最大のポイントとなる形質20に関して、正直なところ正確に見分けられているのか自信がない。故に本稿の魚がビリンゴやシンジコハゼである可能性を完全に排除できないことを書き添えておく。

また「シリーズ・Series 日本の希少魚類の現状と課題 〜ジュズカケハゼ種群:同胞種群とその現状〜」(魚類学雑誌 57:173-176 (2010)/PDFファイルのダウンロードはこちらから)によると、遺伝子レベルの解析などから、現在「ジュズカケハゼ」とされている魚には複数種が含まれる可能性が示唆されているとのこと。そこで上記資料を参考にして今回の魚を更に詳細に観察すると、1)青森県に分布、2)吻長/両眼間隔幅/顎長が短い、3)顎の後端部が目の中央より前方、4)脊椎骨数が34、5)第2背鰭軟条数が9、臀鰭軟条数が9の計18、6)第1背鰭後半部に黒斑あり(写真上)などの分布/形質から「ジュズカケハゼ広域分布種」に分類されるものであると判断した(本当にジュズカケハゼであるかどうかを含め、同定が間違っている場合はご教授頂ければ幸いです)。

2011年9月に角上魚類日野店で購入した、ほぼ同じサイズのヌマチチブとジュズカケハゼが半々程度に混じったパックから選別したもの(当日はキロ800円で1パック0.15kg入り、表示は「ごり」)。今回は定番と思われる「ごりの佃煮」に。ご飯にも酒にも良く合って美味。


【注】ウキゴリ属の分類に関しては以前大きな混乱があったようで、資料(文献/DB)によって記載されている学名がかなり異なっている。筆者が理解しているところでは、アジア産のアゴハゼ属とウキゴリ属の魚を再記載した以下の論文(リンク先からPDFがダウンロード可能)が現在の最新版ということになるようだが、上記したように「ジュズカケハゼ」が近い内に最分類されて複数種に分かれそうであることなど、筆者のような素人がこの仲間の魚を簡単に見分けるのはまだまだ難しそうである(そもそも「簡単に見分けられるようになる日」がくるのだろうか?)。

Stevenson, D. E. (2002) Systematics and distribution of fishes of the Asian goby genera Chaenogobius and Gymnogobius (Osteichthys: Perciformes: Gobiidae), with the description of a new species. Species Diversity, 7: 251-312.

2012年1月現在での各資料における学名/和名の対比表を下に示す(FishBaseに関しては、Common Names欄に記載された日本語名を抜粋)。Stevenson (2002)とFishBaseでさえ一致していないことに注意。

学名/文献・DB
Stevenson (2002)
FishBase
新訂原色魚類大圖鑑日本産魚類検索 第2版
Gymnogobius castaneusジュズカケハゼビリンゴ(ジュズカケハゼも併記)ジュズカケハゼビリンゴ
Gymnogobius taranetziシンジコハゼシンジコハゼ--
Gymnogobius breunigiiビリンゴビリンゴ(単一記載)--
Gymnogobius laevisG. castaneus の synonymG. urotaenia の junior synonym
(G. castaneus では misapplied name)
-ジュズカケハゼ
Gymnogobius urotaeniaウキゴリウキゴリ/ジュズカケハゼウキゴリウキゴリ
Gymnogobius sp.3---シンジコハゼ

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【参考】下の写真は同じパックの中から取り出したもので、体色などは上記の本稿で紹介したジュズカケハゼにそっくりだが(ただし眼の向いている方向は横向きで異なる/写真下段右)、眼の前方から両眼間隔域を通って眼の後方に至る感覚管と思われる構造が明確に確認できることから(写真下段右の赤矢印/ただし感覚管の開孔は確認できなかった)、ビリンゴ(Gymnogobius breunigii (Steindachner))の可能性がある個体から摘出した標本。ただし上記の通りジュズカケハゼとビリンゴを見分けるポイントは非常に難しく、実際この構造が「感覚管」なのかどうかも確信を持てない(ので詳しい方のご意見を拝聴したい)。もし今後の調査で「微倫吾のビリンゴ」であることが確定したら別項に分けるつもりである。「魚のサカナ」の基本的な形は「数珠掛鯊のジュズカケハゼ」に酷似するが、この標本では第1/第2射出骨および第2/第3射出骨の間隙に比較的大きな孔が開いている。


【追記】2014年11月に、ジュズカケハゼを研究されていたことのある篠粼 様からコメントを頂きました。この個体は「広域型ジュズカケハゼのメス」とのことです(詳細はコメント欄をご覧下さい)。篠粼様、どうもありがとうございました!

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