新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

296: ウミスズメ

フグ目ハコフグコンゴウフグ属
学名:Lactoria diaphana (Bloch and Schneider)
英名:Spiny boxfish [原], Many-spined cow fish, Roundbelly cowfish, Spiny cowfish, Transparent boxfish

静岡県伊東産の釣りもので、全長16cmの個体から摘出した「魚のサカナ」。射出骨付き。 非常に薄くて脆弱な骨であったため、残念ながら右側の標本は烏口骨の大部分が崩壊してしまった。

さて、これまでに紹介してきたフグ目の「魚のサカナ」は、上下を反転させると「アシカ」のように見える『カワハギ型』と、射出骨が長く、その間隙と肩甲骨孔の4つの孔が並んでいるように見える『フグ型』の2つに大別されたが、本稿の「海雀のウミスズメ」の形は『第3の型』に分類し得るもの。小さくて三角形の肩甲骨は『カワハギ型』に似るが、烏口骨の形が独特。薄い骨全体が大きく広がり、中央部で少々曲がる(例えれば「ポテトチップス」のような形)。『背鰭』と『嘴』部分は全く区別できない。写真右は、写真左の完全な標本を反対側から観察したところ。中央部にひだ状に突出した部分が存在する。射出骨は小さく、肩甲骨孔はほぼ真円状。

胸鰭軟条を取り外す前に撮影したもの。この角度のものを眼を細めてみると「ミジンコ」のように見えるのが面白い。



骨質の硬い甲板に被われていることからハコフグ科の魚であることは一目瞭然なので、あとは日本近海に生息する3種類の「角のあるハコフグ」の内のどれかなのかを調べれば良いことになる。「日本産魚類検索 第2版」を開き、1)体の横断面は四角形(写真中段左)、2)側隆起と腰骨隆起は高く、背隆起は低い(写真上段右および中段左)、3)短い眼上棘と短い腰骨棘があり(写真各段右)、背隆起中央の棘は比較的上向きで鋭い(写真下段左)、4)尾鰭は長くない(写真上段左)などの形質からウミスズメであると判断。更には「新訂原色魚類大圖鑑」に記載されている、5)吻が尖り口は小さい、6)腹部左右は張り出し、若魚の腹面は半透明(写真下段右)、7)尾柄には甲板がなく動かすことができる、8)腹鰭がない(写真下段右)、9)亀甲状に暗色の縁取りがある(写真下段左)などの形質も確認した。ちなみに、近縁のシマウミスズメとは形質2および3(シマウミスズメの背隆起は比較的高く、その中央の棘は後方に向かう)と胸鰭より後方(体側部および尾柄部)に虫食い状青色線と斑点がないこと(シマウミスズメにはこれらが存在する)で、またコンゴウフグとは形質4(コンゴウフグの尾鰭は著しく長い)で見分けることが可能。

「魚のサカナ」を摘出するために魚体を茹でたら、甲板の亀甲状の各パーツがバラバラになってしまった。背側(左)および腹側(右)のパーツ。

ハコフグの仲間は、ストレス下に置かれると皮膚からパフトキシン(Pahutoxin もしくは Ostracitoxin)という熱安定性のある溶血性粘液毒を分泌し、例えば水槽などで一緒に飼育されている他の魚を殺してしまうことが知られている。ただしパフトキシンは人間に対しては毒性がないとされており、またハコフグ類の筋肉や肝臓にはいわゆる「フグ毒」として有名なテトロドトキシン(Tetrodotoxin)の蓄積がないことから、その身や肝臓は長年『無毒』とされ食べられてきた(特に『箱』の中に刻んだネギと味噌を入れ、焼きながら身と肝を混ぜて食べる五島列島の郷土料理「みそ焼き」は筆者の大好物でもあったので何度食べたか分からないほど)。ところが近年になって、ウミスズメもしくはハコフグが原因と考えられるパリトキシン(Palytoxin)様毒(生化学的性状がパリトキシンに似ているが、まだ化学構造が解明されていないために『様』が付く)による食中毒の報告が相次ぎ、多くはないが死者も出ている(参考サイト:厚生労働省「自然毒のリスクプロファイル」魚類:パリトキシン様毒)。また厚生省環境衛生局長通知「フグの衛生確保について」内のリストでは、専門家が処理したハコフグの筋肉と精巣は販売可能とされているが、ウミスズメに関しては記載がない(=販売禁止)。ちなみにパリトキシンの毒性は、経口投与における半数致死量レベルで青酸カリの数百倍強いテトロドトキシンより更に数十倍強いという猛烈なものである(参考:wikipedia致死量」)。これだけ警告されて、それでもまだウミスズメを食べたいという場合は自己責任で(万が一の場合も当方は一切責任を持ちません)。

静岡県伊東市川奈の「海女の小屋 海上亭」の目の前にある小さな釣り場で竿を出していた方に頂いたもの(ありがとうございました)。上記したパリトキシン様毒の問題があるので、フグ類専用の器具を用いて標本を摘出しただけで口にはしていない。

このエントリーをもって「2011年11月の伊東漁港シリーズ」は終了です。


【注】2011年秋に筆者も時々利用している御徒町にある鮮魚店が丸のままのハコフグを一般客に販売してしまい、一時的な営業自粛に追い込まれたのは記憶に新しい(参考サイト:除毒されていないふぐ(ハコフグ)の販売について)。