新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

355: アシシロハゼ

スズキ目ハゼ亜目ハゼ科ゴビオネルス亜科マハゼ属
学名:Acanthogobius lactipes (Hilgendorf)
英名:Whitelimbed goby [原](FishBaseに英名表記なし)

青森県産で全長約6cmの雄個体(第1背鰭棘条の先端部が糸状に伸びている/下の写真下段右参照)から摘出した左右の「魚のサカナ」。つまようじの『頭』の大きさからも分かるように標本の幅は4~5mmほどしかない小さなもの。写真右は、写真左右側の標本の拡大図。固定用のエタノールから取り出した後、写真撮影中にも乾燥が急激に進んだ結果、射出骨の内側に白帯状の模様ができてしまった(右の拡大写真の方が『白帯』が大きい=より時間が経ってから撮影されたもの)。

「足白沙魚/足白鯊のアシシロハゼ」は、これまでに紹介してきた全てのハゼ科の「魚のサカナ」で見られた「軟骨質で薄い肩甲骨が巨大な射出骨の下に貼り付く」という最大の特徴をやはり共有している。「魚のサカナ」全体の形状を見ると、射出骨の前先端部が尖る、射出骨の後縁は直線的、烏口骨の上方突起(『背鰭』)部は高くその先端は鋭角的、烏口骨の『嘴』部も比較的長いなど、やはり同属のマハゼ科のものに、またその中でも特にマハゼのものに良く似ている。とは言うものの、「足白沙魚/足白鯊のアシシロハゼ」では 1)肩甲骨孔がより大きい、2)射出骨中央部や後縁部が引っ掻かれたようにならない、3)烏口骨の『背鰭』部はより高く鋭い、『嘴』部はより短いなど、マハゼのものとの相違点を些細ながら複数挙げることは可能である。

ちなみにジュズカケハゼヌマチチブなどとは「魚のサカナ」の形状がそれなりに異なるので、これらの種がパックの中に混在(下記参照)していても、この骨の形状を比較すれば(正しくは「比較できれば」もしくは「比較する気があれば」)魚種をある程度区別することができるかも知れない。



『日本産魚類検索 全種の同定 第2版』のハゼ科の「同定の鍵」を辿り、1)体側に側線はない、2)下顎先端は円錐状に突出しない(写真中段左)、3)背鰭は2基(写真下左)、4)第1背鰭棘数は8(写真下段右)、5)頬に横列皮褶がない(写真中段左)、6)眼下に眼を収納するくぼみがない(写真中段左右)、7)下眼瞼がない(写真中段左右)、8)腹鰭は完全な吸盤である、9)体形が伸長している、10)口は多少とも傾斜する、11)背鰭起点から背中線上に皮質隆起がない(写真中段左)、12)第1背鰭第1棘は軟らかくて曲げられる、13)鰓蓋をあけた時、鰓孔の後縁にあたる肩帯上に指状で楕円形をした縦長の肉質突起がない、14)前鼻孔下方に膨出部がない(写真中段左)、15)下の先端は深く凹まない(また同時に口角は眼の後縁を越えない/写真中段右)、16)顔のどこにもひげがない、17)臀鰭基底は第2背鰭基底とほぼ同長(写真下左)、18)体側に円形の模様がない(写真下左)、19)口角部に皮質突起がない(写真中段右)、20)吻は前に突出せず、上唇前縁を被わない(写真中段左右)、21)尾鰭後縁の形は丸くない(写真下右)、22)胸鰭上縁の軟条は遊離しない(写真下段左)、23)眼は著しく大きくはない(写真中段左右)、24)頬と鰓蓋に鱗がない(ように見える)、25)縦列鱗数は31、26)尾柄部の斑紋は後方で二分する(ように見える/写真下右の赤丸)、27)青森県産などの形質/産地からアシシロハゼであると判断。

また『新訂原色魚類大圖鑑』の「アシシロハゼ」の項に記載された、28)体はほぼ円筒形で後方に向かうにつれ側扁する、29)両顎には狭い歯帯があり、外列歯は大きい、30)左右の鰓膜下端は峡部に癒着、31)尾鰭は大きい、32)両背鰭と尾鰭に斑紋(写真下左右)、ただし尾鰭下方の3分の1は無斑(実際には暗色縦帯/写真下右の青矢印)、33)多数の淡色横帯がある(特に本稿の個体の体側には10本近い淡黄色横帯がきれいに出ている/写真下左)などの形質も確認した。

腹鰭は黒っぽく(写真下)、パックから本種をピックアップする時の良い目印になったが、これでは「アシグロハゼ」になってしまうような気も(婚姻色の可能性も?)。

2012年9月に角上魚類日野店で購入した青森県産の「ごり」のパック(当日のキロ単価は800円)の中に少量だけ混じっていたもの。ちなみにパックの中身はジュズカケハゼ(もしくはビリンゴ)が存在比で約70%、ヌマチチブが約25%、残り約5%が本種を含めたそれ以外の生物(他にスジエビやオタマジャクシも)といったところ。写真の個体は「魚のサカナ」を摘出しただけで食べてはいない。また残り数匹はエタノール浸漬標本にしてしまったので、今のところアシシロハゼの食味は不明。