新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

354: ヌメリゴチ

スズキ目ネズッポ亜目ネズッポ科ネズッポ属
学名:Repomucenus lunatus (Temminck and Schlegel)【注】
英名:Moon dragonet [原], FishBaseに英名記載なし

『新訂原色魚類大圖鑑』では「ネズッポ」を別名扱い(恐らく)で掲載。市場では「めごち」として他のネズッポ属の魚と区別されずに流通していると思われるが、何度も書いているように標準和名のメゴチカサゴ目コチ亜目コチ科に属する別の魚。また釣り人の間では「ぬめりごち」がネズッポ属の魚の総称として使われることもあるが、本稿で紹介する魚は標準和名がヌメリゴチである。お間違えなく。

さて、今回は新潟産(後述)で全長約16cmの雄個体(肛門付近に突起あり/下の写真を参照)から摘出した左右の「魚のサカナ」。射出骨付きであるが、やはりどこが骨の境目なのかはっきりしない。「滑鯒のヌメリゴチ」は、これまでに紹介してきたネズッポ科の「魚のサカナ」と基本的な特徴を共有しており、特に近縁のネズッポ属(トビヌメリネズミゴチ)のものとは非常に良く似ている。ただし、肩甲骨孔が『そろばん玉』のような形状で、比較的大きいことは「滑鯒のヌメリゴチ」に特徴的(現時点では)。



ネズッポ科の魚は、体色や外形態が似たような種類が多い上に、雄雌で模様などが異なっている場合も多いため、慣れていないと「種の同定」はなかなか難しいもの。ただ少なくとも雌雄の区別だけは容易で、肛門後方の突起が長ければ雄、短いかほとんど判別できなければ雌である。本稿の魚は、肛門後方の突起が長いので明らかに雄個体(写真上段右の赤四角)。それを踏まえた上で『日本産魚類検索 第2版』のネズッポ科の検索キーを慎重に辿り、1)尾鰭中央部の軟条の先端は分枝(写真下段右)、2)前鰓蓋骨棘の後端は鉤状ではない(写真中段右)、3)口は小さい、4)下唇上縁に肉質突起がない、5)体側下部に皮褶がない、6)鰓蓋部は皮弁状でない、7)第2背鰭軟条の先端は最後のものを除いて分枝しない(写真下右)、8)第2背鰭、臀鰭とも9軟条(写真下右)、9)尾鰭部背面に左右の体側の側線を結ぶ連結枝がある(写真下左の青矢印)、10)後頭部に骨質隆起がない、11)前鰓蓋骨棘は槍状でなく、後端は内側に曲がり、内側の突起は強く大きい(写真中段右)、12)雄成魚の第1背鰭は著しく大きくない(写真下段左)、13)眼下管には外側に向かう3分枝がある(写真中段左の赤丸/この写真では判別しにくい)、14)体側面には大きめの白班と小褐色斑が不規則に並んでいる(大小の小褐色斑が規則正しく配列しているようには見えない)、15)前鰓蓋骨棘はあまり長くなく、内側の突起数は2(写真中段右)、16)尾鰭の全面に小黒点が散在し、下半分には太い濃暗色帯がある(写真下段右/色が多少薄くなっている)、17)雄成魚で背鰭第1棘は糸状にのびる(写真下段左)、18)雄成魚で第1背鰭第4膜に1大黒斑がある(写真下段左)などの形質からヌメリゴチであると判断。

2012年9月に角上魚類日野店で購入した新潟産のミシマオコゼの胃の中に入っていた「おまけ」だが、幸いなことにほとんど消化されていない状態で、糸状にのびた背鰭第1棘や第1背鰭第4膜にある1大黒斑が明瞭に確認できたために種を同定できたもの。さすがに今回は標本を摘出しただけで、口にはしていないため食味などに関してはコメントできない。ただしネット上の情報によれば、他の「めごち」の仲間同様に天ぷらなどにすると美味いとのこと。

【注】これまでに紹介してきたネズッポ属の魚では、『日本産魚類検索 全種の同定 第2版』や『新訂原色魚類大圖鑑』では Repomucenus が、FishBase では Callionymus が「属名」として使われていたが、どういった訳かヌメリゴチに関しては FishBase のエントリー(2013年1月現在)でも Repomucenus lunatus (Temminck and Schlegel) が "accepted name" で、Callionymus lunatus Temminck & Schlegelはシノニム扱いである。