新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

353: ベニザケ

サケ目サケ科サケ亜科サケ(タイヘイヨウサケ)属
学名:Oncorhynchus nerka (Walbaum)【注】
英名:Blueback [原], Sockeye salmon, Red salmon, Fraser river salmon, Kennerly's salmon, Kickininee, Kokanee etc.

降海型の個体の標準和名がベニザケで、国内では北海道の阿寒湖およびチミケップ湖を原産(ただし後者では残念ながら原種は途絶えてしまったとのこと)とする湖沼残留型(河川型)個体はヒメマスという別の標準和名で呼ばれる。つまり、生物学的には「同種」だが生態によって異なる標準和名を持つ例の一つである(その他には、サクラマス/ヤマメサツキマス/アマゴ、アメマス/エゾイワナ)。

さて今回紹介するのは、北海道根室産(漁獲は千島列島付近)の全長約57cmのベニザケ(塩漬け個体)から摘出した左右の「魚のサカナ」。中烏口骨および射出骨付き。

上の写真右側の標本から射出骨を除去して、標本の両側から撮影。「紅鮭のベニザケ」は、全体的な形状や巨大な中烏口骨を含めてサケ目の「魚のサカナ」の「基本形」と言えるものだが、1)中射出骨の先端のラインが肩甲骨の先端とほぼ同位置、2)烏口骨上方の『背鰭』部分先端は鋭角的で、その前縁は直線状(ただし標本によって多少異なることを確認済)、3)『背鰭』部分の下部に比較的大きめの孔が1つ開く、4)烏口骨の下縁の湾入部の前縁が比較的深い、5)『嘴』部分の太さは普通で比較的短いことなどが特徴として挙げられる。

上の写真の左側の標本を斜め上方向から撮影。中烏口骨が「魚のサカナ」本体から長く突き出したようになっていることをご理解頂けるはず。

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【参考】別の機会に輸入ベニザケの「カマ」から摘出した「紅鮭のベニザケ」。中烏口骨付き。烏口骨の『背鰭』下部に孔が1つ開くという特徴を含め、当然「魚のサカナ」の形状は北海道産の標本に酷似しているが、1)肩甲骨孔が丸く小さい、2)烏口骨の上方突起(『背鰭』)部先端が北海道産のものほど尖らないなど、産地によってある程度の違いがある模様。

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『日本産魚類検索 全種の同定 第2版』を開き、1)頭部が側扁し、頭頂部は膨出する、2)鋤骨・口蓋骨の歯帯は『小』字型(写真中段右)、3)体(および頭部)の背面に黒点がない(写真下段左右)、4)尾鰭に銀白色の放射条線がない(写真下右)、5)外見上クニマスのような特徴はない、6)北海道根室産などの形質/産地からベニザケであると判断。「沖獲り」のため婚姻色はまだほとんど出ておらず(ただし体側中央部は多少紅味掛かっているようにも見える)、内臓と鰓が既に除去された成魚であったため、パーマークの確認と鰓耙数の計測は出来なかった。

『新訂原色魚類大圖鑑』のベニザケのイラスト(P. 190)では、尾鰭に小黒点が散在しているように描かれているが、ベニザケの背鰭や尾鰭には小黒点は散在しないはず(写真上左右/ただし陸封型のヒメマスでは黒点のあるものがいる模様)。

2012年8月終わりに八王子綜合卸売協同組合内、望月水産で購入した北海道根室産「本ちゃん紅鮭」(カネマ浜屋商店製造)の2012年新物(約2.0kgほどで当日は1本1,680円)。魚に付けられていたタグ(写真上左)の裏側には、

『【本ちゃん】とは、北海道東部の千島列島付近の海域で、日本の漁船が獲り漁師の言葉で「本物」という意味です。水揚げしたばかりの鮭を船内ですぐに内臓処理などをし、しっかりと塩漬(山漬塩蔵)で熟成させることによりとても濃厚でおいしくなります。天然極上紅鮭(本ちゃん)を是非ご賞味下さい。』

との説明書きあり。「ベニザケ」という名前の通り、3枚に下ろした身は鮮紅色(写真上右)。これを切り身にして、定番の焼き鮭に。塩漬けされているだけあって、比較的薄い腹の部分などは大変塩辛いが、背身の方には確かに濃厚な旨味がたっぷり含まれており、口の中に溢れるほど。大変美味い。「あら」は、大根/人参/じゃがいもなどと一緒に煮て味噌汁に。熟成された魚の旨味がたっぷり出て、こちらも美味。


【注】2000年出版の『日本産魚類検索 全種の同定 第2版』では、ベニザケの学名を亜種名付きの Oncorhynchus nerka nerka (Walbaum) としているが、FishBase、『新訂原色魚類大圖鑑』、更に2012年に出版された『サケマス・イワナのわかる本(井田齋、奥山文弥著/山と渓谷社)』などでは「種」に格上げして Oncorhynchus nerka (Walbaum) としている。本稿では後者を採用した。ちなみに『サケマス・イワナのわかる本』によれば、2010年に西湖で再発見されたクニマスは、かつてはベニザケの亜種 Oncorhynchus nerka kawamurae Jordan & McGregor とされていた(含む『日本産魚類検索 第2版』)が、産卵時期の違いなどの生殖的隔離やDNAレベルでの有為な異質性が確認され、現在ではヒメマスとは独立した種(学名は亜種名を「格上げ」した Oncorhynchus kawamurae Jordan & McGregor)であると考えられているとのこと。