新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

330: ハゼクチ

スズキ目ハゼ亜目ハゼ科ゴビオネルス亜科マハゼ属
学名:Acanthogobius hasta (Temminck and Schlegel)
英名:Javelin goby [原], Brackish goby(FishBaseに英名表記なし)

有明地方の方言でハシクイ、ハゼ。福岡県柳川市有明海)産の全長約42cmの活け〆個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。射出骨付き(ただし標本調製時に、第3および第4射出骨の下縁が左右とも肩甲骨/烏口骨から剥離してしまっている)。「鯊口のハゼクチ」は、巨大な射出骨の下に極薄の肩甲骨が貼り付いているなど、見てすぐにハゼ科の「魚のサカナ」であることが分かるもの。これまでに紹介したものの中では、特にマハゼアカハゼのものと良く似た印象。ただしハゼクチの「魚のサカナ」の肩甲骨先端は鋭角的に尖らず、烏口骨の『嘴』部下縁もあまり湾入しない。肩甲骨孔は比較的大きめ。

「鯊口のハゼクチ」の肩甲骨先端は一部が折れ曲がる(写真左の赤丸)。また烏口骨の『背鰭』部分の上縁も平面状に折れ曲がり『庇』のような形状になる(写真右)。

ハゼクチは、日本では有明海および隣接する八代海の特産種で、日本に分布するハゼ科の魚の中では最大/最長種であるとされている(ネット上の情報によると、これまでの最長記録は熊本県要江で釣獲された全長644mmの個体なのだとか)。このように巨大化するハゼクチであるが、その寿命は約1年であると考えられているとのこと。また英名の「Javelin goby」を直訳すれば「投げ槍ハゼ」。恐らく細長い体から『投げ槍』をイメージしたものであろうと推察。ちなみに環境省が作成した汽水・淡水魚類レッドデータブックの2007年改訂版では絶滅危惧II類(VU)として、また福岡県のレッドリストでも絶滅危惧種として掲載されている(日本のレッドデータ検索システム「ハゼクチ」を参照)が、今のところ特に禁漁期や漁獲制限は設けられていないとのこと。



「日本産魚類検索 全種の同定 第2版」を開き、1)体側に側線はない、2)下顎先端は円錐状に突出しない(写真上段左)、3)背鰭は2基、4)第1背鰭棘数は9(写真中段左)、5)頬に横列皮褶がない(写真上段左)、6)眼下に眼を収納するくぼみがない(写真上段左)、7)下眼瞼がない(写真上段左)、8)腹鰭は完全な吸盤である(写真下段左)、9)体形が伸長している、10)口は多少とも傾斜する(写真上段左)、11)背鰭起点から背中線上に皮質隆起がない(写真上段左)、12)第1背鰭第1棘は軟らかくて曲げられる、13)鰓蓋をあけた時、鰓孔の後縁にあたる肩帯上に指状で楕円形をした縦長の肉質突起がない、14)前鼻孔下方に膨出部がない(写真上段左の黄矢印)、15)下の先端は深く凹まない(写真上段右)、16)顔のどこにもひげがない、17)臀鰭基底は第2背鰭基底とほぼ同長(写真中段右/臀鰭基底が第2背鰭基底の約半分ということはない)、18)体側に円形の模様がない(写真中段右)、19)口角部に皮質突起がない(写真上段左の青丸)、20)吻は前に突出せず、上唇前縁を被わない(写真上段左)、21)尾鰭後縁の形は丸くない(写真下段右)、22)胸鰭上縁の軟条は遊離しない、23)眼は著しく大きくはない(写真上段左)、24)頬と鰓蓋に鱗がある(写真上段左の赤四角:埋没して分かりにくい場合もあるとのこと)、25)尾鰭に点列がない(写真下段右)、26)第2背鰭は1棘19軟条(写真中段右)などの形質からハゼクチであると判断。

頭部を背面斜め上から。なかなか愛嬌のある顔立ちである。

2012年3月末に、職場の歓送会用に福岡県柳川市の「夜明茶屋」から取り寄せたもの(当日は大小混合で300円/匹)。活けの個体を発送直前に〆てもらったものなので、今回は刺身と塩焼きに(ただし汽水域に入る魚なので寄生虫の恐れはゼロではない。生食する場合は自己責任で)。刺身を一切れ口にすると柔らかいが、歯で噛み切る時には身から少々の『抵抗』を感じる。旨味がない訳ではないが、溢れる程でもない。塩焼きにするとホワホワの更に不思議な食感になる(これがネット上で散見される「水っぽい」という印象の元か?)。旨味はそこそこ感じるが、こんな食感の魚は生まれて初めて食べたはず。今回入手したのがハゼクチ漁期の最終盤ということが原因だったのかも知れないが、生でも焼いても「美味」か「不味」かに単純にカテゴライズできない不思議な味(連れ合いの言葉をそのまま記せば「何じゃこりゃ?」)。少なくとも筆者の中にある、同じ属のマハゼの刺身/塩焼きの印象とは全く異なるもの。もしかしたら煮付けなどの方が合ったかも知れない。


【注】2012年5月現在、FishBaseではハゼクチの学名を Synechogobius hasta (Temminck and Schlegel) として掲載し、A. hasta はシノニム扱い。