新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

329: タナカゲンゲ

スズキ目ゲンゲ亜目ゲンゲ科マユガジ属
学名:Lycodes tanakae Jordan and Thompson
英名:Tanaka's eelpout [原](FishBaseに英名表記なし)

地方名ばばあ(島根県鳥取県)、ばばちゃん(鳥取県)、きつねだら(但馬地方)、なんだ(富山県)など。兵庫県美方郡浜坂町産の全長約75cmの個体から射出骨付きで摘出した左右の「魚のサカナ」。エタノール固定前。「田中幻魚/田中玄華のタナカゲンゲ」は、肩甲骨/烏口骨が横長の『楔』型であるなど、これまでに摘出/紹介してきた他のゲンゲ亜目の「魚のサカナ」の中でも、特にカンテンゲンゲのものに良く似た印象(サイズ的にはオオカミウオのものに近いが)。ただし、1)肩甲骨孔が縦長の楕円形、2)第2/第3射出骨の間に比較的大きめの孔が存在し、第4射出骨の後縁上部が少々突出する、3)烏口骨本体の後部下縁が突出しない、4)烏口骨上部の『背鰭』部分が丸みを帯びて広がり、『嘴』部分はがっしり太くて短いなど、幾つかの相違点を挙げることが出来る。

写真上の右側の標本を拡大して観察したもの。同一の標本のエタノール固定前(写真左)と固定後(写真右)。右側の写真では石灰化/骨化している部分が分かり易い。肩甲骨と烏口骨の間隙は広めの軟骨域となるが、オオカミウオのものほどは広くない。またエタノール固定/乾燥後もシワシワにはならなかった。

エタノール固定後の烏口骨の『背鰭』部分の拡大図。オオカミウオのものほどではないが、細かい骨梁が放射線状に走っているのが分かる。


タナカゲンゲの頭部を真上から見ると両眼が寄っていてなかなか愛嬌のある顔立ちである(写真左)。また顔を正面から見ると皺くちゃで「老婆」の顔に似ていることから、漁師の間で「ばばあ」などと呼ばれるようになったとのこと(写真右/参照:鳥取県漁業協同組合網代港支所「タナカゲンゲ」)。



「日本産魚類検索 全種の同定 第2版」のゲンゲ科の『鍵』を辿り、1)腹鰭がある(写真上段左の青丸)、2)左右の鰓膜は離れる、3)背鰭は尾鰭近くで低くならず、棘を持たない(写真下段左)、4)口蓋骨に歯がある(写真上段右の赤矢印)、5)鰓裂下端は胸鰭基部下端付近にある(胸鰭中央付近ではない)、6)胸鰭後縁輪郭に凹みがない、7)体全体に斑紋がある(写真中段左)、8)眼下孔はない(写真中段右)、9)腹鰭長は胸鰭基底長より短い、10)側線は不明瞭ながら尾部まで達する(写真下段左の緑矢印に注目)、11)躯幹腹部に鱗がない、12)臀鰭前長は全長の約45%より長い、13)背鰭起部は胸鰭の中央上方にある、14)胸鰭上方に鱗がある(写真下段右の赤四角/この写真では分かりにくい)などの形質を確認。この先は、背鰭/臀鰭の軟条数で近縁のエスジガジ(学名:Lycodes sigmatoides Lindberg and Krasyukova)と区別できる(タナカゲンゲ:D 96~98; A 77~79, エスジガジ:D 93~96; A 72~76)が、「日本産魚類検索 第2版」とその付記(p. 1590)によると、エスジガジの分布域はオホーツク海で、実は日本近海での正確な記録は不明とのこと。そこで今回は背鰭/臀鰭の軟条数の計測はせず(正直に書くと「荷物」が到着したのが宴会開始のわずか1、2時間前のことで「計測できず」)、15)兵庫県産(タナカゲンゲは「島根県以北の日本海側〜オホーツク海」の水深300~500mの深海底に生息)であることからタナカゲンゲであると判断した。

2012年3月末に、職場の歓送会用に兵庫県美方郡浜坂町の「山米鮮魚」からお取り寄せしたもの(当日は約2kgで2,000円強)。腹と鰓を除去してから発送されており、非常に鮮度が良い状態で到着。まずは生で試食。コリッとした食感で、ちょっと柔らかめのナタデココのような印象。ネット上では「味がない」などという記述も散見されるが、今回の魚には上品な旨味を感じ、個人的にはなかなか美味いと思った次第(もしかしたら鮮度落ちが非常に早いのかも知れない)。残りは皮ごとブツ切りにして『定番』である鍋に。ホロホロと崩れるタラのような食感。旨味もなかなか感じる。頬肉は少々筋張っており、帆立の貝柱のような食感で面白い。また店からの説明書には「皮は外して」と書いてあったが、別に食べても何の問題もなし(特に臭みも感じなかった)。決して見栄えがする魚ではないし、「驚くほどの美味」という訳でもないが、今回のように鮮度さえ良ければタナカゲンゲは普通に美味い魚ではないかと思う。