新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

328: ヨシノゴチ

スズキ目カサゴ亜目コチ科コチ属
学名:Platycephalus sp.1
英名:Bartail flathead [原]

山口県産の全長約39cmの活け〆雄個体(白子あり)から摘出した左右の「魚のサカナ」。肩甲骨/烏口骨の上側に貼り付くような比較的低めの射出骨付き。エタノールへの浸漬時間が長過ぎたために、少々黄変してしまったのが残念。「ヨシノゴチ(漢字表記不明/吉野鯒?)のヨシノゴチ」は、コチ科の「魚のサカナ」の基本形で、予想通り極近縁のマゴチのものに酷似する。ただし、1)烏口骨の『嘴』部分の上縁が、マゴチのものでは緩やかに湾入するのに対して、ヨシノゴチのものは直線的であること、2)烏口骨本体と『嘴』部をつなぐ下縁湾入部が、マゴチのものは滑らかな曲線を描くのに対し、ヨシノゴチのものは烏口骨本体後縁が直線的であることなどが相違点として挙げられる。またヨシノゴチのものの方が『体高』が少々高めであるように思われる。

日本近海に生息するコチ属魚類は長い間 Platycephalus indicus (Linnaeus)/旧標準和名コチ1種のみであると考えられてきたが、近年の研究により形態学的、集団遺伝学的、生態学的にも別種として扱われるべき2種が分布していること、更にはこれら2種ともどうやら未記載種であること(つまり実際は上記した P. indicus ではなかったということ)が明らかになってきた。そのため1993年に出版された「日本産魚類検索」の第1版から、ヨシノゴチ (Platycephalus sp.1/地方名シロゴチ) とマゴチ (Platycephalus sp.2/地方名クロゴチ) という独立した2種として掲載されているが、記載論文が未だに出版されていないため両者の学名は未確定のままである(ちなみにこれらを研究していたはずの吉野哲夫氏は2011年3月に琉球大学を定年退官されたとのこと:こちらを参照)。両者の学名が確定するのは何時になるのだろうか?


ヨシノゴチ(山口県産)
マゴチ(三重県産)
全体像
頭背部
胸鰭
体躯背面
腹部
第1背鰭
尾鰭

今回は近縁のヨシノゴチとマゴチの写真を並べ、両者の判別に必要な形質の違い(=見分け方)を比較。上の写真は、左側が本稿の山口県産のヨシノゴチ(雄)、右側は2010年6月に入手した三重県産のマゴチ(性別不明)のものである。「日本産魚類検索 第2版」のコチ科の同定の『鍵』を辿り、1)両眼間隔が広い、2)頭部の棘はかなり弱い、3)頭部は著しく縦扁する(以上写真2段目左右)、4)体は白っぽく背面に小茶褐色斑点が密に分布する(写真2段目左、写真4段目左)、5)胸鰭は前半部に茶褐色小斑点があり後半部は暗色(写真3段目左)、6)眼が大きく下顎先端は尖る(写真2段目左)などの形質を確認して、ヨシノゴチであると判断。一方マゴチの方は、体は黒っぽく濃茶褐色(写真2段目右)で、胸鰭には茶褐色小斑点がかなり密に分布するため、ほとんど一様に茶褐色に見え(写真3段目右)、下顎先端が丸い(写真2段目右)などの特徴がある。またこの2個体の比較だけで言えば、ヨシノゴチの方が、6)体躯部分を含め全体的にか細い(写真1段目左右)、7)体躯部分腹側が正中線近くまで黄色(写真5段目左右)、更には8)第1背鰭や尾鰭の模様も両者で多少異なっているなどの相違点があるが、これらは単なる個体差や性差の可能性もあるので今後も調査する必要あり。ちなみにヨシノゴチはマゴチと同様に雄性先熟性の性転換をおこなう(=大型の個体は全てメスになる)とのこと。

ヨシノゴチは、3年半程前に明石の「魚の棚」で一度だけ見かけていた(マゴチが7〜8匹盛られたトレイの中に1匹だけ混じっていた)が、旅先ということで「また見つけられるだろう」と泣く泣く購入を諦めたもの。それ以来「逃した魚は、、、」状態になってしまっていたが、遂に八王子のコープとうきょう高倉店の鮮魚コーナーで発見し、大喜びで購入(当日は348円/匹)。活け〆個体ということで今回は刺身に。コリッとした歯応えがあり、咀嚼していると上品な旨味、甘味が立ち上がってくる。非常に美味い。マゴチと比べると水っぽい味という記述を良く見かけるが、筆者自身はマゴチと遜色のない美味さだと思った。ただし両者を横に並べて食べ比べた訳ではないので念のため。