新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

362: ナンヨウキンメ

キンメダイ目キンメダイ科キンメダイ属
学名:Beryx decadactylus Cuvier
英名:Broad alfonsino [原], Beryx, Cuvier's berycid fish, Imperador, Long-finned beryx, Red bream

地方名/流通名ひらきんめ(平キンメ/ただしフウセンキンメが「平キンメ」として売られている場合もあるので注意)、いたきんめ(板キンメ)など。静岡県産の全長約52cmの大型個体から摘出した左右の標本。個体のサイズ相応の大きな「魚のサカナ」で、最長部で約6cmある。写真右は、写真左の左側の標本を反対側から観察したもの。

「南洋金目のナンヨウキンメ」の形状は、これまでに紹介したキンメダイ目の「魚のサカナ」の中で、やはり同じキンメダイ属のキンメダイフウセンキンメのもの(2013年2月に写真を追加した、愛知県西浦産の小型個体から摘出した標本)と多くの共通点を有している。特にフウセンキンメのものとは全体的な雰囲気を含めて大変良く似ているが、ナンヨウキンメのものでは 1)『体高』が低い(左右に細い)、2)烏口骨上方の『背鰭』部が低い、3)烏口骨本体後部下縁から『嘴(尾)』部に繋がるラインがより深く湾入する、4)『嘴(尾)』部がより細く長いなど、両者間の相違点を幾つか挙げることはできる。

「南洋金目のナンヨウキンメ」の烏口骨の『背鰭』部にも幾つかの孔が開く(写真上左)。また『嘴』の平たい先端部には『成長線』のような模様が観察できる(写真上右)。

キンメダイ属の魚の耳石はそれぞれ独特の形状。今回のナンヨウキンメの耳石はさすがに大きく、幅が約1.9cmもある。



日本近海に生息するキンメダイ科の魚は2属4種で、その内3種(キンメダイ/フウセンキンメ/ナンヨウキンメ)がキンメダイ属の魚である。本稿の個体は体高があり、キンメダイ/フウセンキンメとは明らかに異なるものであったが、念のため「日本産魚類検索 第2版」のキンメダイ科の検索キーを辿り、1)背鰭棘数が4(写真下段左)、2)臀鰭基底長は背鰭基底長より長い(写真下段左右)、3)臀鰭軟条数は29(25~30/写真下段右)、4)頭部涙骨に鋭い1棘がある(写真下右の緑丸)、5)体は高く、体長(40cm)は体高(18cm)の約2.2倍などの形質を確認し、ナンヨウキンメであると判断。

ちなみにフウセンキンメとの共通点は「魚のサカナ」の形状に留まらず、ナンヨウキンメの鼻孔も2つとも丸く(写真中段右)、また頭部涙骨の棘は強い(写真下右の緑丸/もっと正確に書くと、ナンヨウキンメの棘の方が強大。この個体では先端が折れている)。

ナンヨウキンメの鱗は弱い櫛鱗(写真下)。

2012年10月に角上魚類日野店で購入(当日はキロ1,300円/1.82kg)。店頭表示は「平キンメ」。2枚に下ろし、まず一部を刺身で試食。下ろしている時は身が柔らかめに思われたが、口の中では予想以上にしっかりした歯応えを返してくる。脂からくる甘み、身自体に含まれる旨味を強く感じる。半身の残りは少し厚めに切って「魚しゃぶ」に。食感が改善され、旨味もより立つ。骨付きの半身とあらは「定番」と思われる煮付けに。身離れ、食感とも良く、また旨味甘みを強く感じる。たまたま遊びにきた親戚にも振る舞ったが「これはうまい!」とあっという間に食べ尽くしてしまった。非常に美味い。

ナンヨウキンメは一般にキンメダイ(およびフウセンキンメ)より食味が劣るとされ、市場価格もそれなりに安価となる。実際本稿のナンヨウキンメの購入日には千葉産のキンメダイも並んでいたが、後者のキロ単価は2,000円を越えていた。ただ、今回のナンヨウキンメは非常に美味で、この魚だけを単独で食べる分には「全く問題なし」というのが個人的な感想。もちろん個体サイズ/季節/産地などの要因がたまたま上手く絡み合った個体であったという可能性もあるので、今後機会があれば是非「キンメダイ属3種の食べ比べ」をしてみたいところ。


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【参考】日本産キンメダイ属魚種の見分け方

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上述した通り、日本近海に生息するキンメダイ科の魚は2属4種で、その内の3種はキンメダイ属のキンメダイ、フウセンキンメ、ナンヨウキンメである。市場に流通しているのはキンメダイがほとんどであると思われるが、フウセンキンメやナンヨウキンメが少なからず出回っているのもまた事実。お互いに良く似た体色/体型(特にキンメダイとフウセンキンメは非常に良く似ており、実際1999年に出版された論文によってようやく別種であることが確定したくらい)なので、どこに注目したら良いのかが分かっていないと見分けは案外難しいと思われる。ということで、キンメダイ属3種の「見分けのポイント」を以下にまとめておく。

キンメダイ
フウセンキンメ
ナンヨウキンメ
全体像
鼻孔
涙骨棘
背鰭
臀鰭
耳石


【写真1段目】「平キンメ」の流通名/地方名通り、ナンヨウキンメは体高が高く平たいので比較的判別しやすい。キンメダイとフウセンキンメは体高が余り高くないが、両者を並べて比べるとフウセンキンメの方がわずかに体高が高いことが多い模様(ただしキンメダイ/フウセンキンメのどちらか1種しかいない場合に、体高の高低を判断するのはかなり難しいはず)。また側線有孔鱗数が、ナンヨウキンメでは少なく52~62、フウセンキンメでは60~69、キンメダイでは65~73とのことなので、数値が重ならないところでは同定の参考になると思われる(ちなみに本稿のナンヨウキンメでは61だったので、キンメダイではないが、フウセンキンメの可能性は残ることになる)。

【写真2段目】キンメダイとフウセンキンメ(およびナンヨウキンメ)を見分けるのに最も分かりやすいのが目の前にある鼻孔の形状で、良く見ると、キンメダイの後鼻孔(写真中の「2」)は細長いスリット状であるのに対して、フウセンキンメとナンヨウキンメのそれは丸っぽい。

【写真3段目】またキンメダイの涙骨棘(鼻孔の下の眼と口の中間辺りに生じる棘/緑丸に注目)はあまり目立たないが、フウセンキンメとナンヨウキンメのそれは鋭く強大(プラスチックトレーの上でラップに包まれている場合は、そのラップを突き破ってしまうほど)であることも判別ポイントとして使えそうである。

【写真4段目】ナンヨウキンメを確実に見分けるための「ポイント」は背鰭の軟条数で、キンメダイでは13から15本(14本が多い)、フウセンキンメでは12から13本(13本が多い)であるのに対し、ナンヨウキンメでは18~20本と明らかにその数が多い(写真4段目/棘条と軟条の区別がつかない方は、背鰭の筋をまとめて数えて20本以上<実際には22本以上になるが>あればナンヨウキンメである)。

【写真5段目】臀鰭の軟条数(ちなみに棘条数は全て「4」)にはそれほどバリエーションがなく、数値が重なってしまっているために見分けの重要なポイントにはならない(ただし文献値的には、25軟条ならナンヨウキンメ、31および32軟条ならフウセンキンメとなるはず)。またナンヨウキンメの場合は臀鰭軟条基底が少々丸くなるという記述をどこかで見たような気がするが、この写真を見る限り大きな違いがあるようには思われない。

【写真6段目】体側背側の鱗の後縁に注目すると、キンメダイのものでは滑らか、フウセンキンメのものでは比較的強い櫛鱗、ナンヨウキンメのものでは弱い櫛鱗という違いがある。

【写真7段目】耳石の形状も種によって異なるようだが、実際は同種であっても個体によって形状が異なることを確認しているので、種の同定のための「ポイント」にはならないと思われる。