新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

214: フウセンキンメ

キンメダイ目キンメダイ科キンメダイ属
学名:Beryx mollis Abe
英名:Baloon alfonsin

東京都産と表示された全長約40cmの個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。近縁種で体型も比較的似たキンメダイのものと比べると、「風船金目のフウセンキンメ」は、全体的に左右方向に伸ばしたような形で(特に烏口骨)、烏口骨の上方突起(『背鰭』)の先端は鋭角的に尖らず、烏口骨本体と『嘴』部の「結合角度」は緩やかで、『嘴』部の幅もかなり広い(キンメダイのものは、『嘴』部が鋭く湾曲し、その先端は鋭角的に尖る)などの点で大きく異なる。強いて挙げれば肩甲骨(と耳石)の形はそれなりに似ているのだが、、、長い間「キンメダイと同種」とも考えられていた魚の「魚のサカナ」でこんなことがあり得るとは全く予想していなかった。

さらに驚くべきことに、同一個体から摘出した左右の標本においても、烏口骨の『嘴』部分の形が全く異なる。上の2枚の写真は、一番上の写真の左右の標本を反対側から観察したものだが、左の標本では湾曲した『嘴』部の内側が波打っているような形になっているのに対し、右の標本では湾曲部の外側が抉れたような形になっている。今回たまたまこのようになった個体を入手しただけなのか、それともフウセンキンメの「魚のサカナ」の多くはこのような「いい加減」なものなのかを判断するにはより多数の標本を集めることが必要となる。

「風船金目のフウセンキンメ」は、烏口骨の『背鰭』部分に小孔が多数存在する。

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【追記/2013年2月】

2012年12月に、愛知県蒲郡市にある西浦鮮魚マーケットの清水商店で購入した雑魚セット(500円)に1匹だけ入っていた全長約14cmの小型個体から摘出した標本。左右の標本の形状はほぼ同じであることから、上で紹介した個体で見られた「左右の標本の形状が大きく異なる」という現象は『たまたま』であったことが分かる。

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日本近海に生息するキンメダイ科の魚は2属4種。店頭では「ひらきんめ」と表示されていたが、その地方名は通常ナンヨウキンメに使われるもの。この魚はナンヨウキンメほど体高は高くない(ナンヨウキンメでは体長が体高の2倍程度)のが写真からも分かる。そこで毎度お馴染みの「日本産魚類検索」にあたり、1)背鰭棘数が「4」、2)頭部涙骨に鋭い棘がある(写真中段左青丸)、3)後方の鼻孔がスリット状でなく幅広の楕円形(写真中段右/緑矢印の"2")、4)背鰭軟条が13条(写真下段左)、5)鱗後端が鋸歯状(写真下段右の右縁)などの形質からフウセンキンメであることを確認。鮮魚店の店頭などで標準和名キンメダイと見分けるためには、3)に挙げた「後方の鼻孔の形」を確認するのが最も簡単な方法となるだろうが、例え調理されていたとしても「魚のサカナ」さえ入手できれば、その形から両者を見分けられるのかも知れない(そういう意味では、次の興味はもちろん「ではナンヨウキンメやキンメダマシのものの形は?」)。

魚喜日野店で購入。今回は刺身と魚しゃぶに。身は柔らかめだが(種小名の"mollis"は「柔らかい」という意味)、上品な旨味があって刺身はなかなか美味。ただし個人的には魚しゃぶの方が遥かに好み。皮付きのまま薄めに切った身を、フウセンキンメのアラでとった出汁の中で泳がせて適当に熱を通してやると、身は程よい固さになり、また旨味も立って非常に美味。機会があればキンメダイと並べて食べ比べてみたい。

注:財団法人水産物市場改善協会「おさかな普及センター資料館」の、現時点(2011年2月)では旧ページ(?)のみに掲載されている、「おさかな情報 No.2 (1998年4月)/阿部宗明博士と築地魚市場」内の『博士が発表した新種目録』を参照(ちなみに阿部博士が1959年にフウセンキンメを初記載した論文の全文PDFはこちらからダウンロードできます)。筆者が確認できた限りの情報なので間違っている可能性もあるが、その後1999年に琉球大学の吉野哲夫博士らによって形態的に別種であることが確認され(全文PDFのダウンロードはこちらから)、ようやくキンメダイとフウセンキンメは別種であると認められた模様。

(2/22/13 追記)