新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

304: マツカサウオ

キンメダイ目マツカサウオ科マツカサウオ属
学名:Monocentris japonica (Houttuyn)
英名:Pineconefish [原], Dick bride-groom fish, Japanese pineapplefish, Knightfish, Soldierfish

愛知県三河湾一色産の全長約7cmの個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。右側の標本には射出骨付き。また写真右は、写真左の左側の標本を反対側から撮影したもの。「松笠魚/松毬魚/松傘魚のマツカサウオ」の形は、これまでに摘出/紹介した他の目の「魚のサカナ」はおろか、同じキンメダイ目のものにもほとんど似ていないという正に独特な形。烏口骨上で弧を描く白線が目立つために、これを肩甲骨/烏口骨の接合部と勘違いしそうだが、実際の接合部はもっと肩甲骨孔に近いところ(写真右の標本の下部にある三角形の軟骨域から上方に伸びているのが本当の接合部)。つまり烏口骨は『斧』のような形状で、その先に結合している比較的小さな骨が肩甲骨である。肩甲骨孔は丸く、肩甲骨の大きさに比して大きめ。烏口骨の『嘴』部分は長めで、また上方の『背鰭』部はこの方向からは鋭角的に突出しているように見える。

ところが「松笠魚のマツカサウオ」を横から見ると、鋭角的に突き出ているように見えた烏口骨上方の『背鰭』部前縁(赤丸)は、実際は平面/直線状でなく、板金を折り曲げたようになっていることが分かる(写真左)。またマツカサウオの耳石は、魚体のサイズに比して大きめ(長いところで約5mm)で「帆立貝の貝殻」のような形状(写真右)。



マツカサウオ科の魚は世界にも2属4種しか生息しておらず、日本近海に生息するものはマツカサウオ1種のみ。更に一目見たら忘れられない、余りにも独特な外見をしているので同定は容易。マツカサウオに関する「日本産魚類検索」および「新訂原色魚類大圖鑑」の記述はほぼ同じようなもので、記載されている 1)体は装甲状の鱗で被われている(写真下段右)、2)背鰭棘は強大で鰭膜はない(写真下段左)、3)腹側には強大な1棘(胸鰭の棘条)がある(写真下参照)、4)臀鰭には棘がない、5)左右の下顎中央に卵円型の発光器(写真中段左の赤矢印および中段右の赤丸/ここに発光バクテリアが共生する)があるなどの形質は容易に確認できる。

マツカサウオの胸鰭の棘条は、死んだ後でも左右に開いたまま固定することができる。そのため、フグ目ギマ科のギマと同じようにまな板の上に立てられる(写真左は正面から撮影)。またマツカサウオの肛門は、臀鰭前の装甲状の鱗の隙間に隠れるように小さく開いている(写真右の緑丸)。

愛知県西尾市の一色漁港で入手したもの。体を被う装甲状の鱗が極めて固く、出刃包丁やキッチンバサミでも歯が立ちそうになかったことから、内臓の処理もせず丸ごと塩ゆでに。この処理で固い鱗が手でも簡単に剥がせるようになるが、その中から出て来たのは真っ白の美しい身。口にしてみると、少々柔らか目だがしっとりとした身質。中には上品な旨味/甘味が含まれている。実はマツカサウオは筆者が是非一度は食べてみたいと長年思い続けていた魚の一つで、今回ようやく巡り会えたもの。なるほど噂に違わぬ美味い魚であるな、、、と思ったが、後味に独特の(=もしかしたら好みが分かれそうな)風味を多少感じたことを書き添えておく(もちろん個体/鮮度/季節/料理法などが影響した可能性もあるので、今後再び巡り会う機会があったら要確認)。

マツカサウオの鱗(エタノール固定済みの標本)の拡大図。各鱗の中心部から後方(写真では右上)に向かう棘が出ており、その根元付近から多数の筋が放射状に走っている。

【参考】上記した通りマツカサウオは発光器を持つ魚であることが知られているが、この魚の発光現象が発見された場所や日付まではっきり分かっているのが面白い。以下は魚津水族館ホームページの「お知らせ」から引用:

 初代魚津水族館が創立された翌年の大正3年8月13日午後10時頃、水族館が暴風雨により停電しました。警備員が、真っ暗な館内でマツカサウオが発光しているのを見つけ、当時の魚津中学教員の吉澤庄作氏が動物学雑誌に論文を投稿しました。これが世界で初めての「マツカサウオの発光発見!!」となりました。


このエントリーからしばらくは、2011年末に一色漁港で手に入れた魚の「魚のサカナ」を紹介します。