新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

305: トカゲエソ

ヒメ目ヒメ亜目エソ科マエソ属
学名:Saurida elongata (Temminck and Schlegel)
英名:Shortfin lizardfish [原], Slender lizardfish, Long grinner, Slender saury

三河湾一色漁港産の全長約35cmの抱卵雌個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。「蜥蜴狗尾魚/蜥蜴鱠(エソは魚偏に曾)のトカゲエソ」は、これまでに紹介したヒメ目の「魚のサカナ」の中では、やはり同じマエソ属のマエソのものに最も似ていると言えるが、1)全体的に「体高」が高い、2)肩甲骨が比較的大きく先端は尖らない、3)肩甲骨孔は小さめ、3)烏口骨本体の背縁(『背鰭』の手前)が丘のように盛り上がる、4)烏口骨上方の『背鰭』部(特に烏口骨を貫く「キール」の上方)の高さが比較的低い、5)烏口骨の『嘴』部がほぼ三角形で、その下縁は直線的(=下に向かって曲がらない)であるなど、多くの相違点を挙げることが可能。写真右は、写真左の左側の標本を反対側から観察したもの。烏口骨の『嘴』(「魚のサカナ」では『尾』に相当)の途中には少々横長の小孔が存在。「魚のサカナ」全体を比較すると、個人的にはマエソのものより優しそうな印象を受ける。

別個体から射出骨付きで摘出した標本。オキエソのものとは異なり第4射出骨(最大のもの)は後方に膨出しないことを確認(同時に以前紹介したマエソの標本にも第4射出骨がちゃんと結合していたことが分かる)。また射出骨自体がオキエソのものよりもかなり高い。



一般にマエソ属の魚の同定は難しいとされているが、今回の魚は胸鰭が非常に短いことから、恐らくトカゲエソであろうと目星を付けて「検索」開始。1)鱗は体全体にある、2)腹鰭の内側(写真下段左の2赤線で挟まれた部分)と外側(2緑線で挟まれた部分)の軟条はほぼ同長、3)口蓋骨歯は2歯帯(写真中段右の赤矢印)、4)尾鰭にまだら状の暗色斑がない、5)胸鰭は著しく短く、その後端(写真下段右の青線)は腹鰭起部(同赤線)に達しない、6)側線鱗数は64、7)背鰭前方鱗数は22、8)三河湾産などの形質/産地からトカゲエソであると判断。同じマエソ属のマエソ/ワニエソとは形質5(マエソ/ワニエソの胸鰭後縁は腹鰭起部に達するか越える)で、また外見がトカゲエソとそっくりなコウカイトカゲエソとは、形質6および7(コウカイトカゲエソの側線鱗数は64〜70、背鰭前方鱗数は26〜30)で見分けられる。ちなみにコウカイトカゲエソの分布域は黄海朝鮮半島とされており、日本近海にはほとんど生息していないとのこと。

三河一色さかな村の丸光水産で購入。実際のところエソ類は蒲鉾の原材料としては最上級と言われるほど味が良いのだが、一般には「小骨が多くて食べ辛い」という印象の魚。他の魚にもある肋骨や血合骨に加え、背身の前半部を縦走する小骨の列が特に厄介なため敬遠されがちである。このため当日朝に水揚げされた非常に鮮度の良いトカゲエソが6匹(写真の個体とほぼ同サイズ)盛られていてもたった200円という破格値での販売であった。今回は鱗も引かずに「大名下し」で3枚にし、皮を引いてから刺身とさつま揚げに。実はエソ類の体の後半部(肛門よりも後方)には小骨がほとんどないため、これ位のサイズ/匹数があれば後半部分だけを使っても十分刺身で楽しめる。ムッチリとした食感の身で、旨味/甘味も多くかなりの美味。体の前半部は厄介な「小骨」回りの肉を少々厚めに取り去り(贅沢だが元の値段が安いこともあってあまり苦にならない)、フードプロセッサーでミンチに。塩とみりんを少々、更につなぎとして小麦粉少々と卵(なくても良さそう)を練り込み、小判形に成形したものをそのまま油の中に放り込んでさつま揚げの完成。しっかりと弾力のある食感の中に上品な旨味/甘みがあり非常に美味い。またエソ類は大分県佐伯市付近の郷土料理「ごまだし」の原料としても重宝されている。次回は是非チャレンジしてみたい。


【注】「日本産魚類検索 全種の同定 第2版」ではヒメ目エソ亜目エソ科マエソ属になっている。