新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

369: ミギガレイ

カレイ目カレイ亜目カレイ上科カレイ科カレイ亜科ミギガレイ
学名:Dexistes rikuzenius Jordan and Starks
英名:Rikuzen sole [原], Rikuzen flounder

地方名めだまがれい、にくもち/にくもちがれい(肉持ちガレイ・福島県)、あなねばち(丹後地方)など。いわゆる「左ヒラメに右カレイ」とは関係なく、こちらは標準和名がミギガレイである(ちなみに標準和名ヒダリヒラメは存在しない)。新潟産の全長約26.5cmの雌個体から摘出した「魚のサカナ」。上が有眼側の、下が無眼側の標本。

有眼側(左)および無眼側(右)の標本を写真上とは反対側から観察。「右鰈のミギガレイ」は、一見してカレイ目の「魚のサカナ」であることが分かるもので、これまでに紹介してきたものの中では、同じカレイ亜科のクロガレイ(特に有眼側の前半分)やアサバガレイ(有眼側の後半分と無眼側)のものに良く似た印象。特にアサバガレイのものとは、無眼側の標本の烏口骨本体後下部と『嘴』部の間に骨梁の浮き出た小さな突出部が存在するという共通点もある。ただし、肩甲骨前縁、肩甲骨孔(ミギガレイのものは細長い)、烏口骨の『背鰭』に相当する部分の高さ、そこから『嘴』部にかけての湾入部の形状と位置、『嘴』部の先端の『針』の長さなど、各パーツごとにじっくり比較するとやはり多く(些細なものも含めて)の相違点に気付かされる【注】



「日本産魚類検索 第2版」のカレイ科の同定の鍵を辿り、1)眼は体の右側にある、2)有眼側の体にイボ状突起がない(写真下段右)、3)有眼側の鰓孔上端は胸鰭上端より上(写真下段右)、4)歯は小円錐状で、有眼側での発達が悪い(写真下段左)、5)口は小さく頭長(5.0cm)は上顎長(1.3cm)の約3.8倍(3.2倍以上)、6)体は楕円形、7)背鰭は74(文献値51~81。以下同)軟条、臀鰭は60(38~65)軟条、8)体は鱗に被われ、石状骨質板はない(写真下段右)、9)眼上に鱗がある(写真中段右)、10)側線鱗数は67(57~67)、11)側線はほとんどまっすぐ(写真下段右)などの形質からミギガレイであると判断。また『新訂原色魚類大圖鑑』のミギガレイの項に記載されている、12)眼隔域は狭く、隆起する(写真中段左)、13)有眼側の上顎骨後端は下顎の前縁下に達する、14)鱗は剥がれやすく、有眼側は櫛鱗(写真下左の左側)で無眼側は円鱗(同右側)、15)背鰭と臀鰭に褐色の斑点がある(ように見える)などの形質も確認。またミギガレイの下顎の中央部には骨質の突起がある(写真下右の赤丸)。

雰囲気の良く似たヤナギムシガレイとは、背鰭と臀鰭の軟条数、側線鱗数(鱗の大きさ)、歯の形状、そして無眼側から見た時の上眼の位置などで見分けることが可能【参考】

2012年11月に角上魚類日野店で購入(当日は大小6匹計0.74kgがトレイに盛られて250円。上で紹介したのはその中で最大の個体)。店頭表示も「みぎがれい」。福島などで「肉持ちガレイ」とも呼ばれるだけあって、確かにサイズに比して肉厚。今回は3匹ずつ塩焼きとムニエルに。超新鮮な個体という訳ではなかったが、塩焼きにしても生臭みのようなものは全く感じない。少し焦げた皮目からは食欲をそそる香りが立つ。しっとりとした舌触りの身が口の中でさらりとほぐれる時には確かな旨味を感じる。ギラギラするほどの脂の乗りや、溢れるほどの旨味などとは無縁だが、全体的な味のバランスが良いので、食後には「ああ旨いカレイを食べたなぁ」という満足感が残る。美味。塩焼きにして旨い魚がムニエルにして不味いはずはない。こちらも当然美味。可食部の多さ、値段からもコストパフォーマンスは高い。またミギガレイの煮付けもなかなか美味いので、機会があったら是非お試しを。


【注】ここで問題点を1つ。実はしばらく前から「カレイ科」のエントリーの改訂作業を少しずつ進めているのだが、その過程でこの科の「魚のサカナ」の形状には、どうやら同種内でも個体や産地によって「個体差」がかなり見られる(少なくともその傾向がある)ことが段々明らかになってきた。つまり上記したような「魚のサカナ」の形状の相違点は、必ずしも「種」の違いを反映しているものではなく、もしかしたら「個体差」程度の違いを見ているだけなのかも知れない。今後は可能な限り複数の個体からの標本を見比べて行こうと思っているが、カレイ科の「魚のサカナ」の形状に関する説明文は、あくまで「参考程度」のものであるとしてご覧頂けたら幸いである。

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【参考】ミギガレイとヤナギムシガレイの見分け方

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ヤナギムシガレイムシガレイ、あるいはヤナギムシガレイとヒレグロを見分ける方法に関しては、色々な書籍やネット上でも言及されているのを良く見かける。ところが、分類されている「属」は異なるにもかかわらず、体色/体形をはじめとした全体的な印象が良く似ているために、実際にしばしば混同されてしまうのがヤナギムシガレイとミギガレイである(筆者自身も見分け方を習得するまでには少々時間を要した)。ということで、以下に両種の見分けに役立つポイントをまとめてみた。

ミギガレイ
ヤナギムシガレイ
全体像(有眼側)
全体像(無眼側)
頭部(有眼側)
頭部(無眼側)
鼻腔
側線
背鰭軟条(後部)


ミギガレイとヤナギムシガレイを並べて比較すると、ヤナギムシガレイの方が明らかに体高が低く細長い(写真1および2段目左右)。本文中にも記した通り、身はミギガレイの方が厚い。ただし、どちらかの種が単独で店頭に並んでいたら、見分けるのはなかなか難しいはず。またミギガレイの方が背鰭や腹鰭の軟条数が明らかに少ない(ミギガレイは文献値で背鰭軟条数が51~81、臀鰭軟条数が38~65。ヤナギムシガレイはそれぞれ84~102、72~81であるとされている)。「めだまかれい」という地方名の通り、ミギガレイの方が眼は大きい(写真3段目左右/ヤナギムシガレイも小さくはないが)。ちなみに両種とも眼の上に小さな鱗がある。ヤナギムシガレイでは、上眼が背縁に近いために、無眼側を上にして置かれていてもその一部が見えることが多い(写真4段目右の赤丸/ただしこの個体ではあまり見えていない)。前鰓蓋骨の後縁はミギガレイでは直線的で確認しやすいが、ヤナギムシガレイでは丸みを帯びあまり明瞭ではない。ミギガレイの鼻腔は、大きな穴のように陥没している(写真5段目左の赤丸)が、ヤナギムシガレイの鼻腔はさほど目立たない(写真5段目右)。ミギガレイの歯は小円錐状だが、ヤナギムシガレイのものは門歯状(写真6段目左右)。両種とも側線はほぼ直線状(写真7段目左右)だが、側線鱗数はミギガレイの方が57~67と少なく(ヤナギムシガレイでは85~100)、それに合わせてミギガレイの方が鱗が大きい(写真7および8段目左右)。またミギガレイの鱗の方が剥がれやすい傾向があるとのこと。ヤナギムシガレイでは、背鰭/臀鰭の後方8~9軟条の先端が分枝するが、ミギガレイではそのようなことはない(写真9段目左右)。以上ご参考までに。