新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

335: ホシガレイ

カレイ目カレイ亜目カレイ上科カレイ科オヒョウ亜科マツカワ
学名:Verasper variegatus (Temminck and Schlegel)
英名:Spotted halibut [原]

地方名は数多く、ネット検索で簡単に調べが付くようなものだけでも、ハダガレイ(福島)、ガヤマ(福島)、ムギガレイ(青森)、ムシガレイ(東北/ただし標準和名ムシガレイとは別種)、ハダガレイ(宮城)、コウハダ(宮城)、マツカワ(釜石/三崎:後述するように近縁種マツカワとの混称)、マッカ(横浜)、イチョウガレイ(浜名湖)、ジンメガレイ(三河湾)、ヤイト/ヤイトガレイ(広島/神戸)、ヤマブシ(九州/敦賀地方)、モンガレイ(下関)など(ただしムギガレイ、ヤマブシ/ヤマブシガレイなどもマツカワと混称されている可能性高し)。

さて今回紹介するのは、神奈川県小田原産の全長約37cmの活け〆養殖(もしくは放流?)個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。同一個体から摘出したもので、上が有眼側の、下が無眼側の標本。「星鰈のホシガレイ」は、これまで紹介してきたカレイ目の「魚のサカナ」の中では、やはり同属のマツカワのものに最も似ており、特に有眼側肩甲骨の全体的な形状などは酷似している。ただし「星鰈のホシガレイ」では、1)無眼側の肩甲骨先端がマツカワのものより太め、2)マツカワのものに見られた有眼側烏口骨下縁の突出部分がない、3)有眼側/無眼側とも烏口骨本体と『嘴(尾)』を結ぶラインの下縁が波打ってギザギザになっている(マツカワのものではもっと滑らか)など、幾つかの相違点を挙げることが可能。肩甲骨孔は小さめである。

有眼(左)および無眼(右)側の標本をトップの写真とは反対側から観察。有眼側/無眼側ともに烏口骨の『嘴』部分が針状にまっすぐ伸びるという特徴は、マツカワ以外にもムシガレイの無眼側標本やアサバガレイのものなどでも見られていたもの。



「日本産魚類検索」を開き、1)眼は体の右側にある、2)有眼側の体にイボ状突起がない、3)有眼側の鰓孔上端は胸鰭上端より上(写真中段左の緑矢印)、4)顎歯は鈍い円錐形で、上顎歯は2列の歯帯をなし、有眼側でも良く発達する(写真中段右の赤四角)、5)背鰭と臀鰭(および尾鰭)には黒色斑がある(写真下段左右)などの形質からホシガレイであると判断。近縁のマツカワとは形質5(マツカワには背鰭・臀鰭・尾鰭の縁辺に達する黒色帯がある/本稿最後の【参考】を参照頂きたい)で区別できる。

八王子総合卸売センター内、高野水産で購入(当日はキロ2,000円/0.55kg)。小田原から活けで入荷してきた個体で、表示は「活松皮」(ちなみに相模湾辺りではホシガレイは標準和名マツカワと区別されずに「マツカワ」と混称されているらしい)だったが、鰭上の模様からして明らかにホシガレイであったのでその場で〆てもらったもの。ちなみにホシガレイの天然個体は知る人ぞ知る超高級魚であり、養殖魚(近年は各地でホシガレイの養殖が試みられている模様)であっても活け個体でこのキロ単価は破格値なのではないだろうか。

今回の個体は〆て丁度10時間後くらいに刺身に。活け〆だけあって非常に透明感のある美しい身で、口にすると見た目通りにキメの細かいしっとりとした舌触り。口の中で咀嚼しながらもっちりとした心地よい食感を楽しんでいると、全く嫌みのない上級な旨味が口の中に広がってくる。「美味さ」を感じさせる全ての要素のバランスが絶妙で、正に「絶品」と言えるもの。これまで筆者が食べてきたカレイ類の刺身の中では、文句なしに最上の味。縁側は脂からくる甘味もあってもっと分かりやすい味だが、こちらも非常に美味い。またこれまで試したカレイ類のほとんどの種類で無眼側の方が有眼側よりも旨味が微妙ながらより多く含まれているように感じたが、今回は有眼側の方が旨味がより多く含まれているように思われた。

かの北大路魯山人は、その著書『春夏秋冬料理王国』(『食』に関するものでは唯一の著書となるが、出版は彼の死の翌年の1960年)の中で「ホシガレイの洗い」を『天下一品』と大絶賛している。魯山人が「上乗」であるという四百匁(=1.5kg)ほどの天然活けもののホシガレイに巡り会えたら是非「洗い」を試してみたいところ、、、だが、どう考えても「価格」が大問題になりそうである。

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【参考】ホシガレイとマツカワの見分け方

下表は左側に本稿で紹介したホシガレイ、右側に2010年5月に入手したマツカワの各部の写真を並べて比較したもの。基本的にホシガレイは南方系(文献的には本州中部以南および沿海州東シナ海に生息)の、マツカワは北方系(茨城県沖、若狭湾以北、北日本海、南オホーツク海に生息)の魚とされるが、「WEB魚図鑑」などを見る限り、実際の生息域はそれぞれもっと広い模様。

両者を見分ける最大のポイントは、ホシガレイの背鰭・臀鰭・尾鰭にある黒色斑は各鰭の縁辺まで到達しない(写真4/5段目左)のに対して、マツカワではこれらの鰭にある黒色帯が各鰭の縁辺にまで達する(写真4/5段目右)こと。また形態的にはホシガレイの方が頭部が細く尖り、側線の湾曲部はホシガレイの方が低くなだらかという印象がある(写真3段目左右/強いて例えると、ホシガレイの側線は「クロガレイ」風、マツカワのものは「クロガシラガレイ」風)が、多数の個体を見比べた訳ではないので、単なる個体差という可能性もある(今後要調査)。マツカワの雄は有眼側が黄色くなる(故にキビラメなどの地方名も)ため、マツカワの雄に限ればその見分けは容易。

ホシガレイ
マツカワ
有眼側全体像
無眼側全体像
有眼側頭部
無眼側背鰭
無眼側尾鰭