新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

365: オヒョウ

カレイ目カレイ亜目カレイ上科カレイ科オヒョウ亜科オヒョウ属
学名:Hippoglossus stenolepis Schmidt
英名:Pacific halibut [原], Alaska halibut

地方名として、おがれい、ささがれい(ただし「ささがれい」とも呼ばれるヤナギムシガレイは別の魚)などがあるとのこと。また小型サイズの個体は「こひょう/小鮃/小兵」などと揶揄的に呼ばれる場合もあるとか。北海道襟裳産(出荷はJFえりも)の全長約44cmの雄個体(小さいながら精巣を確認)から摘出した「魚のサカナ」。上が有眼側の、下が無眼側の標本。

有眼側(左)および無眼側(右)の標本を上の写真とは反対側から観察。「大鮃/大兵のオヒョウ」を見て最初に眼につくのは、針状に非常に長い烏口骨の『嘴』部。この特徴はこれまでに紹介してきたカレイ科オヒョウ亜科に属する種(マツカワアブラガレイサメガレイホシガレイ)の「魚のサカナ」でも見られていたものだが、本稿のオヒョウのものが「最長記録」である。また、これまで紹介してきたカレイ目の「魚のサカナ」は、近縁種間でも形状に明らかな差異が観察されることが多かったが、「大鮃/大兵のオヒョウ」も他の種のものと比較するとやはり「独特」と言える形状。肩甲骨の先端は太く角張り、烏口骨本体下部は『カーテン』状に薄く波打つ。肩甲骨孔は丸い。

(写真左)有眼側の標本の烏口骨本体と『嘴』部を拡大して観察。烏口骨下部の『カーテン』状の部分がそのまま『嘴』部の上縁に繋がっている。また横から見ると針状に見える『嘴』部分だが、実際は少し幅広である。(写真右)無眼側の標本を「魚のサカナ」の『背側』から観察。『背鰭』部の張り出しに注目。また肩甲骨と烏口骨は少々角度をもって結合している(=平面状に並んでいる訳ではない)こともお分かり頂けるはず。



オヒョウを漢字で書くと「大鮃」、即ち「大きなヒラメ」を意味する訳だが、実際は眼が右にあるカレイの仲間。『日本産魚類検索 第2版』のカレイ科の検索キーを辿り、1)眼は体の右側にある(写真中段左)、2)有眼側の体にイボ状突起がない(写真下段左および写真下右)、3)有眼側の鰓孔上端は胸鰭上端より上(写真下段左)、4)顎歯は犬歯状(写真中段右)、5)口は大きく頭長(9.9cm)は上顎長(3.6cm)の2.75倍(3.2倍以下)、6)両顎歯は有眼側・無眼側とも良く発達する写真中段右)、7)尾鰭後縁は湾入する(写真下段右)、8)側線は胸鰭上方で湾曲する(写真下段左の紫四角)などの形質からオヒョウであると判断。また『新訂原色魚類大圖鑑』に記載されている、9)体は長楕円形、10)尾柄部は細長い(写真下段右)、11)上顎後端は下目の中央下に達する(写真中段左)、12)鰓耙は強く短い、13)鱗は細かく、両体側とも円鱗、14)体色は有眼側が淡褐色で乳白色および黒色斑が散在(写真下段左および写真下右)などの形質も確認した。

オヒョウ属の魚は、北太平洋に生息する本稿の Hippoglossus stenolepis Schmidt(Pacific halibut; Wikipediaなどではこれを訳した「タイヘイヨウオヒョウ」なる名前が挙げられているが、標準和名はあくまでオヒョウである)、および北大西洋に生息する Hippoglossus hippoglossus (Linnaeus) (Atlantic halibut; 『新訂原色魚類大圖鑑』では学名をそのままカタカナに直し「ヒポグロッスス・ヒポグロッスス」として掲載。また流通名を訳した「タイセイヨウオヒョウ」もネット上では散見される)という世界でも2種類のみ。オヒョウ属の魚が世界最大のカレイの仲間であることは有名だが、FishBaseによれば、これまでの記録はオヒョウで全長267cm(ただし日本近海では、大きくなっても100cm程度とのこと)、特に大きくなる大西洋産ヒポグロッスス・ヒポグロッススに関しては何と470cmなのだとか。また属名の Hippoglossus は、ギリシャ語で「馬」を意味する"hippos"(FishBaseでは"ippos"になっているが恐らくタイプミス)と「舌」を意味する"glossus"が結ばれたものとのこと。直訳すれば「ウマノシタ(!)」である。

2012年11月に八王子総合卸売センター内、高野水産で購入(当日はキロ500円/約0.8kg)。箱書きは「大鮃」で、お店の方も「長年やっているけど、頭付きのオヒョウは初めてかも」とのこと。体表は粘液でベタベタしており、独特の香りもある(カジカで感じるようなもの。ただし香り自体は異なる)。オヒョウの場合はシュードテラノーバ寄生の恐れがあり、また鮮度的なこともあったので、ほんの一部のみを生食。身質は悪くないが、旨味はあまり感じられない。残りは切り身にしてまずは半分をムニエルに。身が厚いので火は通りにくいが、その分「食べで」はある。筋肉質の身は火が通った後はぶりぶりした食感になるが、身離れは悪くない。残りの切り身は煮付けに。こちらの方が身は多少柔らかい。含まれる旨味は「ほどほど」程度だが「定食屋さんのカレイの煮付け」を思わせる普通に美味いもの。ただ総合的に見ると、オヒョウは決して不味くはないが、それほど大騒ぎするほどの味でもないかな、、、というのが個人的な感想。