新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

181: ゴテンアナゴ

ウナギ目アナゴ亜目アナゴ科ゴテンアナゴ属
学名:Ariosoma meeki (Jordan and Snyder)
英名:Sea conger [原]

愛知県一色産で、全長約35cmの白い胸鰭を持った個体(下記の【追加情報】も参照)から摘出した左右の標本。射出骨付き。並べた標本の内側が肩甲骨。「御殿穴子のゴテンアナゴ」の形は、これまでに紹介したウナギ目の「魚のサカナ」の基本パターン(「魚のサカナ」即ち「肩甲骨および烏口骨を合わせたもの」が三角形もしくは台形/その上にくさび形の射出骨が載る/烏口骨の『嘴』部はほとんど伸びない)を共有している。肩甲骨の先端部が少々突出しているため、それらの中でも特にマアナゴハモのものに良く似ており、全体では「犬の横顔」の様にも見える。また肩甲骨と烏口骨の接合部にほとんど軟骨組織がないことも相まってか、肩甲骨孔の開孔部が烏口骨内にかなり入り込んで「烏口骨孔」状態になっている標本(【追加情報】欄の写真もご参照頂きたい)もあり、その点では独特。



「日本産魚類検索 全種の同定 第2版」のアナゴ科の『同定の鍵』を辿り、1)体が著しく細くない、2)胸鰭は大きい、3)後鼻孔(写真中段右の赤丸)は目の中央(同緑線)より下方にある、4)背鰭と臀鰭の軟条に分節がない(写真中段左)、5)肛門より前の長さが全長の約半分、6)上唇に沿う溝がある(写真中段右の水色矢印)、7)吻は短くない、8)吻端に黒斑がない(写真中段右)、9)後鼻孔は上唇の縁辺にはなく、皮弁で被われない(写真中段右)、10)肛門前側線孔数は59、11)目の後縁に上下2個の暗褐色斑点がある(写真下段右の赤四角)、12)後頭部中央に感覚孔がない(写真下段左)などの形質からゴテンアナゴであると判断。

ゴテンアナゴの背鰭/臀鰭/尾鰭の周縁部は黒いが、尾鰭の先端部は白く抜ける。

2011年9月に「三河一色さかな村」の丸光水産で購入したもの(ゴテンアナゴばかり大小15匹盛られて一皿400円)。腹開きにして、まずは定番と思われる天ぷらに。マアナゴほどではないものの、甘み旨味とも少なくなく、身もホコホコでなかなかの美味。ただし個体によっては消毒液のような風味を感じるものもあった。残りは「煮御殿穴子」に。こちらもなかなか美味いが、個体によっては泥臭いものも。もしかしたら味の良し悪しが、生息場所や鮮度に非常に左右される魚なのかも知れない。

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【追加情報】『新訂原色魚類大圖鑑』のp.94にも明記されているように、ゴテンアナゴには胸鰭が白いタイプ(下の写真左の上側)と黒いタイプ(同下側)の2種類が存在する。写真の2個体はどちらも抱卵した雌個体(写真右/上側が白鰭、下側が黒鰭の個体)であったため、胸鰭の色の違いが「性差」ではないことは明白。

そこで「魚のサカナ」の形を並べて比較してみることに。下の4枚の写真は、上段が白胸鰭を持った2個体(左は本稿の頭で紹介したものと同一)、下段が黒胸鰭を持った2個体から摘出したもの。全て抱卵した雌個体で、サイズによって「魚のサカナ」の形が異なっている可能性も考え、全長約35cm(各段左)および約45cm(各段右)の各1個体から摘出した。写真では、射出骨の方向(黒い胸鰭の35cmの左右の標本および45cmの右側の標本では外れている)から判断して、左右の標本の内側が肩甲骨、外側が烏口骨になるように並べてある。

全長約35cmの個体
全長約45cmの個体
白い胸鰭
黒い胸鰭

上段の白い胸鰭の2個体のものは、肩甲骨の前縁(「犬の顔」の鼻先)が垂直方向に直線的で、また上縁(「額」に相当する部分)が少々えぐれる一方で、下段の黒い2個体のものは、肩甲骨の前縁下部は丸みを帯び、前縁上部(「額」)は直線的であり、どうやら白胸鰭と黒胸鰭の個体間では「魚のサカナ」の形が大きく異なっているようである。もちろん現時点では白黒各2個体を調べただけなので「たまたま」という可能性もあるが、同じ種の「魚のサカナ」の形状がこれだけ異なっているのはなかなか珍しい。将来的に「クロヒレゴテンアナゴ」「シロヒレゴテンアナゴ」などと2種に分けられでもしたら面白いところだが、、、

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【注】ゴテンアナゴ属 (genus Ariosoma独立行政法人水産総合研究センター「水生生物情報データベース」を含めた一部のサイトでは「ニラミアナゴ属」と表記されている。ちなみに02/07/2012時点でのGoogle検索の結果は、「ニラミアナゴ属」で96件、「ゴテンアナゴ属」では約6,290件のヒット)の魚の標準和名(FishBaseでは「Common Names」欄を参照した)と学名の割り当ては非常に混乱しているようで、「日本産魚類検索」/「原色魚類大圖鑑」と、 FishBase などではその表記が大きく異なっている(後者におけるシロアナゴ/オオシロアナゴの亜種から種への「格上げ」というのは理解できるが)。相違点は下の表にまとめたが、上の「ゴテンアナゴ属/ニラミアナゴ属」表記の問題も含め、素人がネット検索した限りではどちらの属名/学名を使うべきかを示した決定的な資料は見つからなかった。よって本稿では「日本産魚類検索/原色魚類大圖鑑」の表記に合わせたが、この辺りの事情に詳しい方からの情報提供を心からお待ちしています。

標準和名/Common Name魚類検索/原色大図鑑掲載の学名FishBase 掲載の学名*
ゴテンアナゴ/Goten-anagoAriosoma meeki (Jordan and Snyder)Ariosoma anago (Temminck and Schlegel)
シロアナゴ/Shiro-anagoAriosoma shiroanago shiroanago (Asano)Ariosoma shiroanago (Asano)
オシロアナゴ/Ôshiro-anagoAriosoma shiroanago major (Asano)Ariosoma major (Asano)
ハナアナゴ/Hana-anagoAriosoma anago (Temminck and Schlegel)Ariosoma anagoides (Bleeker)
和名/英名なしAriosoma meeki (Jordan and Snyder)

*:神奈川県立生命の星・地球博物館および国立科学博物館『魚類写真資料データベース』も同表記を採用している模様

(02/08/12 全面改稿)