新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

320: トウジン

タラ目ソコダラ亜目ソコダラ科ソコダラ亜科トウジン属
学名:Caelorinchus japonicus (Temminck and Schlegel)
英名:Japanese grenadier [原]

地方名げほう/ゲホウ(沼津)、チョッピー(相模湾)など。沼津産の全長約40cm(ただしこの魚の尾柄部先端は欠けている/下方の全体像参照)の干物から摘出した左右の「魚のサカナ」。射出骨付き。「唐人のトウジン」の形は、やはり同じトウジン属のヤリヒゲのものに良く似ているが、1)肩甲骨前縁上部が多少前方向に広がり気味で、全体的に『体高』が高めに見える、2)烏口骨の『背鰭』部分に切れ込みがない、3)烏口骨の『嘴』(もしくは『尾』)が比較的短めでがっしりしている印象であるなど、幾つかの細かな相違点を挙げることは可能。写真右は、写真左の標本から射出骨を取り除き、更に反対側から観察したもの。ヤリヒゲのものと比べると、烏口骨の『背鰭』部分が厚く、頑丈に見えるのが印象的。また肩甲骨と烏口骨が接するライン上に肩甲骨孔が存在するのは、これまでに紹介した他のタラ目の「魚のサカナ」にも見られた特徴であるが、トウジン属のものは肩甲骨孔が非常に細長い。

「唐人のトウジン」を斜め横から観察(写真左)。肩甲骨と烏口骨はともに中程で折れ曲がり、かなり立体的な構造であることが分かって頂けるはず。またトウジンの耳石はかなり大きく(写真右)、この個体サイズのもので約1.8cmもある。



日本近海には68種ものソコダラ科の魚が生息しており、その中にはトウジン属の魚だけで22種が含まれる。これらの表徴形質(要するに『同定の鍵』)は顕微鏡観察を要するようなものが多いため、特に魚体の写真などからこの科の魚種を同定することは筆者のような素人にはかなり難しい。本稿の魚は上記したように開き干しであった(ので開いた身を一度戻してから撮影した)が、1)第1背鰭と第2背鰭はよく離れる、2)第2背鰭の発達が悪く、臀鰭よりかなり低い、3)鰓条骨数は6(写真下段右)、4)吻は長く先端は鋭い(写真中段左)、5)背鰭第2棘の前縁は円滑(写真下右の青矢印)、6)腹鰭は7軟条(写真下段左)、7)眼下隆起線はまっすぐ(写真中段左)、8)鱗の小棘は強く、てざわりはトゲトゲしてひっかかる(写真下左)、9)発光器(写真中段右の緑線で挟まれた部分)は短く、肛門(写真中段右の赤矢印)と腹鰭基底の中間付近に達する、10)頭部下面は鱗で被われる、11)頭部の背面と腹面の鱗は1本の隆起線しかない(写真下左/頭(吻)部背面の拡大図。ちなみに近縁のキシュウヒゲの鱗は2~5本の放射状隆起線をそなえることで区別できる)など、重要な形質が幸いにも確認できたことから、店頭表示(「げほう」)通りトウジンであると判断した。ちなみにトウジンの生息深度は300〜1000m程度とされ、その下顎には1本の髭がある(写真中段左の赤丸)。

2012年3月の沼津釣行の際に立ち寄った、沼津港「ぬまづみなと商店街」にある魚健で購入した「げほうの干物」(当日は380円/枚)。干物にして水分が抜けたからか、焼いた身はそこそこしっかりした食感(ホロホロ崩れるようなことはない)で、嫌みな味や香りは全く感じない。旨味も多い。かなり「頭でっかち」で歩留まりが良くないが、塩加減も筆者には丁度良く、期待していた以上の美味。ただ次の機会には是非とも「鮮魚」を食べてみたい。