新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

319: ハコフグ

フグ目ハコフグハコフグ
学名:Ostracion immaculatus Temminck and Schlegel
英名:Black-spotted boxfish [原], Bluespotted boxfish

静岡県沼津産の全長約10cmの個体から摘出(特に烏口骨が非常に薄く脆弱であるため壊さないように要注意)した左右の「魚のサカナ」。射出骨付き。さて「箱河豚のハコフグ」は、これまでに紹介してきたフグ目の「魚のサカナ」の中では、やはり同じハコフグ科のウミスズメのものに良く似ており、また小さな三角形の肩甲骨に限ればカワハギウマズラハギなどのもの(『カワハギ型』:下の【注】参照)とも少なからず似ている。しかしながら、ハコフグ科の「魚のサカナ」の最大の特徴となりそうな、大きく広がる烏口骨の形状はハコフグウミスズメ間で大きく異なり、ウミスズメのものではこの部分が『ナス』に良く似た丸っぽい形であったのに対し、ハコフグのものは各辺が丸まった四角形により近いような印象。また「箱河豚のハコフグ」の肩甲骨孔は『涙』型である。

写真右は、写真左の左側の標本を反対側から観察したもの。烏口骨の骨梁が肩甲骨に近いあたりからアーチ状に伸びて下側の後縁を突き抜けている。恐らくこの『キール』を中心にした領域が烏口骨の『嘴』部に、また上方に大きく広がっている部分が『背鰭』部にそれぞれ相当すると思われる(が、確証はないので念のため)。

海雀のウミスズメ」と同様、胸鰭軟条および射出骨付きの「箱河豚のハコフグ」は『ミジンコ』のような形。個人的な印象では、前者はオカメミジンコに、後者はタマミジンコに似ているような気も。



骨質の硬い甲板に被われていることからハコフグ科(「イトマキフグ科」を含む)の魚であることは一目瞭然。「日本産魚類検索」の『同定の鍵』を辿り、1)体の横断面は四角形(写真中段左)、2)側隆起と腰骨隆起は高く、背隆起はない(写真中段左)、3)眼上棘と腰骨棘がない(写真上段)、4)吻部は口より前に突出しない(写真上段)、5)背鰭軟条数は9(写真下段左)、臀鰭軟条数は9(写真下段右)、6)口吻径は眼径よりわずかに大きい(写真中段左)、7)頭部や尾鰭に小黒点はない(写真上段、中段左、下段左右)などの形質からハコフグであると判断。

ハコフグの甲板を背側(写真左)および腹側(写真右)から観察。ウミスズメのように腰骨隆起が大きくないので、どちら側から見ても横幅があまり変わらない。腹側は白く、肛門は臀鰭前に開孔する。ちなみに『新訂原色魚類大圖鑑』には、ハコフグの英名として "Black-spotted boxfish" が掲載されているが、"Blue-spotted boxfish" の方が体を表しているように思われる。

ハコフグの甲板(ウロコが変化したもの)は強固だが、煮ると結合組織が崩壊しバラバラになってしまう。各パーツの周縁は、ウミツバメのものよりも溝が深く「ギザギザ」に見える。

2012年3月に静岡県沼津市の木負堤防で釣りをしている時に、堤防際を泳いでいたところを網で掬ったもの。ハコフグの筋肉や肝臓にはいわゆる「フグ毒」として有名なテトロドトキシンの蓄積がないことから、その身や肝臓は長年『無毒』とされ食べられてきた(実際かなり美味い)が、近年ハコフグウミスズメが原因と考えられる「パリトキシン様毒」(良く混同されるが、ハコフグ類が持つ皮膚毒である「パフトキシン」とは全くの別物なのでご注意)による食中毒の報告が相次ぎ、多くはないが実際に死者も出ている。もし自分で捕獲したハコフグ、特にその肝臓をどうしても食べたいなどという場合は自己責任で(万が一の場合も当方は一切責任を持ちません)。ちなみにハコフグの仲間の皮膚毒「パフトキシン」と、近年問題になりつつある「パリトキシン様毒」などに関しては、ウミスズメのエントリーにまとめてあるのでご参照頂きたい。

また一部誤解をされているようであるが、昨年御徒町の○池で発生した「事件」は、丸のまま、つまり筋肉と精巣以外の部位も含むハコフグを売っていたことが問題となったもの。厚生省環境衛生局長通知「フグの衛生確保について」によれば、2012年4月現在、専門のふぐ調理師が処理したハコフグの筋肉と精巣は流通/販売可能である(ただしウミスズメなど、ハコフグ以外のハコフグ科の魚は流通禁止なのでご注意)。


【注】ウミスズメのエントリーでも述べた通り、これまでに紹介してきたフグ目の「魚のサカナ」は、上下を反転させると「アシカ」のように見える『カワハギ型』と、射出骨が長く、その間隙と肩甲骨孔の4つの孔が並んでいるように見える『フグ型』、そして今回のハコフグウミスズメで見られる、胸鰭の軟条付きで少し斜めにして見ると「ミジンコ」のような形の『第3の型』という、少なくとも3つの「基本形」が存在している。よって本図鑑では、今後はこの『第3の型』を『ハコフグ型』と呼ぶことにする。また今回の「箱河豚のハコフグ」の形状に関しては『カワハギ型』とのある程度の共通点があるようにも思われる(例えば『背鰭』に相当する部分を佩き集めるように前方に移動し、烏口骨の肩甲骨付近上部で大きく突出するように成形してやると、、、)。将来的に、2つの『型』を繋ぐ "Missing link" のような標本が手に入ると面白いのだが。