126: キアンコウ
アンコウ目アンコウ亜目アンコウ科キアンコウ属
学名:Lophius litulon (Jordan)
英名:Yellow goosefish [原], Fishing-flog, Anglerfish
地方名/流通名あんこう、ほんあんこう(本アンコウ)。新潟県産の全長約35cmの個体から摘出した左右の「魚のサカナ」の標本。写真左は、摘出直後の様子、写真右はしばらくエタノールに浸漬した後乾燥させたもの。どちらも「魚のサカナ」の斜め上から観察した写真となっている。「黄鮟鱇のキアンコウ」は、厚みのある軟骨質で、乾燥前後で形状が全く異なるため、同じ標本とはとても思えないのが面白い。
写真上の右側の標本を真横から観察したもの。左は摘出直後、右は乾燥後の様子。キアンコウの「魚のサカナ」の肩甲骨と烏口骨は融合しているようで、乾燥前/後ともその境界は観察できない。また乾燥後は全体的にシワシワになってしまうが、特に烏口骨下部が大きく凹むのが印象的。
写真上の左側の標本を、擬鎖骨に結合したままの状態で撮影しておいたもの(赤の破線は「魚のサカナ」と擬鎖骨の境界線)。「魚のサカナ」の下部は擬鎖骨と広く接している。
『日本産魚類検索 第2版』のアンコウ科の検索キー(『第3版』も同一)を辿り、1)鰓孔は胸鰭基部より背面上方に達しない(胸鰭の前側が切れ上がらない)、2)上膊棘(じょうはくきょく)は単尖頭(写真下段左右の赤四角。右側の緑丸は擬鎖骨に結合したままの「魚のサカナ」)、3)口腔内に白色斑がない(写真中段右)などの形質からキアンコウであると判断。また下ろした後に脊椎骨数を計数したところ26であった(脊椎骨数が20以下のアンコウではない)。キアンコウの胸鰭および背鰭の各鰭条間の切れ込みはあまり深くないように見える(写真下左右)。またアンコウと同様に、キアンコウの体下部縁辺には多数の皮弁が並んでいる(写真中段左)。
またアンコウとキアンコウの見分け方は、『382: アンコウ』のエントリーに詳解したのでご参照頂きたい。
巷ではあまり知られていないが、冬になると市場/鮮魚店/スーパーなどで一般的に流通する『アンコウ』(最近では中国産も多く見かける)は、実は標準和名のアンコウ(地方/流通名くつあんこう)ではなく、そのほとんどが本稿で紹介している標準和名キアンコウである。キアンコウはいわゆる「ノミの夫婦」でオスの方がより小型であるが、チョウチンアンコウ程の雌雄差はなく、雄個体でも8年で全長55cmほどになるとのこと。写真の個体は、2012年2月に角上魚類日野店で購入したもの(当日は700円/匹)。キアンコウと言えば専門家による『吊るし切り』が有名であるが、一般家庭レベルでもキッチンバサミなどを活用すれば、まな板の上で十分に捌く事ができるはず。この時はだし汁を張った醤油仕立ての鍋に。上品な旨味がある身、くにゅくにゅとした食感の皮なども美味いが、やはり「アン肝」の濃厚な旨味がキアンコウの最大の価値と思われる。非常に美味い。
(4/30/14 全面改稿)
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以下は本エントリーの初稿で紹介していた、新潟県産のキアンコウから胸鰭軟条/射出骨/擬鎖骨付きで摘出した標本の写真および説明文。参考までに、そのまま残しておく。
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写真左は胸鰭の軟条付きで取り出したままの標本。写真の下の方にある軟骨質のオタマジャクシのような形の部分が「魚のサカナ」(肩甲骨と烏口骨は融合しているような状態)で、そこから上の方に伸びる軟骨質の太く長い骨は、鰭軟条の近くまで伸びていることから判断して射出骨であると考えられる。つまりキアンコウでは擬鎖骨の遥か彼方に胸鰭があるということになる。
写真右は鰭軟条を外したところだが、「前側」の射出骨の先端部はそのまま鰭軟条下の軟骨(上側の黄線で囲った上の部分)に繋がり、「後側」の射出骨先端は扇状に広がり、鰭軟条下の軟骨を支えるような形になっている。また射出骨と肩甲骨(肩甲骨孔を紫丸で示した)の結合部分にも大きな軟骨がある(下側の黄線で囲った部分)。このように肩甲骨/烏口骨/射出骨全体の形は非常に独特だが、個人的にはこの形から「冬虫夏草」を思い浮かべてしまった。
上の2枚は上の標本の「魚のサカナ」部分のアップ。写真左はアルコール処理&乾燥前。全体に軟骨質で、小さな肩甲骨孔も確認できる。また写真左方向にある針状の骨は肩甲骨に結合しているものだが、これが何なのかは不明。位置的には退化した射出骨の可能性も?写真右はアルコール処理をして数時間乾燥させた同一サンプル。乾燥により、肩甲骨孔が大きくなり「魚のサカナ」らしい形になっている。
上の2枚は、反対側の「魚のサカナ」部分のみをアルコール処理&乾燥させたもの。左は骨を立てて左斜め前から、右は前方少々上側から撮影したもの。乾燥させると骨の色々な部分が折れ曲がった複雑な形になる。