新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

318: ホンベラ

スズキ目ベラ亜目ベラ科カンムリベラ亜科キュウセン属
学名:Halichoeres tenuispinis (Günther)
英名:Motleystripe rainbowfish [原]

別称ヤナギベラ(この別称に関しては小西英人氏の「遊遊漫筆」の『求仙/その仲間』を参照)、地方名セトベラ、クサビなど。多くのベラの仲間と同様に、ホンベラは「雌性先熟性雌雄同体魚」であり、小さい頃は雌で、成長すると雄(二次雄)に性転換するのが基本パターン。ただし雌と同じ体色で小さい頃から精巣を発達させる雄(一次雄)も存在する。

さて上の写真は、静岡県沼津市にある木負堤防で釣った全長約11cmの雄個体から摘出した左右の「魚のサカナ」のもの。写真右は、写真左の左側の標本を反対側から観察。「本倍良のホンベラ」は、これまでに摘出/紹介してきたベラ科の「魚のサカナ」の中では、同じキュウセン属のキュウセンのものに最も似ていると思われるが、1)肩甲骨の前縁や烏口骨本体の後縁がより直線的、2)烏口骨上方の突起部分の先端が上方に鋭角的に伸びることなどが相違点として挙げられる。

上は全長約11cmの雌個体(性別は体色で判断しているので、1次雄の可能性もある)から摘出した左右の「魚のサカナ」。擬鎖骨に結合したままの状態で撮影。右側の標本の「魚のサカナ」の形は雄のものとほとんど変わらない。ただしこの個体の左側の標本(写真右)では肩甲骨が奇形で、烏口骨との結合部まで肩甲骨孔が伸びたような形になってしまっている。

雄個体(全長11cm)
雌個体(全長11cm)
全体像
頭部
体躯部
背鰭前方部

「日本産魚類検索」の検索キーを辿り、1)側線は体側後部で中断しない、2)背鰭は9棘12軟状、臀鰭は3棘12軟条、3)上顎前部に著しく前方に向かう門歯状歯がない、4)側線は体側後部で急に下降する(写真上『体躯部』で薄いながらも確認できる)、5)体長は体高の6倍未満、6)吻は著しく突出しない(写真上『頭部』)、7)両唇は肥厚しない(写真上『頭部』)、8)下顎に切れ込みがない、9)口は短い筒状ではない(写真上『頭部』)、10)側線有孔鱗数は28、11)前鰓蓋骨後縁は円滑、12)雌雄とも背鰭第1/2棘の鰓膜は伸長しない、13)頬部に鱗がない、14)胸部の鱗は体側中央部の鱗より小さい、15)両顎歯は全て犬歯状歯で、前方へ突出せず、先端部の1〜2対は大きい、16)背鰭起部は主鰓蓋骨の後半部上方から始まる、17)鰓蓋上部に鱗がない(写真上『頭部』/この写真では判別困難だが)、18)背縁および体側中央に顕著な暗色縦帯がない(写真上『体躯部』)、19)体側中央に黄色縦帯がない(写真上『体躯部』/この写真では判別困難)、20)尾鰭後縁は丸いなどの形質を確認。

この先は雌雄で検索形質が異なり(ちなみに形質21以降の数字に付いている"m"および"f"は、それぞれmale/雄およびfemale/雌のものであることを表している)、雄個体に関しては、21m)背鰭前部の暗色斑は通常第5〜6棘まで広がる(写真上『背鰭前方部』左)、22m)頭部は薄赤色で約2本の薄緑色縦帯がある(写真上『頭部』左)などの形質を、また雌個体に関しては、21f)背鰭前部に暗色斑がない(写真上『背鰭前方部』右)、22f)眼の後方に暗色斑がない(写真上『頭部』右)、23f)体色は一様に黄色でも暗色でもない(写真上『体躯部』右)、24f)胸鰭基部の黒色斑は小さく基部上半部に限られる(写真上『頭部』右)などの形質を確認して、それぞれホンベラの雄/雌個体であると判断した。ちなみに実際に釣り上げた直後の雌個体は、上の写真で見られるような赤緑っぽい体色ではなく、背中側は薄褐色で、体側は青み掛かった灰色のような、どちらかと言えば地味な色合いである。また肉眼で背鰭および腹鰭の棘条(先端分枝なし)と軟条(先端分枝あり)を区別するのは非常に困難であったため、実体顕微鏡の助けを借りた。

2012年3月に静岡県沼津市の木負堤防で釣り上げたもの。しばらく冷凍保存し「魚のサカナ」を摘出するために丸ごと塩ゆでにしたものを試食。柔らかくボロボロ崩れるような身で、鮮度的な問題かも知れないが少々磯臭さがあり、旨味もキュウセンに比べるとかなり少ないように感じた。もしかしたらこの魚は煮付けや唐揚げの方が合うかも知れない。