新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

345: シキシマハナダイ

スズキ目スズキ亜目シキシマハナダイ科シキシマハナダイ属
学名:Callanthias japonicus Franz
英名:Yellowsail red bass [原] 

静岡県沼津産の全長約24cmの開き干しから摘出した左右の「魚のサカナ」。写真右は、写真左の左側の標本を反対側から観察したもの。「敷島花鯛/敷島華鯛のシキシマハナダイ」は、肩甲骨と烏口骨本体が作る角張った形(ただし肩甲骨の前縁上部には一部抉れた部分があり、また肩甲骨下部は丸みを帯びている)の後縁上部に『背鰭/嘴』部分が作る大きな三角形が結合しており、面白いことにこれまでに紹介してきたハタ科マハタ属の「魚のサカナ」に非常に良く似た雰囲気がある。少なくとも、以前はスズキ科とされていたが、現在はハタ科に再分類されているアラのものよりもマハタ属の「魚のサカナ」に似ているように思われる。

実はシキシマハナダイは、現在は独立した「シキシマハナダイ科」に再分類されているが、かつては「ハタ科」に分類されていた【注1】という経緯がある。両者の「魚のサカナ」の形状が似通っていることが確認できたので、もしかしたら近年主流となりつつあるDNAの塩基配列を用いた系統解析ならば何か面白い事実が明らかになっているのではないか?と思い、幾つかの論文【参考文献】を読んでみた。しかしながら、これらのDNAレベルの系統解析の結果(シキシマハナダイそのものではないが、同科同属の Callanthias ruber (Rafinesque) のデータを使用)が示しているのは、予想/期待に反して、ハタ科とシキシマハナダイ科は明らかに「遠縁」であるということ。つまりシキシマハナダイの「魚のサカナ」の特徴がハタ科のものに似ているように見えるのは、残念ながら(?)『たまたま』(=収斂によるもの)であり、同時にネット上で散見される「シキシマハナダイはハタ科に近縁」云々という記述も正しくないということになる【注2】

「敷島花鯛のシキシマハナダイ」の烏口骨『背鰭』部分もハタ科の「魚のサカナ」に似て湾曲しているが、その程度は低い(写真上左)。また擬鎖骨の一部がアーチ上になっているが、このようなものはあまり見た記憶がない(写真上右の赤丸)。

Nelson著の「Fishes of the World, 4th Edition (2006)」によれば、シキシマハナダイ科には少なくとも2属12種が含まれるが、日本近海に生息するのはシキシマハナダイ属のシキシマハナダイと、テンジクハナダイ属のテンジクハナダイおよびオオメハナダイの2属3種のみ。この内体長が20cmを超えるのはシキシマハナダイのみであるが、シキシマハナダイは外見や体色がハタ科ハナダイ亜科の魚に良く似ているために、慣れていないとその同定は案外難しいかも知れない。ちなみにもっとも簡単に見分るポイントは、主鰓蓋骨後縁にある棘の数で、ハタ科の魚にはこの棘が3本存在するのに対して、シキシマハナダイでは2本と1本少ない。またシキシマハナダイは、体側部では側線が背鰭の直下を縦走している(多くの魚類のように体側の中央近くを走らない)のも大きな特徴である。ちなみに上の写真は開き干しを「元の形」に戻して撮影したもの。また本稿の魚体の写真は全て左右反転させてある。



「日本産魚類検索 第2版」の「科の検索」のスズキ目スズキ亜目の検索キーを順に辿ると、1)側線は体の背鰭近くを走る(写真中段左の緑矢印)、2)背鰭に欠刻がない、3)背鰭棘数は11、4)臀鰭棘数は3、5)尾鰭後縁は湾入する(写真下段右)などの形質から、本稿の魚がシキシマハナダイ科の1種であることが分かる。更にシキシマハナダイ科の項で、6)主鰓蓋骨棘は2本(写真上段右の青四角)、7)側線は尾鰭基底に達する(写真中段右の青矢印)、8)体の縦列鱗数は45などの表徴形質を確認してシキシマハナダイであると判断。ちなみに小西英人著「釣魚1400種図鑑」では、尾鰭の下縁部がピンク色であること(写真下段右の赤矢印)や尾鰭上下の1~2軟条が長く伸びる(写真下段右)ことを特徴として挙げている。またネット上の情報ではシキシマハナダイの雄/雌の見分けに関する記述をしばしば目にするが、同書によれば「雄がメスを誘うとき胸鰭を白くする」以外の性差はないとのこと(写真下段左/という訳で本稿の個体の性別は良く分からない)。

シキシマハナダイの下顎の先端には1対の棘が前方に突き出している(写真上赤四角)が、その生理的役割に関しては調べがつかなかった。

2012年8月に沼津港「ぬまづみなと商店街」にある魚健で購入した開き干し(200円/枚)。2012年3月に同店を訪問した時に購入したヒレナガカサゴトウジンの干物に続く「3匹目のドジョウ」を期待しながら「何か変わった干物はないですか?」と聞いてみたところ、「これくらいかな?」と出してくれたのが本稿のシキシマハナダイの干物(ということで、次に沼津港に行く時にも魚健さんは再訪問決定である)。さて、今回の干物の身は黄色味が掛かった透明感のあるもの。個人的にはマダイなどの干物に近い印象を受けた。季節柄なのか塩味がかなり濃かったのが少々残念だったが、炙って食してみると繊維質の身にはまずまず旨味も含まれていることが分かる。今後機会があったら是非とも鮮魚を味わってみたいところ。


【注1】例えば 1985年出版の『さかな大図鑑』(週間釣りサンデー)では、シキシマハナダイを「ハタ科」としている。ただ 1984年出版の『日本産魚類大図鑑』(東海大学出版会)では、その根拠となる同年出版の参考文献を引用し「シキシマハナダイ科」に既に変更している。

【注2】ただし、これらの論文では「ではシキシマハナダイ科はどの科と近縁なのか」という問題に関してはっきりとした答えを提示できていない(下の参考文献2では、調べた中でセミホウボウにもっとも近いとか、、、まさか!)。今後データ数をもっと増やした更に詳細な解析の結果を見るのが楽しみである。

【参考文献】
1. Li, B.; Dettai, A.; Cruaud, C.; Couloux, A.; Desoutter-Meniger, M.; Lecointre, G.. RNF213, a new nuclear marker for acanthomorph phylogeny. Molecular Phylogenetics and Evolution 50: 345-363 (2009).(全文PDFのダウンロードは要アクセス権)

2. Meynard CN, Mouillot D, Mouquet N, Douzery EJ.. A Phylogenetic Perspective on the Evolution of Mediterranean Teleost Fishes. PLoS One. 7(5):e36443. (2012).