新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

346: ウグイ

コイ目コイ科ウグイ亜科ウグイ属
学名:Tribolodon hakonensis (Günther)
英名:Japanese dace [原], Big-scaled redfin

地方名はや(関東/オイカワやカワムツなどを含めた総称)、あかはら(北海道)、あかうお(長野)、いだ(九州)など。長野県下伊那郡売木村の売木川における釣りもので、全長約13.5cmの抱卵雌個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。右側の標本の中烏口骨は外れてしまったので補修してある。写真右は、写真左の右側の標本の拡大図。「鯎(魚扁に成)/石斑魚のウグイ」は、左右方向にスラッと長く、烏口骨上方の『背鰭』部分が「魚のサカナ」の後端部まで広がっているなど、これまでに紹介してきたコイ科の「魚のサカナ」と多くの共通点を見出せるもの。烏口骨本体の後縁下部が角張っているなどの特徴から、特にホンモロコのものに最も似ている印象。ただし烏口骨の『嘴』に相当する部分は末端まで幅広であり、ホンモロコのもののように細長くはならず、『背鰭』部分の上縁は鋸歯状(ギザギザ)であるなど、幾つかの相違点は挙げられる。

写真左は、最上段の写真の右側の標本から射出骨を外す前に撮影したもの。「鯎(魚扁に成)のウグイ」の射出骨は比較的長めで、第4射出骨後部の板状構造の幅もさほど幅広くない。また上記した通り、烏口骨の『背鰭』部分が鋸歯状になっていることが良く分かる。写真右は、写真上右側の標本を斜め後方側から撮影したもの。中烏口骨の肩甲骨に近い側がかなり太くがっしりしたものであること、烏口骨の中烏口骨との結合部付近の烏口骨側に小孔(写真では左側の孔)が存在することが確認できる。

コイ科ウグイ亜科ウグイ科ウグイ属のウグイ/マルタ/エゾウグイ【注】は外見が非常に似通っているが、婚姻色(ウグイでは朱色縦帯が体側に3本/マルタでは朱色縦帯が頬部から尾柄部まで体側下部を1本走る/エゾウグイでは頬部・腹鰭・臀鰭の基底に朱色縦帯が出るが、体側には出ない)が出ている場合は見分けは比較的容易。ただし婚姻色が出ていない場合の見分けは非常に難しく、臀鰭外縁の形状(ウグイとマルタではやや湾入/エゾウグイではほぼ直線状)と背鰭前鱗数(ウグイでは37以下/エゾウグイでは38以上/マルタは40以上)をチェックする必要がある。



「日本産魚類検索 第2版」のコイ科の検索キーを辿り、1)背鰭の最長鰓条に鋸歯縁がない(写真中段左)、2)臀鰭起部は背鰭基底後端よりはるかに後ろにある、3)眼の上縁は吻端よりも上、4)口にひげがない(写真上段左)、5)腹縁は丸い、6)眼の上縁は銀白色(写真上段右)、7)臀鰭の分枝軟条数は8(写真中段右)、8)口は吻端にある、9)胸鰭は垂直位、10)背鰭と尾鰭に顕著な斑紋がない、11)口は著しく小さくなく上向きではない(モツゴの仲間ではない)、12)側線は完全で尾柄部まで達する(写真下段右の赤矢印)、13)鱗は小さく、側線鱗数は76(ウグイでは68~84/写真下左)、14)成熟魚で体側に黒色縦帯があるように見える(写真下段左/マルタには黒色縦帯がない)、15)下顎は上顎より前に出ない(写真上段左/ウケクチウグイでは下顎の方が前に出る)、16)臀鰭の外縁はやや湾入する(写真中段右/マルタもやや湾入するが、エゾウグイではほぼ直線)、17)背鰭前鱗数は33(写真下右/ウグイでは37以下・エゾウグイでは38以上・マルタは40以上)、18)婚姻色の朱色横帯は頬部から尾柄部に達する(写真上段左および写真下段左/エゾウグイでは頬部のみ)などの形質からウグイであると判断。

2012年春/初夏に長野県の売木川で筆者の父親がアマゴの「外道」として釣ったもので、サンプルとして冷凍保存しておいてくれたもの。ということで、「魚のサカナ」を調製する時に塩ゆでしたものを試食。なかなか旨味のある身だが、小骨の数は非常に多い。また食感も少々パサ付く印象(冷凍してあったせいかも知れないが)。食材として用いるには、色々工夫が必要になると思われる。

【注】もう1種のウグイ属であるウケクチウグイは、下顎が上顎よりもわずかに前に出るために見分けは比較的容易であると思われる(が、残念ながら筆者自身はウケクチウグイの実物を見たことはない)。ちなみにウケクチウグイでは、婚姻色の朱色縦帯はウグイに似て頬部から尾柄部まで体側下部を走り、背鰭前鱗数は40以上。環境省レッドリストで絶滅危惧IB類(EN)に分類されているとのこと。