新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

347: イダテンギンポ

スズキ目ギンポ亜目イソギンポ科ナベカ族ナベカ属
学名:Omobranchus punctatus (Valenciennes)
英名:Japanese blenny [原], Muzzled blenny, Muilband-blennie, Spotted oyster blenny

愛知県西尾市(旧幡豆郡)にある小突堤で釣り上げたもので、全長7.5cmの個体から摘出した左右の標本(ちなみに下側の横長の骨は擬鎖骨である/下記参照)。「韋駄天銀宝のイダテンギンポ」の構造/特徴はこれまでにない独特なものであった(後述)ために、左側の標本では射出骨付きの肩甲骨と、擬鎖骨と完全に融合した烏口骨の2つの部分に分離してしまっている。また右側の標本では、調製に失敗して肩甲骨も欠損してしまった。写真右は、写真左の左側の標本の拡大図。この標本では第2および第3射出骨が離れてしまっているが、写真左の右側の標本からも分かるように本来は離れていない。

写真上左側の標本を更に拡大して観察。緑線で囲った部分が肩甲骨で、第1および2射出骨の根元全体と(本来は)第3射出骨根元の一部が結合している。ちなみに【参考文献2】には「韋駄天銀宝のイダテンギンポ」に関する記述があり、「形式2-1-1」として「第3射出骨の根元は肩甲骨と烏口骨の隙間部分に結合し、また肩甲骨の後縁と烏口骨の一部にも同じ程度結合する」としている(ただし、残念ながらFig. 34に「韋駄天銀宝のイダテンギンポ」のイラストはない)。また赤線で囲った部分が烏口骨に相当するが、下方の赤点線部分は「擬鎖骨と完全に融合して接合部はほとんど確認できない」【参考文献1】ため剥離は不可能。ただし烏口骨上方の突起部分(『背鰭』)ははっきり確認できる。青線で囲った部分は肩甲骨と烏口骨の隙間部分(他の多くの「魚のサカナ」では軟骨質組織になっている部分)に相当【参考文献1&2】

「韋駄天銀宝のイダテンギンポ」の肩甲骨の先端が突出するという特徴や射出骨の形状などは、同じギンポ亜目のコケギンポのものと共通しているようにも思われるが、それ以外の部分はほとんど似ていないと言い切ってしまって問題なさそう。



「日本産魚類検索 第2版」のイソギンポ科の検索キーを辿り、1)鰓孔は小さく、左右の鰓膜は峡部を横断して連続しない(写真下段左)、2)腹鰭は1棘2軟条(写真中段左)、3)前鼻孔にも後鼻孔にも皮弁がない、4)背鰭・臀鰭と尾鰭は鰓膜で連続しない(写真下段右/ただし『新訂原色魚類大圖鑑』では、ここが「つながる」となっている)、5)背鰭棘・軟条数は合計34、6)臀鰭軟条数は23、7)頭部正中線に皮弁がない、8)体に多くの暗色縦線がある(写真中段右/ちなみに顔には数本の黒色横帯がある [写真中段左])、9)鰓孔下端(写真下段左の赤線)は胸鰭基底上端(同緑線)を越えないなどの形質からイダテンギンポであると判断。

2012年8月に愛知県西尾市(旧幡豆郡)鳥羽町にある西幡豆漁港鳥羽地区の小突堤で釣り上げたもの(餌はスジエビ/モエビ)。小魚が釣り上がってきて「ん、何だこれ?」と思いながら指でつまもうとしたところ、いきなり噛み付かれて大出血(写真上右の青丸が下顎の牙の跡)。それもそのはず、イダテンギンポが属するイソギンポ科の魚には上下の顎に強力な牙(犬歯)を持つものが多い(写真上左および写真下/特に下顎の牙は鋭くて強大)。幸いなことにイダテンギンポの牙は鋭いだけのようだが、同科のヒゲニジギンポ属の魚(ヒゲニジギンポなど)には、何とこの牙に毒を持つものもいるとのこと。取り扱い要注意である。

今回は食していないので味に関するコメントはできない。


【参考文献】
1. Springer, V.G.. Osteology and classification of the fishes of the Family Blenniidae. United States National Museum Bulletin 284, Smithsonian Institution Press, Eashington, D.C. (1968) (ネット上で本書のPDFファイルは見つけられなかった/筆者は中古の原本を米Amazonから購入)

P.40に "The coracoid has become fused completely with the cleithrum with little or no evidence of a joint."との記述あり。

2. Bath, H.. Osteology and Morphology of Fishes of the Subfamily Salariinae and Its Junior Synonym Parablenniinae (Pisces: Blenniidae). Stuttgarter Beiträge zur Naturkunde Serie A (Biologie) Nr. 628 (2001) (PDFはこちらの「2001 - #628」からダウンロード可能)

P.31に、"IV Formula 2–1–1: Proximal base of radial III attached to interstice between scapula and coracoid, and (in equal parts) to the posterior margins of scapula and coracoid (Omobranchus punctatus);" とある。残念ながらp.38のFig. 34にイラストはない。


【注】非常に紛らわしいが、標準和名ギンポスズキ目ゲンゲ亜目ニシキギンポ科に属する魚(つまりギンポギンポ亜目に含まれない!)であり、スズキ目ギンポ亜目イソギンポ科に属するイダテンギンポとは亜目のレベルで異なる。