新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

372: クエ

スズキ目スズキ亜目ハタ科ハタ亜科ハタ族マハタ
学名:Epinephelus bruneus Bloch
英名:Kelp grouper [原], Yellow grouper, Longtooth grouper, Mud grouper

地方名/流通名あら(九州地方/マハタなどの大型ハタ類の総称としても使われる。ただし標準和名アラは同じハタ科の別の魚)、もあら(藻アラ/長崎県)、もろこ(関東地方/特に伊豆諸島の釣り人が使用)、くえます(三重県),きょうもどり(和歌山県)など。

今回紹介するのは長崎産の天然個体の「あら」から摘出した左右の「魚のサカナ」(故に正確な全長は不明だが、ざっと見積もって60~70cmといったところか?)。左側の標本は射出骨付き。写真右は、写真左の右側の標本を拡大したもの。「九絵/九繪/垢穢のクエ」は、肩甲骨前縁が垂直に近く、肩甲骨と烏口骨本体を合わせた部分が角張った形状、烏口骨上方と射出骨の上縁が作るラインが一度下方に落ち込んでから烏口骨の上方突起部(『背鰭』)が立ち上がる、烏口骨下部が大きく湾入するなど、ハタ科の「魚のサカナ」の中でも特にマハタ属のものに典型的な特徴を有している。ただし、1)全体的に横長な印象、2)肩甲骨孔は比較的小さい、3)烏口骨の『背鰭』部は立派に立ち上がるが、その前縁は曲線的、4)『背鰭』部の上縁は非常に緩やかな曲線を描く、5)烏口骨下部の湾入部は直角に近いという形質の『組み合わせ』は、今のところ「九絵のクエ」に特徴的なもの。

マハタ属の「魚のサカナ」では烏口骨の『背鰭』部分が湾曲しながら大きく立ち上がるものが多く、「九絵のクエ」ではその湾曲の度合いが比較的大きい。また烏口骨の『背鰭』部分には「成長線」と思われるものがはっきり確認できる。



今回のサンプルは、頭/胸部/中骨(尾柄部より前側)のみの入手したところから摘出したものなので、「尾鰭後縁の形状」や、このサイズのクエならば体側に存在すると考えられる「傾斜した6~7本の暗色横帯」などは残念ながら確認不可能。ただし『日本産魚類検索 第2版』の検索キーである、1)背鰭棘数は11(写真中段左)、2)臀鰭軟条数は8(写真下段右)、3)背鰭棘条数は前方で少し高くなる(写真中段左)、4)頭部から体にかけての斑紋は弧状ではない(ように見える/写真上段左右:イヤゴハタやホウキハタではない)、5)頭部・体・鰭・鱗などの色や模様が、カケハシハタ/ナミハタ/ハクテンハタ/キジハタ/アカハタ/ホホスジハタ/シモフリハタ/オオスジハタのものとは異なる、6)体に暗色斑点がない(ように見える)こと、また『新訂原色魚類大圖鑑』に記載されている、7)下顎歯は大きく、側方で2列に並ぶ(写真下右)、8)前鰓蓋骨の縁辺は丸く、後下縁の鋸歯は大きい、9)鰓蓋骨に3本の棘があり、中央の棘は下方の棘に近い(写真下左)などの形質が確認できたことなどから、やはりクエと判断して問題なかろうと考えた(もちろんこの判断が誤りである可能性もあるので、専門の方のご意見を伺いたいところ)。

ちなみに、クエとヤイトハタの交雑種の頭部(特に頬部や鰓蓋)には、クエの体色を背景にヤイトハタの特徴である多くの黒斑が現れる(『遊魚漫筆』の『九絵「孤高の怪物」その未来』を参照)とのことだが、今回のものにはそのような斑点は見られなかった。またクエは、他の多くのハタ科の魚と同様に雌性先熟の性転換を行うとのこと。つまり大型のクエ個体は雄である可能性が高いこととなる。

2012年12月に福岡天神にある「魚の北辰博多大丸店の店頭でザルの上に盛られていたもの(頭/胸部/中骨)。特に鍋のシーズンである冬場は需要と供給のバランスが大きく崩れており、キロ単価が1万円を超えることも珍しくないという超高級魚。今回値段を聞いたら「1,500円」とのことだったので即購入(ちなみに当日別の店では同じような「あら」を3,000円程度で売っていた)。実際予想以上に可食部分があり、個人的にはかなりお買い得と思った次第。頭とカマ部分は酒を少々入れた昆布出汁で炊いてポン酢で。弾力のある身には旨味がたっぷり含まれている。脂が乗った皮目のトロットした、また唇の少々コリットした食感も心地よい。全ての骨をしゃぶり尽くして大満足。中骨部は塩焼きに。弾力がありながらもしっとりした食感を併せ持つ身には脂がたっぷり乗り、旨味/甘味を非常に強く感じる。文句なしの旨さ。

将来的には丸一本購入して本稿も改稿したいところだが、、、