新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

348: オイカワ

コイ目コイ科ダニオ亜科【注1】イカワ属
学名:Zacco platypus (Temminck and Schlegel)
英名:Pale chub [原], Freshwater minnow

地方名は多く、ハヤ/ハエ(各地/ウグイやカワムツなどと混称)、ハス(淀川流域/標準和名ハスは「ケタバス」と呼ばれるとか)、シラハエ/シラバエ(愛知県を含む各地/ウグイやカワムツなどと混称)、チンマ(近畿地方、北九州)、ヤマベ(関東地方と東北地方の一部/アマゴやヤマメをヤマベと呼ぶ地方もあるので注意)、ジンケン(東北地方の一部)など。WEB魚図鑑によれば、オイカワという標準和名は、琵琶湖での呼び名が元になっているとのこと。さて本稿で紹介するのは、愛知県岡崎市内を流れる矢作川での釣りもので、全長約8.5cmの小型雌個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。中烏口骨付き。ちなみにオイカワの「魚のサカナ」は非常に脆弱で、そもそも外れやすい中烏口骨だけでなく、力加減のちょっとしたミスで肩甲骨と烏口骨の間も簡単に割れてしまう(実際今回手にしたほぼ同サイズのオイカワ2匹の内、1匹分の「魚のサカナ」は調製に失敗してバラバラになってしまった)。写真上右側の標本は奇跡的(!)に「無傷」だが、左側の標本は中烏口骨など一部を修復してある。

写真上右側の「無傷の標本」を拡大して両側から観察。「追河/追川のオイカワ」は、これまでに紹介してきたコイ科の「魚のサカナ」と基本的な特徴を共有していると言えるが、「魚のサカナ」全体が横長で、烏口骨上方の『背鰭』に相当する部分が比較的高く、烏口骨本体下部後縁が2重になり角張るなど、筆者の眼にはその中でもウグイのものにもっとも似ているように見える。ただし、1)全体的に「追河のオイカワ」の方が『体高』がある、2)烏口骨の『背鰭』部から『嘴』部先端へ至るラインが滑らかでウグイのもののように鋸歯状にならない、3)烏口骨『背鰭』部の下方に存在する孔は比較的大きく真円状など幾つかの明瞭な相違点が挙げられる。



「日本産魚類検索 第2版」のコイ科の検索キーを辿り、1)背鰭の最長鰭条に鋸歯縁がない、2)臀鰭起部は背鰭基底後縁より後ろにある(写真下段右)、3)眼の上縁は吻端よりも上(写真中段左)、4)口にひげがない(写真中段左)、5)腹縁は丸い、6)眼の上縁が朱色(写真中段左)、7)臀鰭の分枝軟条数は9(写真下段左)、8)体側に不明瞭な横帯がある(写真下段右)、9)口裂は直線的(写真中段左)、10)体側の縦列鱗数は44などの形質からオイカワであると判断。写真からも分かるように、オイカワの側線は胸鰭を越えたあたりで大きく下方に湾曲し、その大部分は体側中央ではなく腹側を走っている。またオイカワの本来の分布域は本州では関東以西であるが、アユなどの有用魚種に紛れて全国各地に放流されてしまい「国内外来種」として近年その生息域を広げているとのこと。

またオイカワとヌマムツ(旧カワムツA型 Nipponocypris sieboldii (Temminck et Schlegel))/カワムツ(旧カワムツB型 Nipponocypris temminckii (Temminck et Schlegel))間の自然交雑種(それぞれ通称オイムツ/オイカワムツ)が知られている【注2】が、このような交雑個体では体色や体型が中間的(ただし程度の強弱あり)なものになることに加えて、側線上方横列鱗数/側線鱗数/臀鰭軟条数などの形質が各魚種にありえない組み合わせになるとのこと。今回の個体では、側線上方横列鱗数が8(写真下段右/オイカワで8~9、カワムツで10~11、ヌマムツで13~14)、側線鱗数が44(オイカワで43~48、カワムツで45~52、ヌマムツで53~65)、臀鰭軟条数は9(写真下段左/オイカワで9、カワムツで10、ヌマムツで9)と、全ての数値が「オイカワ」の範囲内で、更にはオイカワに特徴的な体側の不明瞭な横帯も確認できたことから交雑個体である可能性は低いと判断した(本段落に関しては『日本淡水魚類愛護会』サイト内の「写真掲示板」2007年12月のスレッド「ヌマムツ?オイムツ?」を参照しました)。

筆者が小学校低学年の頃からと記憶するが、夏の夕方になると父親に矢作川へ連れて行ってもらい流し毛針によるオイカワ(白ハエ)釣りを幾度となく楽しんだ。今でもその情景がはっきり思い出せるほど、筆者にとって懐かしい大切な思い出となっている。さて、今回の個体は、2012年8月の帰省時に地方公設丸八岡崎青果市場近くの水門付近で何十年か振りに釣り上げたもの。しばらく冷凍保存し「魚のサカナ」を摘出するために丸ごと塩ゆでにしたものを試食したが、冷凍保存が良くなかったのか、あまりに小型個体だったせいなのか旨味はほんどなく美味とは言えなかった。ただし、鮮度の良い良型の個体を塩焼きや唐揚げにしたものなどはそこそこ美味かったという記憶(ウン十年前のものだが)はある。

【注】資料によっては「ラスボラ亜科」「ハエジャコ亜科」ともされるようだが、現時点でコイ科の分類体系は構築途上にあるため、今後の研究の進展によって亜科名などが大幅に変更になる可能性も高いとのこと。ちなみにオイカワの属名である Zacco は、日本語の「雑魚(ザコ)」に由来するとか。

【注2】不思議なことに、より近縁であるはずのヌマムツとカワムツ間の交雑種は見つかっていないとか。