新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

310: ヤリヒゲ

タラ目ソコダラ亜目ソコダラ科ソコダラ亜科トウジン属(ヤリヒゲ属)
学名:Caelorinchus multispinulosus Katayama
英名:Spearnose grenadier [原]  

愛知県一色漁港産の全長約22cmの個体から摘出した左右の「槍髭のヤリヒゲ」。射出骨付き。肩甲骨と烏口骨が接するライン上に肩甲骨孔が存在するが、この特徴はこれまでに紹介した他のタラ目の「魚のサカナ」にも見られたもの。ただしそれ以外の点では大きく形状が異なり、例えば 1)肩甲骨と烏口骨はともに中程で折れ曲がる、2)肩甲骨孔の前縁が直線的、3)肩甲骨孔が非常に細長い、4)烏口骨の上方突起(『背鰭』)部が縦に2つ並んで存在する、5)烏口骨の『嘴』部分が棒状(紹介済みの他のタラ目のものは太く平たい)など、独特な点を多く挙げることができる。写真右は、写真左の右側の標本から射出骨を除去し、反対側から観察したところ。上の4)に挙げた、2つ並んだ『背鰭』部の様子が良く分かるはず。

写真左は、射出骨を除去する前に烏口骨の上方突起『背鰭』部分を拡大して観察したもの。「魚のサカナ」の輪郭を赤細線でなぞってある。烏口骨の上側の突起部と、比較的大きめの第4射出骨が位置的に重なっている(ただし立体的には「面」が異なる)。写真右は、射出骨除去後に左右の『背鰭』部分を比較できるように並べたもの。この部分の形状は左右で異なるが、『背鰭』が2つあるという特徴は同じ。



日本近海に生息するソコダラ科の魚は、2000年の時点で68種、トウジン属の魚だけでも22種が確認されており、またその表徴形質は顕微鏡観察による確認を要するようなものも多いため、外見(特に全体像の写真など)からこの科の魚種を同定するのは非常に困難である。本稿の魚は、胴体部分が踏みつけられた状態で一色漁港の仕分け場付近に捨てられていたものなので決して状態は良くなかったが、幸いなことに吻が細長く尖り(写真中段左)腹鰭が7軟条(写真中段右)であることからトウジン属のサカナである可能性が高く、また体側の蠕虫状斑紋(写真下段右)からヤリヒゲではないか?との予測が立てられるくらいのもの。ということで実体顕微鏡の助けを借りながら「日本産魚類検索」の『同定の鍵』を辿り、1)第1背鰭と第2背鰭は良く離れる、2)第2背鰭の発達が悪く、臀鰭よりかなり低い、3)鰓条骨数は6、4)吻は長く先端は鋭い(写真中段左)、5)背鰭第2棘の前縁は円滑、6)腹鰭は7軟条(写真中段右)、7)眼下隆起線はまっすぐ(写真中段左の赤矢印)、8)鱗の小棘は弱く、手触りはザラザラする程度(下記参照)、9)発光器は著しく長い(写真下段左の2本の赤線に注目)、10)吻背部の前側無鱗域は広い(写真下左側の黄緑線で囲った領域)、11)頭部下面は先端のみ有隣で他域は無鱗、12)体側の蠕虫状斑紋は(まずまず)明瞭である(写真下段右)などの形質から、本稿の魚はヤリヒゲであると判断した。また下顎に髭が1本あることも確認(写真中段左の青丸)。

ただし今回の魚の鱗を実体顕微鏡で観察してみると、体側の鱗の棘はなかなか長く(写真上の右側)、これを「弱い」と判断してしまって良いのかという疑問は残る。もっともこの棘を「強い」として鍵を辿ると、発光器が非常に短いミヤコヒゲや、生息域が九州以南であるズナガソコダラやムスジソコダラに向かってしまい、明らかにおかしな「同定」になってしまうのだが、、、

今回は入手時の状況から口にする気が起こらなかった。故に食味は不明。


このエントリーをもって「一色漁港シリーズ・2011年末」は(ようやく)終了です。