新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

309: ヨメヒメジ

スズキ目スズキ亜目ヒメジ科ヒメジ属
学名:Upeneus tragula Richardson
英名:Blackstriped goatfish [原], Freckled goatfish, Bar-tailed goatfish, Darkband goatfish, Mottled goatfish, Red mullet, Spotted goatfish

三河湾一色漁港産の全長約15cmの個体から摘出した左右の標本。写真右は、写真左の右側の標本を反対側から観察したところ。「嫁比賣知のヨメヒメジ」は、肩甲骨孔の上方に更に1〜数個の孔が存在すること、烏口骨の上方の突起部(「魚のサカナ」の『背鰭』に相当)から『嘴』(「魚のサカナ」の『尾』に相当)の中程にかけて外側部分が平面状に立ち上がること、『嘴』の先端部は外側に少々曲がり細長く伸びることなど、これまでに紹介した他のヒメジ科の「魚のサカナ」の形と共通した特徴を有している。その中ではヒメジのものに最も良く似ているが、肩甲骨がヒメジのものより横方向に広がっている印象で、そのため肩甲骨と烏口骨本体の高さにあまりギャップがない点が異なっている。

他のヒメジ科の「魚のサカナ」同様に烏口骨の『背鰭』に相当する部分が肩甲骨/烏口骨が作る面とは垂直方向に立ち上がっている。ただし「嫁比賣知のヨメヒメジ」はその上方先端部が針状に尖る(「比賣知のヒメジ」と同様)。

左右の「魚のサカナ」肩甲骨と烏口骨本体部の拡大図。右側の標本では烏口骨本体の中央にも小孔が存在するが、左側にはない。また肩甲骨孔の上にある小孔の数や位置が左右で異なっていることもご理解頂けるはず。



「日本産魚類検索」の同定の鍵を辿り、1)鋤骨・口蓋骨に絨毛状歯がある、2)第2背鰭の基底前半が小鱗で被われる(写真下段右の赤四角)、3)尾鰭両葉に暗色帯がある(写真中段右)ことから、ヨメヒメジ、ミナミヒメジ、ヨコヒメジ、シロガネヒメジ、更には2011年末に記載されたばかりのサクヤヒメジ(Upeneus itoui Yamashita, Golani and Motomura【参考文献】)の5種に絞られる。
 ところが、写真からも分かるように今回の個体は体側の鱗が完全にはげ落ちてしまった上に各鰭の鰓膜もボロボロという状態があまり良くないものであるため、次の「検索」の「体側に黒褐色斑点が散在する」かどうかが判定できない。そこで「日本産魚類検索」/「新訂原色魚類大圖鑑」/FishBase/と以下の【参考文献】などの詳細情報と照らし合わせると、4)胸鰭軟条数が13であることからミナミヒメジおよびヨコヒメジ(それぞれ15~17および15~16)が、5)生息域が三河湾であることからミナミヒメジ(高知以南)、シロガネヒメジ(八重山諸島)および現時点ではサクヤヒメジ(四国以南)が、6)ヒゲが黄色い(写真中段左)ことからミナミヒメジおよびサクヤヒメジ(どちらもヒゲが白色)が、7)第1背鰭が8棘(写真下段左/この写真では第1棘が見えていない)であることからサクヤヒメジ(第1背鰭が7棘)が、8)比較的体高が低い(=体が細長い)ことからミナミヒメジとヨコヒメジ(どちらも比較的体高が高い)が、9)尾鰭下葉中央部の暗色帯の幅が特に広くないことからミナミヒメジがそれぞれ除外されるため、『消去法』ではヨメヒメジの可能性がかなり高いこととなる。他にも眼を通る褐色帯、胸鰭/腹鰭にある濃赤斑(写真下/胸鰭のものは薄いが)、鱗が剥げた後も体側に見られる黒縦帯と思われる模様などヨメヒメジの特徴が多数確認できることから、今回の魚はヨメヒメジであると判断した(もし間違っているようならばご指摘下さい)。

三河一色さかな村」の深谷水産で購入(本稿のヨメヒメジ1匹の他に、ヒメジ2匹、カナガシラ1匹、イネゴチ2匹が盛られて100円!)。この魚も冷凍保存後に「魚のサカナ」を摘出するため丸ごと塩ゆでにして試食。口当たりがしっとりとした身で、口の中で心地よく崩れる。非常に甘みを感じまた旨味も多いため、客観的に言ってかなりの美味といえるもの。ただし今回の魚は多少金属的な後味が残るように思われた。これが鮮度や個体差からくる「たまたま」なものなのか、ヨメヒメジ全般に言えることなのかは要確認。

【参考文献】サクヤヒメジ:Yamashita, Golani and Motomura, A new species of Upeneus (Perciformes: Mullidae) from southern Japan. Zootaxa 3107: 47-58 (2011).(PDFはこちらからダウンロード可能)