新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

377: ヒメ

ヒメ目ヒメ亜目ヒメ科ヒメ属
学名:Aulopus japonicus (Günther)【注】
英名:Japanese aulopus [原], Japanese thread-sail fish, Japanese threadsail

『新訂原色魚類大圖鑑』によれば、アカエソ、オキハゼ、トラギス、トラハゼなどの地方名があるとのこと(但し標準和名で言うところのアカエソやトラギスなどとは当然別種なので混同なきよう)。今回紹介するのはは愛知県蒲郡市西浦産の全長約24.5cmの雄個体から摘出した「魚のサカナ」の標本。射出骨付き。写真右は、写真左の左側の標本から射出骨を除去し、反対側から観察したもの。さて「比女/姫のヒメ」の形状だが、肩甲骨と烏口骨本体がラグビーボールのような楕円形を作るという点においては、同じヒメ目のツマグロアオメエソのものとの共通性を見いだせるものの、基本的にはこれまでに紹介してきたヒメ目の「魚のサカナ」の形状とは大きく異なっていると言える。「魚のサカナ」の『背鰭』に相当する上方突起部分は『鎌』のような形状で大きく立ち上がり、また『尾』に相当する烏口骨の『嘴』部分は比較的直線的にかなり長く伸びている。肩甲骨孔は比較的大きめ。肩甲骨の後部下方と擬鎖骨との結合がかなり強いために、擬鎖骨から標本を外す時に肩甲骨の一部が擬鎖骨側に残ってしまい、写真で見られるように下部が抉れたような形になってしまう。

こちらは全長約23.5cmの雌個体から摘出した標本。擬鎖骨の結合が強いために、剥がれて抉れたようになる肩甲骨下部も含め、「魚のサカナ」の形状に雌雄差はほとんどないと思われる。



上の写真は左側に雄個体、右側に雌個体のものを並べてある。これらの個体は『日本産魚類検索 第2版』(『第3版』でも変更なし)の検索キーを辿り、1)背鰭は16軟条(写真下段左右)、2)側線鱗数は42(雄個体)と40(雌個体)、3)吻長は眼径とほぼ等しい(写真中段左右)、4)雄の背鰭前端付近の軟条は伸長しない(写真下段左)、6)鰓端数は22(雄個体)と20(雌個体)などの形質を確認してヒメの雄雌であると判断。また「固定された雌の背鰭前端付近には数個の暗色点が見える」(検索キーの一つ)とのことが、生鮮の個体を観察したためか今回この暗色点は確認できなかった。

雄個体の臀鰭には明瞭な黄色縦帯が存在する(写真上左)が、雌個体の臀鰭は全体が白色である(写真上右)。

2012年12月に愛知県蒲郡市にある西浦鮮魚マーケット組合の○河・河井商店で購入(ほぼ同じサイズのヒメが雄雌混じりで10匹以上盛られて200円)。そもそも産地消費がせいぜいといったところで、ほとんど流通しないと思われるが、流通した場合でも普通はすり身などに加工されるとのこと。今回の魚は鮮度的には全く問題なかったので、まずは一部を刺身に。身は少々柔らかく、小骨も少なくないが、咀嚼していると甘み旨味を強く感じる。特に旨味はかなり後まで口の中に残るほど。残りはフィレにして南蛮漬けに。小骨がほとんど気にならなくなり、また食欲をそそる香りもある。生の時に感じた強い旨味はやはり熱を通しても消えない。ネット上の評判は賛否両論であるが、個人的には美味い魚であると思う。


【注】FishBaseではヒメの学名をHime japonica (Günther)と掲載し、Aulopus japonicusをシノニムとして扱っている。