新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

376: オオメハタ

スズキ目スズキ亜目ホタルジャコ科オオメハタ属
学名:Malakichthys griseus Döderlein
英名:Silvergray seaperch [原](FishBaseに英名表記なし)

地方名しろむつ(白むつ/三河湾)、しょうわだい(昭和鯛/尾鷲地方)、でんでん(沼津・小田原)など(ただし近縁のワキヤハタやナガオオメハタとほとんど区別されていない)。愛知県蒲郡市西浦産の全長約22cmの個体(故に店頭では「白ムツ」)から摘出した左右の「魚のサカナ」の標本。エタノール浸漬の時間が長過ぎたために少々黄変してしまった。写真右は、写真左の左側の標本を反対側から観察したもの。「大目羽太のオオメハタ」は、基本的にはこれまでに紹介してきたホタルジャコ科の「魚のサカナ」と共通する特徴を有しているように思われるが、1)肩甲骨と烏口骨本体が五角形に近い形になる、2)『背鰭』(烏口骨の上方突起部)の立ち上がりはあまり高くない、3)烏口骨本体後縁は垂直に立ち上がる、4)湾入部分の形状はあまり丸くないなど独特な部分も多い。また同じオオメハタ属のワキヤハタのものと比較すると、肩甲骨孔のサイズ、『背鰭』前縁および上縁の形状、烏口骨本体と『嘴』部(『尾』に相当)をつなぐ湾入部の形状、『嘴』部の太さなど、同じ属の「魚のサカナ」にしては比較的多くの相違点が観察できる。

「大目羽太のオオメハタ」の『背鰭』部は、上方から見ると大きく湾曲している(写真左)。また『嘴・尾』部の太さは一定ではなく、所々太くなっている(写真右)。

オオメハタの耳石はかなり大きく、最長部で1.2cmほどもある。



写真撮影時には『日本産魚類検索 第2版』のホタルジャコ科の同定の鍵を辿り、1)臀鰭棘は3本(写真下左の黄緑ローマ数字)、2)腹鰭棘の前縁はなめらか(写真下段左の緑四角)、3)肛門(写真下右の赤丸)は臀鰭起部(同青線)に近い、4)下顎先端に棘がある(写真中段右の赤丸)、5)臀鰭基底長(2.3cm/写真下左の赤線)は臀鰭最長軟条長(2.4cm/同青線)とほぼ同長、6)体高(6.4cm)は体長(18cm)の1/3以上、7)側線有孔鱗数は44(41~47)などの形質を確認してオオメハタであると判断。同書『第3版』では、2001年に下記の論文で新種報告されたヒゲオオメハタが追加された関係で検索キーが少々変更されたが、5’)下顎先端の1対の棘を除いて棘はない、6’)臀鰭基底は短い、7’)体高は体長の約36%、8’)側線有孔鱗数は44(42~49)という形質から、やはりオオメハタであると判断した。標準和名に「ハタ」と付いているが、スズキ目スズキ亜目ハタ科の魚とは遠縁なので混同なきよう。

Yamanoue, Y. and K. Yoseda, 2001. A new species of the genus Malakcihthys (Perciformes: Acropomatidae) from Japan. Ichthyol. Res. 48(3):257-261. PDF(ダウンロードには要アクセス権)

2012年12月に西浦鮮魚マーケットの石川商店で購入。ワキヤハタが大小13匹盛られた木箱の中に1匹だけ混じっていたもの。写真からも分かるように最高の鮮度とは言えない状態だった(前日の水揚げ分か?)が、その分値段は安く計14匹で300円。そのため刺身で食べることは最初から諦めて塩焼きに。適度な食感があり、旨味もなかなか含まれており美味。当日はワキヤハタの塩焼きと食べ比べたが、両種の食味はほとんど変わらないような印象(ただしメモを残すのを忘れてしまったので、あくまで「記憶の上では」だが)。

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【オオメハタとワキヤハタの見分け方】

写真左は、本稿のオオメハタ(上)と、同じザルに盛られていたほぼ同サイズのワキヤハタ(下)を比較したもの。ほぼ同サイズのワキヤハタと並べた場合は、標準和名通りのオオメハタの眼の大きさが良く分かる(写真右)が、鮮魚店の店頭などで1匹だけが売られているような時にその絶対的な眼径を判断するのはなかなか難しいと思われる(写真下中段左右参照)。

そこで注目すべきは、臀鰭の基底長(写真下の下段左右の赤線)と最長軟条長(同青線)の比率。ワキヤハタでは臀鰭基底長がかなり長く、また臀鰭最長軟条長が短いために、全体的にかなり細長い印象を与えるのに対して、オオメハタでは基底長と最長軟条長がほぼ同長であることがご理解頂けるはず。また下顎棘は両種とも1対のみ(ただしこの写真のワキヤハタでは、下顎棘が折れてしまっているために短い)。

オオメハタ
ワキヤハタ
全体
頭部
下顎棘
臀鰭

日本産オオメハタ属魚種の見分け法は以下の通り。下顎先端付近に多くの棘(13対ほど)があり、主鰓蓋骨の2棘間にシミ状の暗色斑があればヒゲオオメハタ。下顎先端付近の棘が1対で、臀鰭最長軟条長が臀鰭基底長の70%未満(最長軟条長より基底長の方が明らかに長い)であればワキヤハタ。臀鰭最長軟条長が臀鰭基底長の90%より長い(最長軟条長と基底長がほぼ同じ)ようであれば、あとは体高が高く(体高は体長の36%以上)側線有孔鱗数が42~49であればオオメハタ、体高が低く(体高は体長の35%以下)側線有孔鱗数が48~51であればナガオオメハタである(ということで、有孔鱗数が48もしくは49の場合は両種とも可能性がある)。ちなみに「体長」とは、頭の先から尾鰭の_付け根_までの長さのこと。一般に釣魚などのサイズ計測に使われる、頭の先から尾鰭の先端部までの長さである「全長」とは異なる(当然「体長」の方が短い)のでご注意頂きたい。