新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

337: キツネメバル

スズキ目カサゴ亜目メバルメバル
学名:Sebastes vulpes Döderlein
英名:Fox jacopever [原]

地方名まぞい(マゾイ/真ゾイ)など。新潟産の全長約28cmの個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。射出骨付き。写真右は、写真左の左側の標本を反対側から観察。「狐目張のキツネメバル」は、すっかり見慣れたフサカサゴ科の「魚のサカナ」の基本形であるが、烏口骨の上方突起部(『背鰭』)の高さは低めで、どちらかと言えばカサゴ属のものに近い印象を与えるタイプ。後述するように同じ「キツネメバル複合種群」に属するタヌキメバルのものとはやはり酷似する。



「日本産魚類検索 全種の同定 第2版」を開き、1)側線は側線有孔鱗で開口する、2)胸鰭に遊離軟条がない、3)胸鰭も背鰭も普通の大きさ、4)胸鰭に欠刻がない、5)背鰭軟条数は13、6)頬(眼下骨系)に棘がない、7)胸鰭上半部の後縁は丸い、8)眼窩下縁に棘がない、9)弱い頭頂棘がある、10)下顎は著しく前に突出せず、その先端は尖らない(写真中段左)、11)尾鰭後縁は丸い、12)眼隔域はくぼまず平坦、13)涙骨に顕著な棘がない(写真中段左の黄四角)、14)吻から眼を通り鰓蓋に至る1暗色線がない、15)胸部に暗色斑がない(写真中段右)、16)側線有孔鱗数は32、17)体は一様に黒色ではない(写真下段左)、18)第1鰓弓の鰓耙数は26(ただし本稿の魚の「26」は、現状ではコウライキツネメバルの可能性もある数字/下記参照)、19)尾鰭後縁の白色帯は非常に狭い(写真下段右/尾鰭軟条の先端のみが多少白い)、20)体の暗色横帯は不明瞭で、小暗色点が密に分布する、21)体幅はやや広い(主観的なものだが)などの形質から、「検索」上はキツネメバルに辿り着くことを確認。近縁のコウライキツネメバルとは形質17と18(コウライキツネメバルは、体がほぼ一様に黒色で、第1鰓弓の鰓耙数が24~26)で、タヌキメバルとは形質19/20/21(タヌキメバルは、尾鰭後縁の白色帯は広く、体の暗色横帯が明瞭だが小暗色点はまばら、体幅はやや狭い)で区別できることになっている。

ただし2011年に出版された小西英人著「釣魚1400種図鑑」p.339には「尾鰭後縁の白色帯が広いか狭いか(中略)は、キーにならない」と明記されている(つまり上記の形質19ではキツネ/タヌキを見分けられないことになる)。また「日本産魚類検索」に記されたキツネメバルの形質では第1鰓弓鰓耙数(GR)が28~29となっているが、本稿の魚はこれが26であることから明らかに矛盾している。実際「日本産魚類検索」に記されたキツネメバル/コウライキツネメバル/タヌキメバルの各形質と本稿の魚の形質を比較して表にまとめたところ、完全一致する魚種がいないという結果に、、、本稿では「検索」結果を踏まえてキツネメバルとしておくが、現在京都大学で進行中であるというキツネメバル複合種群の分類学的解析の結果が待たれるところである。

 本稿の魚キツネメバル
S. vulpes
コウライキツネメバル
S. ijimae
タヌキメバル
S. zonatus
体色/暗色横帯暗色横帯は不明瞭で、小暗色点が密に分布○暗色横帯は不明瞭で、小暗色点が密に分布×一様に黒色で暗色横帯、小暗色点とも不明瞭×暗色横帯は明瞭、小暗色点はまばら
背鰭13棘13軟条○13棘13軟条○13棘13軟条○13棘13軟条
胸鰭17軟条○17〜18軟条○16〜17軟条○17〜18軟条
腹鰭1棘5軟条○1棘5軟条○1棘5軟条○1棘5軟条
臀鰭3棘6軟条○3棘6軟条×3棘5軟条○3棘6軟条
尾鰭の白色帯非常に狭い○非常に狭いか、ほとんどない△不明×広い
有孔側線鱗数32○32~33○30~33○31~34
第1鰓弓鰓耙数26×28~29○24~26○26~27
【表中の記号】○:範囲内/当てはまる; △:不明; ×:範囲外/当てはまらない

フラッシュを焚いて撮影すると、臀鰭や尾鰭に青緑斑紋が存在することが分かる。

2012年5月に角上魚類日野店で購入(当日は350円/匹)。店頭表示は「黒ゾイ」。今回は2枚に下し、骨付きの半身(とキモ)を煮付けに、骨なしの方を塩焼きに。煮付けにすると、いわゆる身離れが良いのでとても食べやすい。身は繊維質で、旨味も多く含まれている。トロリとした食感の皮も良い。かなり美味い。ただ、少なくともこの個体に限っては、キモに少々クセのある嫌な風味があって残念であった。塩焼きにしてもやはりなかなか繊維質。焼いた皮はねっとりと歯に絡み付くような食感になる。身の旨味はかなり立って、こちらも美味。やはり「定番料理」には「定番」ならではの理由があると言うことか。