新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

23: ギンザケ

サケ目サケ科サケ亜科サケ(タイヘイヨウサケ)属
学名:Oncorhynchus kisutch (Walbaum)
英名:Coho Salmon [原]

岩手県の全長約50cmの個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。中烏口骨付き(左の標本には更に射出骨付き)。太くて立派な中烏口骨を含め、他のサケ科の「魚のサカナ」と基本的に共通の特徴を有している。ただし、烏口骨上方の『背鰭』部の前縁最上部が針状に比較的長く突出し、また烏口骨の『嘴』部は長めで、かつ下方に大きく曲がる。写真右は、写真左の右側の標本を反対側から観察したもの。肩甲骨と烏口骨の間隙が広く軟骨質であることが分かる。

写真上の左側の標本では、烏口骨の上方突起部には大きめの孔が一つと、多数の小孔が開いている。ただしこれまでの経験からすると、この部分には個体によって変異が見られる可能性が高い(実際今回も左右の標本で多少形状が異なっている)。



「日本産魚類検索 第2版」の『鍵』を辿り、1)頭部が側扁し、頭頂部が膨らむ、2)鋤骨・口蓋骨の歯帯は『小』字型、3)体の背面に黒点が散在、4)尾鰭上縁の一部のみで黒点が認められる、5)頭部背面に小黒点があるという形質からギンザケであると判断。また「新訂原色魚類大圖鑑」に記載されている、6)背鰭に小黒点がある(写真下段の赤四角)、7)最長の鰓耙が眼径と同じ、8)尾鰭後縁が截型(写真下段左)などの形質も確認した。

2011年8月に角上魚類所沢店で購入(当日は900円/匹)。今回は3枚に下ろし、ホットプレートの上で「ちゃんちゃん焼き」に。味噌の焦げる香りとギンザケの旨味の調和が堪らない。白米にも日本酒にもぴったりの素晴らしい味。「あら」は味噌汁に。こちらも非常に美味い。

【注】2011年3月の東日本大震災に伴う大津波で、宮城県を中心に存在していたギンザケ(を含む様々な海産物)の養殖施設は大打撃を受けた。その数ヶ月後位から岩手/青森県内の定置網に、例年ならばほとんど獲れないはずのギンザケが何故か大量に入るようになったという報告は相次いだとのこと。これらのギンザケは、ほぼ全部の個体に臀鰭の上下縁が擦り切れているという養殖個体の特徴(つまり養殖用の網の中で自然より過密状態で飼育されているため、頻繁に網に当たる尾鰭の先端が欠失してしまう。ちなみにマダイなど別の魚でも「尾鰭の擦り切れ」は天然/養殖を見分ける『鍵』の1つとして挙げられる)が見られたことから、被災した宮城県内の養殖施設から逃げ出した個体が群れを作って北上し、岩手/青森県内の定置網に大量に入ったと考えられる。詳細は以下のリンク先を参照頂きたい。

ギンザケが謎の大漁 被災養殖場から逃げた?(動画@YouTubeテレビ朝日ニュース:2011年8月7日配信)
東北沿岸で謎の大漁 被災養殖場からギンザケ逃げた?東京新聞2011年8月3日)

今回の個体は岩手の定置網に入ったもので、臀鰭の上下縁が擦り切れている(写真下段左の赤四角)ことからも、上記した「養殖施設」から逃げ出したと推察されるもの。そう言う意味で、この味は「あの忌々しい記憶」とともに決して忘れてはいけないものであると思っている。

(11/20/11 改稿&写真追加)