新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

42: ウサギアイナメ

スズキ目カジカ亜目アイナメアイナメ亜科アイナメ【注】
学名:Hexagrammos lagocephalus (Pallas)
英名:Rock greenling [原]

地方名/流通名あぶらこ(油子)、あぶらめなど。北海道産の全長33cmの婚姻色が出て赤みがかった雄個体(白子を持っていることも確認)から摘出した左右の「魚のサカナ」。巨大な射出骨付き。エタノール固定中に少々黄変してしまった。

「兎鮎魚女/兎鮎並/兎鮎魚並/兎愛魚女のウサギアイナメ」には、他のカサゴ目アイナメ亜目の「魚のサカナ」でも共有されていた特徴が良く出ており、その全形はやはりアイナメのものに一番良く似ている。ただしウサギアイナメのものでは 1)肩甲骨孔が小さめ、2)肩甲骨の前縁下部が少々尖る(標本調製時の問題である可能性も)、3)第4射出骨と烏口骨の『背鰭』部の間がより深く切れ込む、4)烏口骨の『嘴』部が比較的短いなど、両者間の相違点を幾つか挙げることは可能。

烏口骨の『嘴』部分は、真横から見ると細く見えるが、標本の後側から観察すると実は平板状になっている(写真右)。また『背鰭』部から『嘴』部に向かう途中に比較的大きな孔が開いている。写真左は、擬鎖骨に結合した状態の標本を後斜め上から撮影しておいたもの。烏口骨の『嘴』部は、「魚のサカナ」本体の作る面とは垂直に結合し、また擬鎖骨の接する部分は広い。このようながっしりとした構造で、ウサギアイナメの大きな胸鰭を支えていることが見て取れる。



日本近海に生息するアイナメ科の魚は2属7種で、その内アイナメ属の魚が5種類(本稿のウサギアイナメアイナメ、クジメ、スジアイナメ、エゾアイナメ)を占める。「日本産魚類検索 第2版」の同定の鍵を辿り、1)背鰭中央部に深い欠刻がある、2)尾鰭後縁が2叉しない(写真中段右)、3)体の側線は5本、4)尾鰭後縁が丸い(写真中段右)、5)第4側線が長く(写真下段左の青線)臀鰭基底部(同赤線)をはるかに越える、6)鱗は小さく(写真下段左)側線有孔鱗数が約110(写真計測なので正確ではないが、少なくとも97以上であることは確実)などの形質からウサギアイナメであると判断。

「側線が5本で尾鰭後縁が丸くなる」という形質を共有するスジアイナメとは、形質5および6で区別出来る(スジアイナメの第4側線は短く、鱗がは大きく側線有孔鱗数が86~94)とされるが、個体によっては胸鰭や臀鰭の軟条数(ウサギアイナメでは胸鰭が18~22軟条で臀鰭が20~24軟条/スジアイナメでは胸鰭が17~19軟条で臀鰭が24~26軟条)でも判別可能。ちなみに本稿の個体の胸鰭/臀鰭軟条数は、それぞれ21(写真下段右)/23であり、これらの数字からもウサギアイナメであると判断できる。

2011年11月に八王子綜合卸売協同組合・やまぎし水産で購入(当日はキロ800円/0.5kg)。鰓は鮮紅色で鮮度落ちの目安となるネバネバも全くなく、また内臓もしっかりしている(胆嚢も割れていない)という、見るからにかなり新鮮な個体。今回は煮付けに。少なくとも身離れは悪くない。身質も基本的に悪くないが、少々パサつく感じはある。最大の欠点は、とにかく旨味が余りにも少ないことで、長めに咀嚼しても残念ながら煮汁の味・旨味以外をほとんど感じない。「アイナメに比べるとやっぱり美味くないなぁ」というのが現時点での個人的な(そして家族の)感想。北の漁港で水揚げ直後、あるいは活け〆の極めて鮮度の高い個体を食べたら印象が変わるだろうか?

【注】2000年発行の「日本産魚類検索」(中坊編)では、カサゴ目カジカ亜目アイナメアイナメ属となっている。

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本エントリーの初稿に掲載していた北海道産の個体から摘出した標本は、元の魚が「スジアイナメ」であった可能性が出てきた(ただし今から再確認は不可能)ので、本改訂をもって「お蔵入り」とさせて頂きます。

(03/08/13 全面改訂)