新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

61: マタナゴ

スズキ目ベラ亜目ウミタナゴウミタナゴ
学名:Ditrema temminckii pacificum Katafuchi and Nakabo
英名:Temminck's surfperch [原](但し「ウミタナゴ」1種とされていた時の英名), Japanese surfperch

神奈川県城ヶ島における釣りもので、体長約18cmの個体から摘出した左右の標本。これまでに紹介したウミタナゴ科の「魚のサカナ」に共通した特徴は、烏口骨の『嘴』部分が途中で折れたかのように非常に短いこと。ただし、「真鱮(タナゴは魚へんに與)のマタナゴ」はオキタナゴのものとは異なり『嘴』先端部が内側に曲がらない。また烏口骨の下縁はギザギザになるが、この部分の形状は個体間はおろか、左右の標本間でも異なっている(本稿末の「追加情報」の写真も参照)。烏口骨の上方突起(『背鰭』)部先端は細く針状に突出。肩甲骨孔は丸い。



従来は1種とされていた「ウミタナゴ」だが、2007年に「ウミタナゴ (Ditrema temminckii temminckii Bleeker)」「マタナゴ (Ditrema temminckii pacificum Katafuchi and Nakabo)」「アカタナゴ (Ditrema jordani Franz)」の3種(正確にはウミタナゴとマタナゴは亜種関係)に再分類された【参考文献】。そこでまずは「日本産魚類検索 第2版」を開き、1)背鰭は9棘21軟条、2)尾鰭先端は尖らない、3)臀鰭基部は黒くないという形質から旧分類の「ウミタナゴ」へ辿り着くことを確認。更に【参考文献】に記載された「同定の鍵」を辿り、5)体の背側が青みがかかる、6)眼の下に2本の黒色斜帯がある、7)鰭棘条部の遠位域に黒色帯がある、8)背鰭および臀鰭の基部後縁は相対する、9)臀鰭基底に黒線がない、10)前鰓蓋骨の後縁に三日月形の暗色斑があるが、その前側には斑点がない、11)腹鰭の第1棘と第2棘の間の鰭膜に黒い線があり、腹鰭全体が黒っぽいなどの形質を確認し、更に12)神奈川県産(亜種であるウミタナゴは関東および中部の太平洋側には生息しないとのこと)であることからマタナゴと判断した。

2011年8月に職場の関係者から標本摘出用に提供してもらったもの。塩焼きにしたところ、身は少々柔らかいが上品な旨味があって美味。


【注】「日本産魚類検索 全種の同定 第2版」では、ウミタナゴ(当時は1種扱い)は「スズキ目スズキ亜目」として掲載されているが、現在では「スズキ目ベラ亜目」に変更されている模様(Joseph S. Nelson「Fishes of the World, 4th Edition」(2006) )。ただしベラ亜目の単系統性に関しては異論も多いとのこと。

【参考文献】Hiroshi Katafuchi and Tetsuji Nakabo, Revision of the East Asian genus Ditrema (Embiotocidae), with description of a new subspecies., Ichthyol. Res. 54: 350-366 (2007).


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本エントリーの初稿で紹介していた愛知県篠島産の個体(2009年8月に釣り上げたもの)から摘出した「魚のサカナ」。烏口骨の『背鰭』部分先端の細い突起が折れてしまったのか確認できない。

別の機会に静岡県焼津産の体長20cm弱の個体(2010年秋に釣り上げたもの)から摘出したもの。この標本では烏口骨の『背鰭』部分先端の細い突起が確認できるが、その位置は少々低め。


(2/16/12 全面改稿および写真追加)