新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

114: シマウシノシタ

カレイ目カレイ亜目ウシノシタ上科ササウシノシタ科シマウシノシタ属注1
学名:Zebrias zebra (Bloch et Schneider)注1
英名:Blend banded sole [原], Zebra sole, Striped sole

先日のエントリーで、アカシタビラメ(カレイ目カレイ亜目ウシノシタ科イヌノシタ属)は進化の過程で胸鰭および肩甲骨/烏口骨(要するに「鯛のタイ」)を完全に失ってしまっていることを紹介した。ところが図鑑などを見ていると、科名に同じ「ウシノシタ」という名前が付くにもかかわらず、『ササウシノシタ科』に属する魚の一部は現在でも胸鰭(もしくはその痕跡)を有していることが分かる注2。となると、このような魚の「魚のサカナ」はどうなっているのか気になるのが人情というものだろう。

ということで、今回はササウシノシタ科のシマウシノシタをご紹介。シマウシノシタは、有眼側に並ぶストライプ(横縞)が大きな特徴で、地域によってはツルマキ、シマガレイ、ゲタなどの別名で呼ばれている(学名も「ゼブラ」)。有眼側には長い軟条(鰭から放射状に広がる細長い構造)からなるそこそこ立派な胸鰭が、また無眼側には有眼側よりも短い軟条からなるほぼ痕跡状の胸鰭がある。

上の写真はシマウシノシタ(抱卵したメス個体)の「魚のサカナ」が存在するはずの部分を、擬鎖骨(アーチ状の骨)および胸鰭の軟条がついたままで摘出したもの。左が有眼側、右が無眼側。胸鰭は、擬鎖骨にしっかり結合した『四角形の軟骨』に結合していることが分かる。

胸鰭の軟条の根元にあって、反対側が擬鎖骨と繋がっていることから判断して、この『四角形の軟骨』は少なくとも射出骨と肩甲骨が融合したもの、即ち退化しつつある「魚のサカナ」であると考えるのが妥当であろう注3。ただし『四角形の軟骨』に烏口骨に相当する部分も含まれているのか、それとも烏口骨はこの種に至るまでに既に退化してしまっているのかは全く不明。もっと多種のササウシノシタ科の魚を調査すれば何かが見えてくるのかも知れないが、実際問題として個人レベルではなかなか難しいところで、、、ちなみにアカシタビラメのところで紹介した論文には、ササウシノシタ科では「後擬鎖骨、肩甲骨、烏口骨、および射出骨は完全に消失し、胸鰭は擬鎖骨後方の小さな骨(注:これが上の『四角形の軟骨』のこと)に直接結合している」と書かれている。

有眼側を拡大。『四角形の軟骨』に肩甲骨孔(「魚のサカナ」の「目」に相当する部分で、鰭を動かすための神経や血管が通る)のようなものは見られない。とすれば、胸鰭を動かす神経は一体どこをどのように走っているのだろうか?また『四角形の軟骨』は1枚の平板状になっており、複数の部分から構成されているようにも見えない。正に謎だらけ。

無眼側を拡大。肩甲骨孔が見られないことをはじめ、『四角形の軟骨』の特徴は有眼側と同じ。

両方の『四角形の軟骨』を擬鎖骨からペリペリっと外した状態。この後アルコール処理をしたら、脱水されてシワシワに収縮してしまった。

上の写真はシマウシノシタの裏表。

胸部から上のアップ。赤丸が有眼側の胸鰭。

今回はムニエルで食してみた。身が厚いのでアカシタビラメよりも「食べ出」はあるが、熱を通すと食感がブリブリになってしまうことと、旨味が少々薄いことから家族にはアカシタビラメの方がより評判が良かったのは事実、、、とはいえシマウシノシタも決して不味い魚ではないし(というより普通に美味い)、特に真子(卵)は旨味もあって非常に美味。八王子総合卸売センター内、高野水産で購入。

(7/26/10 改稿)

注1:2000年発行の「日本産魚類検索」(中坊編)では、亜目名はなく、学名がZebrias zebrinus (Temminck and Schlegel) となっている。

注2:ちなみに「ウシノシタ科」の魚は左向き(ヒラメと同じ)、「ササウシノシタ科」の魚は右向き(カレイと同じ)である。

注3:アカシタビラメの擬鎖骨を良く見ると後端部中程に「小突起」があるのだが、興味深いことにその場所は、シマウシノシタで『四角形の軟骨』が結合する領域に相当しているように思われる。