新・魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑(引越中)

いわゆる「鯛のタイ」の写真集

218: ツマグロカジカ

スズキ目カジカ亜目カジカ上科カジカ科ツマグロカジカ属
学名:Gymnocanthus herzensteini Jordan and Starks
英名:Black edged sculpin [原]
地方名:ギスカジカ(ただし標準和名ギスカジカとは別の魚)、チチビツカジカ、ギシカジカ、トラカジカなど。

新潟産の全長約25cm(体長約21cm)のたっぷり抱卵した雌個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。この魚の同定に関しては正直混乱している(下記参照)ので、今回は「チカメカジカ(近目鰍)」もしくは「ツマグロカジカ(褄黒鰍)」のどちらかということで話を進めさせて頂く。全体に軟骨質であること、大きな肩甲骨孔の開いた三角形に近い肩甲骨の上に第1射出骨と第2射出骨のほとんどの部分が乗ったような形になっていること、これらの巨大な射出骨が肩甲骨/烏口骨間に入り込むような形で両骨を分断していることなど、基本パターンは同じカジカ科に属するギスカジカオクカジカのものと共通する。ただしこの「魚のサカナ」では、肩甲骨孔が非常に大きく、また肩甲骨前方の擬鎖骨と結合していた部分が大きく前側に突出し、特に『頭部』上方が非常に曲線的であることなどが特徴として挙げられる。写真右は、写真左の左側の標本を反対側から観察したところ。

上の拡大図をさらに拡大したもの。写真左は「魚のサカナ」の『頭部』側。第1射出骨に開いた孔は比較的大きい、逆に第3射出骨の孔は非常に小さい。写真右は烏口骨本体部。孔が開いているのを確認できる。

「魚のサカナ」を摘出した個体を横側からと腹側から。


外見や体色からツマグロカジカではないかと予想しながら「検索」を開始。1)体側下部に斜めの鱗列がない、2)頭部背面は小骨板によって被われる(写真中段右)、3)鋤骨にも口蓋骨にも歯がないことからツマグロカジカ属の魚、即ちツマグロカジカ/チカメカジカ/アイカジカ/ハゲカジカ/セビロカジカであることが確定。ここから、4)眼隔域中央域のみが骨質板に被われ周辺部は円滑(写真中段右)、5)胸鰭に数本の太い黒褐色帯がある(写真下段左)、6)尾鰭が浅く湾入する(写真下段右)、7)眼上皮弁がない(写真中段左)ことを確認し、ツマグロカジカであると判断。尚、本稿の初稿では鰭条数の相違などからチカメカジカの可能性も指摘していたが、当時撮影した写真と『日本産魚類第3版』に記載された計数形質を比較したところ、ツマグロカジカと判断しても大きな問題はなさそうであった。

第1背鰭(左)は11棘、第2背鰭(右)は14軟条。

臀鰭(左)は17軟条。前鰓蓋骨の棘の最上方/最大のものの背縁の角状突起は3本(右)。


魚喜日野店で購入。雌ばかり3匹のパック(「新潟産かじか」表記)だったが、腹の中は巨大な卵巣で溢れんばかりという状態。身の方は開いてから数時間立て塩に浸け、トレイの上に乗せ冷蔵庫の中で2日ほど乾燥させた「干物」に。これを焼くと、フグの干物のように身がブリブリになる。上品な旨味もあって美味。卵は塩をして数日冷蔵庫で熟成し、タラコのように焼いてみたが、何故か少々豚肉のような(?)風味がある(小学生の息子の言葉を借りれば「ソーセージみたいな味がする」)。個人的には美味いと思ったが、連れ合いは「これは苦手」なのだそうで。

これで卵巣3匹分。

【注】この成熟卵は北海道ではギス子やカジカ子と呼ばれ、普通はイクラのようにしょうゆ漬けにして食べられるそう。